4 サキュバスの能力

母さん……フラムのお母さん。本名はリュミエール。サキュバス街から街はずれの丘に家を建てている。時折、丘のところまでサキュバス仲間が遊びに来ることがあり、その時はフラムは皆からもみくちゃにされる。曰く、「かわいい」。


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翌日。

私は再び家の庭に出てきていた。もちろん魔法を母さんから教えてもらうためだ。


魔法を行使するのに、庭なんかでやっていいのかとも思ったが、私の住んでいるこの家の周りには何もない。

母さんは普段、夜にサキュバス街で働く。男から精と金をいただくお仕事だ。

だから、普通のサキュバスはサキュバス街の裏手に居を構えることが多い。シェアハウスが一般的ともいえる。


しかし母さんはそんなサキュバスたちと違い、少し街から離れたのどかなところに家を建てている。

なんでも、最初はサキュバス街に住んでいたが、父さんと出会ったこの場所が気に入って買い取ったそうだ。

その父さんは私が生まれた時には既に鬼籍に入ってるし、この異世界に写真なんてものはないから、私はその姿を見たことがない。


話を戻そう。

つまり、周りに本当に何もないから、何をやっても周りの迷惑にならないのだ!


私は母さんに言われた通り、炎の渦をさらに捻りだして爆炎を出す。

それは、水をかぶったカカシすら一瞬にして蒸発させた。


「ずいぶんと成長が早いのね。フラムは文字を覚えるのも早かったから天才だとは思っていたけど、もうすでに私と同じくらい魔法が使えるじゃない」


今私が使ったのは「火魔法」ではない。

これは「火魔法」の応用でさらに上の「火炎魔法」、そのフレアという魔法だ。


「いや、これは母さんがしっかりと見せてくれたからできたんだよ」


魔法は、一度自身の目で見て反芻しなければ使えない。正確には使えないことは無いが、ヒントも無しにパズルを解くようなイメージと言えばわかるだろうか。


一度魔法を見て、その魔法の形を覚える。自身がその魔法を使える領域に達して初めて行使できるというものだ。

こういう段取りで魔法を習得しなければならないので、たくさんの魔法を覚えるにはたくさんの魔法を見る必要がある。


しかし、魔法は「スキル化」していないとそもそも見ていても使えることはできない。


①見よう見まねで魔法の根幹を発動

→②魔法を行使できたことにより『ステータス』にスキル化

→③魔法を習得

→④魔法を見て学び、扱えるようになる


といった運びだ。

つまり今私の『ステータス』には「火炎魔法」という文字が記載されているのだ。

「火炎魔法」のフレア、いやあ、威力高いね。

すべての属性の魔法にはいくつか段階があるそうだ。


「火魔法」は「火炎魔法」に。

「水魔法」は「水冷魔法」に。

「土魔法」は「大地魔法」に。

「風魔法」は「暴風魔法」に。

「光魔法」は「聖魔法」に。

「闇魔法」は「暗黒魔法」に。


この他にも、6大元素をもとにたくさんの魔法の派生がある。そのほとんどが、何かの条件を満たしていなければスキル化できないとされている。


サキュバスは「火魔法」の派生にある「淫魔魔法」というのが使えるらしい。淫魔、つまりサキュバスにしか使えない魔法だ。

私は使えるのだろうか。


「よーし、それじゃ淫魔魔法を覚えてもらうよー」


どうやら覚えさせる気らしい。

「淫魔魔法」は「火魔法」を習得しないと派生しない。

私は既に「火炎魔法」まで習得できたので、「淫魔魔法」も習得できると判断したらしい。


母さんは待ちに待ったといった風で小躍りしている。母さん的には本命の講義なのだろう。

なんか嫌だなあ。これ使えるようになったら、本当にサキュバスって感じになりそうで。


「淫魔魔法はね、相手がいないと使えないのがほとんどだからー。今日はフラムちゃんに対して使っていくよ。最初は気が動転しちゃうかもだけど、頑張って覚えるのよ」


母さんは私に顔を近づけると、視線を合わせてきた。

その縦長の瞳孔は私をじっと見つめる。すると、その瞳が怪しく鈍く輝きだした。


頭がぐわんぐわんとする。

なんだろう、これ。

頭がぼーっとする。

なんだから身体がぽかぽかし始めた。


あれ、母さん?

なんで母さんがすんごく美人に見えるんだろ。

もとからナイスバディーだったけど、今はそれよりもはるかに魅力的に見える。


ああ、母さんを抱きたい。

なんだろこの気持ち。

おんなじ女性なのに。


私はそこでハッとし、目を咄嗟にそらした。

そうかこれが淫魔魔法。


どういう理屈かはわからないけど、なんとなくどんなものか分かった。

今度はこっちの番だよ、母さん。


私はもう一度母さんに見つめ直すと、目に魔力を集中させた。

相手を魅了、相手を魅了。

その間も母さんからの魔力を流れ込んできて、意識が持っていかれそうになる。

しかし私は負けず嫌いだ!

私の力を見せてやる!


一気に魔力が流れ出すのが判った。

それには母さんもびっくりしたようで、慌てて視線を切られてしまった。


私は、息もぜえぜえ言いながら『ステータス』を参照する。

見事、『ステータス』に「淫魔魔法」が刻まれていた。


「なに……、今の。凄い魔力」


母さんは、胸の動悸を抑えているようだった。心なしか、耳と頬が赤く染まっていた。

「淫魔魔法」がしっかりと発動できたようだ。


「あなた、やっぱりサキュバスの素質があるわ! 母さん、うれしい」


母さんは私に思いっきり抱き着くと、優しく頭を撫でまわした。

なんだか照れくさいけど、母さんに抱き着かれるといい匂いがして安心する。


でも母さん、お尻を撫でまわすのは止めてもらえる?


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フラムの『ステータス』

「火魔法」「火炎魔法」「堕天」「淫魔」「淫魔魔法」「飛翔」「痛覚低減」「耐寒」

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