サンドラ・ライルト公爵夫人の日記
●月●日
息子アレンが生まれてから、私の実家の伯爵家から始まり、大小様々な貴族から、お祝いの手紙と品が届いているが、当の息子は勿論よく分かっておらず、今日も精霊様達にあやされて笑っていた。
他の貴族は乳母に任せる所が多いらしいが、初めての子供であり愛した夫との子でもあるため、なんとか乳母を頼んだ女性と協力してアレンを育てているが、この子は夜泣きが酷い様で、最初は酷く疲れた……
いや、疲れたのはアレンの夜泣きのせいではない。
アレンが最初に夜泣きした夜は、雷は落ちるわ、吹雪になるわ、突風が起きるわ、極めつけは城全体が強烈に光るのと真っ暗になるのを繰り返すわで、それはもう大惨事だった。
下位の精霊様と意思疎通すると、どうやらアレンを泣かしている外敵が、城に侵入したと勘違いしたようで、城が点滅したのも光と闇の精霊様が、城の辺り一帯を索敵した結果だったようだ。
だがそのせいで、それこそ外敵が侵入したと勘違いした城の兵達と、魔法の素養のある者とは顔馴染みが多かったため、自由に動き回って、アレンが泣いた原因を取り除こうとしていた精霊様達で、城内は大騒ぎだったようだ。
私が直接知らないのは、私の部屋でアレンが夜泣きした途端、部屋の壁と扉を土と木の精霊様が、土と根や蔦で補強し始めて、出れなくなったためだ。
その後すぐに、慌てた様に光と闇の精霊様が訪れて、私に、あまりに高位すぎて意思疎通出来なかったが、多分何があったのかと尋ねられたが、おしめかお腹がすいたのだろうと言うと、お顔が無いから変な表現になるが、ポカンとしたようになられていた。
いや、御二人だけでない。
壁を補強していた精霊様や、集結しつつあった他の精霊様方も、えっ?という雰囲気になられ、それが伝わったのだろう。城内の混乱も急速に収まったようだ。
その後面白かったのだが、アレンがどうやらお腹がすいている様だというと、部屋の精霊様達が一斉に部屋から出て行ったのは、気を効かしてくれたのだろうが、今でも思い出し笑いしてしまう。
今ではアレンが粗相しても、闇の精霊様か光の精霊様がおしめを取り換えて下さり、言葉は通じないけれど、夜は寝ていろと言って下さっているようだった。
だが当然そんな事を偉大な精霊様にさせる訳にもいかず、何とか思いとどまって貰おうとしたが、どうやら私を気遣ってくれているのもあるようだが、アレンの世話をしたくてたまらないらしく、どうか夜だけはと言っているようであった。
ただ一度だけ、どちらがアレンのおしめを変えるかで、お二人が喧嘩をしたことがあるが、それを見たアレンが泣き出してしまい、その時はお互いに肩を組んでやり過ごし、以後は順番でアレンのおしめを変えている。
●月●日
夫がおっかなびっくりにアレンを抱き上げると、床には雲と風の精霊様が集まり、夫が落とさんわと言っているのが可笑しくて笑ってしまった。
いや、アレンを笑わせようと、夫の口髭にこっそり付いていた、雲の精霊様のせいかもしれない。
●月●日
司祭様がアレンの祝福に来られたが、この城の精霊様の密度に、恐れ多くて自分では入れないと仰られたので、城の外へ連れて行こうとしたら、精霊様方も付いてこられたので、司祭様は逃げるように去ってしまった。
そのため、夫が困ったぞと言ったのを聞いていた精霊様方が、それなら自分がと全員が立候補され、夫も困りつつも司祭様よりも精霊様方が祝福された方が、アレンの見栄えもいいのでお願いすると、やはりというか、誰が祝福するかで大揉めとなり、アレンの大泣きで騒動が収まった結果、なんと全員で祝福しようということとなり、アレンは前代未聞の祝福を受ける事となった。
●月●日
アレンの首が座り、抱き上げるのもそれほど心配せずよくなったが、それでも夫はおっかなびくりで、雲と風の精霊様も相変わらずだ。
●月●日
アレンが這って動くことを覚える前に、浮いて移動する事を覚えてしまった。
執務の合間に来ていた夫が、部屋を出て何処へ行っているのかが気になったのだろう。ゆりかごから浮き上がったアレンが、そのまま夫に付いて行こうとしたのだ。
最初は風の精霊様が浮かせたのだろうと私達は考えたが、話を聞くととんでもない事に、精霊使いの術としてアレンに使役されたらしく、無分別な子供と分かっているが、別に城が壊れたり誰かが傷付く訳でもないので、素直に浮かせたらしい。
夫はアレンが天才だと無邪気に喜んでいたが、這ってでの移動でも目が離せなくなると聞くのに、浮き始めた子供の事を考えると、これからが思いやられる。
●月●日
アレンの移動だが、それほど思い悩む必要はなかったようだ。
あの子が浮くのは、どうも誰かに抱っこしてもらいたい時だけのようで、私と夫、それか乳母が近くにいるときだけ、腕の方へ移動して来る。
たまに光か闇の精霊様がアレンの進路の前に立ち、アレンを抱き上げているが、あの子もそれで満足しているようで、特に泣くこともない。
●月●日
かなり特殊で初めての子育てであったが、なんとかこなせている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます