精霊の子育て……の周りの日記!

福朗

エイハブ・ライルト公爵の日記

●月●日


異常事態だ。


この城の周囲で、石粒の精や木の葉の精、水滴の精がいたのはまだわかる。まあ、あまりよく無いが火の粉の精もよしとしよう。火事にならないといいが……。


だが雪の精や、雷の精が現れたのはどういうことだ!?直接見てなかったら絶対に信じなかったぞ!雪の季節なんかとっくに終わってるし、今日は晴れてたんだぞ!一体どこから現れたんだ!?


絶対に何かが起こっている。大いなる精霊がこんなに姿を現すなんて、何か異常事態が起こったからに違いない。そうでなければこんなことは起こらないはずだ。原因を突き止めねば。



●月●日


絶対におかしい!


身重のサンドラの様子を見に行こうと思ったら、彼女の部屋の前で、光の精霊と闇の精霊が取っ組み合いの喧嘩をしていた!しかも人型だったんだぞ!いったいどれほど高密度になれば、希少な光と闇の精霊が人型になれるのだ!?


あまりにも強力過ぎて、その精霊たちが何を言っているか理解できなかったし、私を見るとすぐに霧散したが、私の妻に何かしようものならこのエイハブ、絶対に許さんぞ!


幸い、サンドラは昼寝をしている最中だったため気が付いていなかったようだが、城の警備を見直さねば!



●月●日


原因が分かったかもしれない。


サンドラが少し散歩したいと言ったので、城の中庭まで一緒に出て行くと、精霊たちが一斉に集結したのだ。


木の葉や石粒が、つむじ風や大岩になるのはよしとしよう。だが火の粉の精!燃え盛って炎の精になるんじゃない!火事になるわ!


その後、集結したことによって少し精霊としての位が上がり、意思疎通しやすくなった精霊たちに問うと、どうやらサンドラのお腹にいる、まだ見ぬ我が子の様子が気になって仕方ないらしい。


意味が分からん。

まだ精霊との契約も、魔力のまの字も分からん、産まれても無い赤子が気になって仕方ないとは、どういうことだ?


だが妻と子供に何かしようとするなら容赦せんからな!



●月●日


雲の精の馬鹿野郎!どうやって空から降りてきやがった!


雨を降らすのが仕事だろうが!子供が気になってじゃねえ!覗き屋に転職したのか!


おかげで空が落ちて来ると大騒ぎだ!どうしてくれる!



●月●日


サンドラが、この精霊たちの大騒ぎを面白がってるのが唯一の救いだ。

我が妻ながらなかなか図太いというか。



●月●日

あの精霊ども!

今日という今日は頭にきた!


そろそろ暖炉を使うかと思ったら、既に城の暖炉には火の粉の精がうろうろしているし、中庭の木も枯れ始めたかと思ったら、下に溜まっていたのは落ち葉の精どもだった!


しかも人型の光の精と闇の精はまだ城の中にいたようで、夜なのに城の中が明るいと思ったら、光の精があちこちに歩いて明かりをともしていたわ、朝にカーテンを開けたら、闇の精霊がびくっとしてその場にいたわで、城の中は精霊どもに乗っ取られる寸前だ!


お前ら大いなる精霊だろうが!手持ち無沙汰になってるんじゃねえ!仕事でも探してるのか!



●月●日


使用人たちが困惑している。

それはそうだろう。魔法の素養が無い彼等は精霊を見る事が出来ない。


だから厨房の竈に勝手に火が付くのも、知らないうちに水瓶がいっぱいになっているのも、怪奇現象そのものだ。


この前は晴れているのに雷だ。


幸い出て行くものはいないが、このままではお化け城と言われるのも時間の問題だ。



●月●日


どこかから聞いていたのだろう。

医者が、そろそろ子どもが生まれるだろうと言ったその日、中庭では落ち葉の精が輪になって回っていたし、雪が降ってないにもかかわらず雪だるまが置かれ、仲の悪い光の精霊と闇の精霊が肩を組んで喜びあっていた。終いには私にそのまま親指を立てる始末だ。


まあ、祝ってくれているのは悪い気がしなかったが。



●月●日


だからって俺とサンドラの部屋に押し入っていいとは言ってねえ!



●月●日


陣痛



●月●日


神々よありがとうございます!

息子だ!



●月●日


サンドラと名前を考えなくては。

だが精霊どもがわいわいと、好き勝手に名前を言い合っている。


親の特権なんだすっこんでろ!



●月●日


決まった!アレンだ!



●月●日


あの精霊ども!何が順番は守れだ!俺は父親だぞ!好きな時に我が子を抱いて何が悪い!


しかし本当に可愛らしい。目に入れても痛くは無いとはこのことだ!



●月●日


アレンは天才かもしれん!


産まれたばかりなのに、どうも精霊が見えているかもしれん!

目線がどっちがアレンを抱き上げるかで喧嘩していた、光と闇の精霊に釘付けだった!



●月●日


眠っているアレンの頬に木の葉の精がペタリと、小さな掌の中には石粒の精が、火の粉の精が寒くない様にとほんの少し温度を上げ、水滴の精がアレンの唾液を取り除いていた。


おもちゃと乳母か!


サンドラは楽をさせて貰っていると喜んでいたが、あいつら甲斐甲斐しすぎる!

自分達でアレンを育てるつもりじゃないだろうな!?



●月●日


雲の精霊がアレンの布団代わりとなっていた。

間違いない。あいつらアレンを育てるつもりだ。

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