第12話 悪役令嬢と異文化 夕実視点

しんみりしてしまった空気を和ませようと、家に着いてからアンネちゃんに隠していたある物を見せる。女の子と言えども、好き嫌いに分かれるある物だ。蒼からは、アンネちゃんに何てものを、と言われるかもしれない。


私は、今でこそ乙女ゲームを嗜んでいるが、その前にはBLゲームを嗜んでいたので、その手の漫画をアンネちゃんに貸してみる。


アンネちゃんと私は好きな物が似てるからいけるかな。



アンネちゃんは、こちらの思惑通り、見事にハマってくれた。本質は少女漫画と変わらないから当然と言えば当然だ。


「アンネちゃんのいた世界には、こういう娯楽はないの?」


「ロマンス小説があるけれど、こういう絵がついたものはないわ。しかも、こんなに、美しい物は。」


私がアンネちゃんに勧めたのは、オタク仲間を増やしたかったからだったけど、少し余計な知識を植え付けたことを反省しなくもない。こう言った趣味嗜好は際限がない。


今後蒼との交流において、重大な障害となる可能性もある。私はその可能性を知りながら、欲に負けてしまった。そうなってしまったら、ちゃんと謝ろう。


アンネちゃんは、ポロポロ涙を零しながら読んでいる。本人は気がついていないのか、泣きたい時にちゃんと泣くのは、大切なことだ。


泣きたくても泣けないよりは、泣ける時に泣いている方が良い。


アンネちゃんは薄々感づいている。私がどうして学校に行かないのか。聞きたいだろうに聞かない。聞かれたところで、答えるのは困難を究める。私自身がよくわからないのだから。


蒼が帰ってくるまでにプリンを作ろうかと思ったのだが、今日は異文化交流に時間を割くことにした。


アンネちゃんは頑張りすぎだ。少しぐらい楽をしたっていい。これなら蒼も反対しないだろう。息抜きの仕方については、言及されるかもしれないが。



アンネちゃんと暮らしてから、アンネちゃんは自分で服が着られるようになった。着られない服はここにはないから。来た時に身につけていた服はどちらかと言うと、こちら寄りの制服みたいだし。


アンネちゃんによると、学園の図書館にいた時に魔法陣が足元に現れたようなので、抵抗する術もなく、あっという間に転移したらしい。


それならば、反対に向こうから召喚をされたら、アンネちゃんはまた向こうに戻ってしまうのだろうか。


アンネちゃんを一人にはさせないのは勿論、私か蒼がそばにいたら、阻止できるようなものなのだろうか。


私はアンネちゃんと同じ歳だが、夢みがちではないつもりだった。けれど、もし乙女ゲームの世界に行けたなら、私はどうするのだろう。アンネちゃんの世界に行くなら、既にヒロインの役はとられてしまっているため、こちらと同じようにアンネちゃんのサポート役をやりたい。元のゲームから外れているのはどうやら聖女も同じようだし、アンネちゃんだって予想外のアクシデントにそうぐうしてることもあって、イレギュラーが今更増えたところで問題はない筈だ。


聖女を名乗る平民はゲームでは、王国で神官長に選ばれる。そして、修行を行い聖女となる。そして悪役令嬢に疲れ果てた王子と恋に落ちる。


そのはずが、聖女は選ばれたわけではなく、急に自分から聖女と言う肩書を出して、大騒ぎしたらしい。神官長は困惑しながらも、一旦教会で預ると決めたのだが、王子に会わせろだの、喉が渇いた、お腹が空いた、イケメンを拝ませろ、と理不尽な要求ばかりらしい。


これは、多分今ラノベ界隈を賑わしている転生者ではないか。聖女が転生者なら、アンネちゃんに危害をくわえようとする?


聖女様の相手は王子の役目だから、王子との間に溝ができ始める頃なのかな?


どちらにしろ、ヒロインや王子にはアンネちゃんは私達に任せて、お引き取り頂きたい。アンネちゃんに似合うように蒼を強くします ので。


今の蒼には、アンネちゃんに釣り合う良さも強さもないけれど、それよりも王子に負けないアンネちゃんを想う気持ちがある。


もし、自分がアンネちゃんの召喚に間に合わないなら、蒼にお願いするしかない。アンネちゃんを陥れようとする敵の目をごまかせるかもしれない。


話を知っているのは私だけど、力は微々たるものでしかない私より蒼が一緒に行ってくれたら良いのだが。


私が暇を持て余して考えたことが、フラグでしかないことに今は気づかなかった。

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