エイハブ・ライルト公爵の日記2

●月●日


息子アレンの誕生パーティーは、始まる前から波乱なものになると、城にいる誰もが確信していた。

それはそうだろう。至る所に氷のオブジェや大理石の彫像があるのはまだいい。いや、一晩で急に表れた事を考えるとよくはないのだが、もう葉も落ち切ったはずの木が濃い緑を取り戻していたり、絨毯の代わりに雲が敷いてあったり、果てはテンションの上がりすぎた光と闇の精霊が、普段仲が悪いのに、お互い腕を組んで城の中をスキップしながら、白と黒に光る謎の玉を浮かして飾り立てているのだ。誰も普通のパーティーになるとは思っていないのも当然だ。


当事者のアレンだけが無邪気に精霊と遊んでいるが。

妻のサンドラに聞くと、最近のお気に入りの遊びは、石粒の精を握って振り回す事らしい。石粒の精も健気なもので、アレンが投げ飛ばしても戻ってくるし、口の中に入れられそうになると、すぐに実体を解くらしい。

感謝するべきなのだが、城中に大理石の像を作ったのは彼等だろうと確信しているから、ちょっとだけ文句も言いたい。その見事な出来栄えに、掃除をするメイドたちが、壊したらどうなるのかとビクビクしているのだ。


明日いよいよパーティーだが、一体どうなる事やら……。



●月●日


疲れた



●月●日


昨日のパーティーは最初から大変だった。

司祭が逃げ出した件があったにも関わらず、すっかり精霊がいる事に慣れてしまった我々は、この城の魔力の濃さを忘れていたのだ。そのため招待客は一体城に何があったのだと、腰が引けてしまった者達が多数出てしまった。


外でそれなのだから、中ではさらに大騒ぎだった。貴族は殆ど魔法的素養に優れる者ばかりだから、城の内装に精霊が加わっているとすぐに見極められるため、一体どうやってこれ程の数を準備したのだと驚愕していた。一部では流石公爵家のパーティーだと感心していたが、私だってこんなになるとは思っていなかったと言いたかった。


更に更に、パーティー間近だと興奮しすぎた闇と光の精霊は、スキップどころか全力疾走で城の中を走り回っていたため、多くの者に見られてしまった。そのため、その大いなる力に当てられてしまった者は、腰が引けるどころか、腰を抜かしてへたり込んでしまったのだ。幸い2人は、アレンの傍にいてくれと言ったらすっ飛んで行ったため、パーティー会場に招待客が来れないという事態は避けれたが、まだ始まっても無い事を考えてため息が出てしまった。


だが意外な事に、パーティーが始まると精霊たちは非常に大人しかった。精々が、寒くもなく食事や人に当たる前に消える、小さな雪が降っただけだ。どうやら主役はアレンだと思っていた様だ。

問題は、その主役であるアレンが、人の多さに怯えるのではなく、興奮してあちこち飛び回った事だろう。ただ浮かぶだけでなく、最近は速さも手に入れたアレンは、サンドラの腕から抜け出すと、会場中を移動し始めてしまい、慌ててアレンを運んでいる風の精霊に呼びかけても、アレンの術に応えてるだけだし、楽しんでいるならいいんじゃないかと、予想通りの答えが返ってくるだけで、最上位の光の精霊が呼びかけるまで、アレンは会場中を飛び回っていた。


私の息子である公爵嫡男が飛び回っている光景に、招待客たちは唖然としていたが、それが誰かの魔法での演出ではなく、アレンが直接精霊を術で使役していると分かる熟達の者達は、飲み物を噴き出すわ、グラスを落とすわ、叫び声を上げるわで大騒ぎになってしまった。まあ、アレンが天才だと広がるのは嬉しいが、パーティーの主催者としては非常に苦労した。カーテンの隙間に佇んでいた闇の精霊に、肩を叩かれたほどだ。


だがまあ、アレンのお祝いは出来たしよかったよかった。

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