8 死闘
後をつけられていることに気づいてない冒険者風の男。髪は後ろで束ねられており、どこかの民族を思わせるような飾りがついていた。
そして印象的だったのは、腕に赤い刺青のような痣があることだった。
半ば酔った状態でふらふらと人間街へ向かおうとする赤痣の男。
それを後から追う、同じく冒険者風の男。こっちは赤痣の男と違い、その身なりに特徴的な部分がない。
強いて言うならば、服こそ質素だけれどどこか清潔感を思わせるところか。
ここに来る冒険者は、私にとって汚いと思わせる人ばかりだ。
しかしこの男はそんな冒険者に混じっていても損なわない清潔感があった。
どうにもちぐはぐだ。
アリの群れにハチが混ざったような、そんな感じ。
その男は今、腰に収めてある短刀に手を伸ばしていた。
襲う気だ!
男が短刀の柄に触れた瞬間、赤痣の男が殺気を放ちながら振り返った。
「あんた、俺っちを殺す気だな?」
「やはり、気づかれるか。その赤痣……、お前も例の『罪人』か?」
「ほお、俺っちの他にもこのスキル持ってるやついるんだな。そいつあ困るなあ。それじゃ俺っちだけの世界が作れねえなあ」
赤痣の男が小さく「転生教のルールがわかってきたぜ」と漏らす。
私はその言葉にどこか聞き覚えがあった気がする。
そうだ、私を前世で殺した男の言葉。
転生教。
つまり、コイツは私を殺した犯人の仲間?
っていうことは、赤痣の男は私にとって悪い人!
私は勝手にそう決めつけた。
「『罪人』は皆、どこかに赤い痣があると聞く。そして強力なスキルを持っているとも。その力を使い、悪事を働いていなければ特に関与することではないのだが、先ほど酒場で判別の水晶を使ったところ、お前だけが朱に染まった。お前、人を殺しているな?」
「へえ、そんな水晶があるとは驚きだ。そんな危険なモン持ってるやつは始末しなきゃならんなあ」
直後、赤痣の男は土煙だけを残してその場から消えた。
遠目で見ている私だけが認識できた。
赤痣の男は一瞬で男の上空へと移動したのだ。
男は辛うじて抜き放った短刀で上空からの攻撃を受け流す。
なんという反射神経だろう。
普通の人ならあれだけで一撃必殺だったはずだ。
「あんた、やるなあ。『速度の罪人』である俺っちの攻撃を防ぐたあ、並の人間じゃできねえよ。褒めてやる」
「お前のような悪人に褒められても、名前に傷がつくだけだ。反吐が出る」
「そいつはどうも、俺っちは生粋の悪人なんでね。そんじゃ、この攻撃は耐えられるかな」
またもや赤痣の男が姿を消す。
今度は後ろだ!
気配を察知したのか、男はすぐさま後ろを振り返る。
しかしそこには既に砂煙が。
「馬鹿めっ!」
更に後ろに回り込んでいた赤痣の男が切りつける。
不意を突かれてしまった男は左肩に大きく傷をつけられてしまった。
「やはり、厄介だな。『罪人』というやつは」
「はっはー。それは仕方ねえよ。最強の速度を誇る俺っちの前じゃ、あんたらただの人間は雑魚。俺っちの目からすりゃどんなに速く動いたところで止まって見えるもんよお」
なんという恐ろしい男だ。
これが冒険者の戦い。いや、違う。これは異常だ。
何度かスキル化のために冒険者の後をつけていったことがあるけど、ここまでハイレベルな戦いをしているところなんて見たことがない。
見て来た冒険者は、確かに強いと思わせる者たちばかりではあったが、人間の域を出たものじゃなかった。
しかし、赤痣の男は目にもとまらぬ速度で動いている。
物理法則を無視したような動きなのだ。
そのあり得ざる速度は人間の域をとうに超えてしまっていた。
だが、男はその速度に反応出来ていた。
この男も相当な手練れであることは確信できる。
男はポーチから取り出した瓶の中身を左肩にぶっかけた。そうすると、左肩は淡い光を放ちながら傷を塞いだ。
回復ポーションだ。
だが、回復ポーションは止血するだけで失った血は戻ってこないうえ、肝心の体力も回復しない。
応急手当に過ぎないのだ。
「首狙ったつもりだったが、少しずれちまったか? まあいい、その調子じゃ直ぐに俺っちの刀の錆にできる」
「ふん、そう簡単に殺されてたまるか」
今度は男のほうが駆けだした。
男は太ももに隠していた短刀を数本投げつける。
しかし赤痣の男は一本一本丁寧に避ける。その避け方も動きが全く見えないほどの速度だ。
赤痣の男が短刀を避けている最中に男は次の段階に入っていた。
腰の短刀をもう一本引き抜き、両手に短刀を持つ形で赤痣に切りかかる。
流石に近距離では分が悪いと判断したのか、赤痣の男は高速で後ろに後退る。
その背後に壁が当たる。
「チッ。めんどくせえ。その程度で粋がってんじゃねえぞ」
赤痣の男は再度、高速移動を開始しようとして。
「……え?」
男の近くで真っ二つに切れた。
胴体と足で二つに分かたれた赤痣の男は、それ以降一言も発することなく息絶えた。
その周辺では空中になぜか赤い血が滴る様子が見えた。
ワイヤーだ。
そのワイヤーは壁に突き刺さった短刀と男の持つ短刀とを繋げていた。
つまり、あいつ自身がその速度でワイヤーに突っ込んで死んだということだ。
凄い。
男のなんという対応力。
常人ならば最初の切り合いで既に死んでいたはずの戦いなのに、たかだか数手でこの強大な敵を打倒するだなんて。
男は、短刀に滴ってきた血を拭い、腰にしまう。
そして、
ものすごい殺気を放ちながら。
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