第7話 悪役令嬢と乙女ゲーム
アンネちゃんはゲームの中の人らしい。何を言ってるんだって?いや、もう最初からおかしいことばかりなのだから、これしきで驚かない。
異世界から女の子を召喚しているのだから。今更それが、ゲームの中の世界だとか言われても、頭が働いてはくれない。
しかも、夕実の誘導により、アンネちゃんのいた世界のゲームをアンネちゃんがするという凶行に及んでいる。
アンネちゃんは、王太子ルートでの悪役令嬢であり、他の人のルートに進んだ場合は、王太子と結婚するが、王太子ルートに入ると、不穏な最期を送る不憫なキャラだ。
夕実曰く、悪役令嬢を扱った漫画やラノベもあるので、アンネちゃんにはそれも読んで貰いたいらしい。
元の世界に帰った際に、楽に生きられる、と勧めていたが、多分オタク仲間を増やしたいだけだ。
アンネちゃんはさっきから顔を顰めたり、戸惑ったりしながら、ゲームを進めている。
「王太子様ってどんな人なの?」
夕実が合間に聞いていく。
アンネちゃんは、ゲームの手を止めて、考えていたが、意外な答えが返ってきた。
「優しい方だと思うわ。正直、王太子殿下としてのアラン様しか知らなくて、アラン様自身がどんな方なのか、私わかっていなかったみたいだわ。」
アンネちゃんは、ゲームの中の王太子と、実際のアラン様の印象が異なるのか、曖昧な言い方になった。
「他の人は、認識あるの?会ったことある?」
「会ったことはあるわ。まあ、お兄様は当然だけど、アードラー様や、ホルム様は、何度か。ただアードラー様、ホルム様は親しくはないので、噂程度にしか知らないわ。」
「お兄さんは、どんな人?」
「少々気難しい方よ。真面目で誠実な方。昔は、よく一緒に遊んでくださったのだけれど、最近はお忙しいみたいで、あまり普段もお会いできてないわ。」
兄のことを話すとき、アンネちゃんは少し寂しそうな表情をした。
「アンネちゃんがいなくなって心配してるだろうね。」
俺だって今急に夕実がいなくなって、どこに行ったかわからないとなれば、心配でたまらなくなる。
考えただけで、ゾッとする。
お兄さんにも誠心誠意謝ろう。丁重におもてなしいたしますので、ご安心を。念じる。お兄さんに届いてくれ。
急に祈り出した俺に夕実が怪訝な顔をする。
「何やってんの?」
「お兄さんに、大丈夫ですよ。って念じてる。」
夕実は呆れた顔をしたが、アンネちゃんは、こちらを向いてお礼を言ってくれる。ぱあっと花が開くような笑顔を見せてくれる。
可愛いがすぎる。
何故かお兄さんに平謝りしたくなった。
何でだろう。
アンネちゃんは乙女ゲームをやっていたけれど、予想以上にむずかしいらしい。夕実だとスイスイ進む選択肢でも、どうしてこんな考え方になるの?とか疑問が多いみたいだ。
アンネちゃんは生粋の貴族で、物心ついた時から公爵家のご令嬢として暮らしていたため、庶民の考え方がわからないらしい。
なるほど。
だからこそ、攻略対象が平民の女の子に骨抜きになってしまうのだろう。
俺からしたらアンネちゃんの方が絶対可愛いと思うが。
ゲームのアンネちゃんは、今のアンネちゃんよりキリッとしていて性格がキツそうに見える。今みたいに可愛いのではなくて、綺麗な印象だ。礼儀正しく、真面目な感じだ。対して主人公は、偶には悪いことしても良いじゃない、と言う無責任の塊だ。真面目に頑張ってきた人ほど、騙されてしまうのは仕方がないのかもしれない。
でも、これ、よくあるよね。少女漫画とかでもよくある。真面目な優等生が、不良に遊びを教えられて、ちょっとだけ冒険する、みたいな。
一介の高校生じゃないからだな。王子とかの立場なら確かに駄目だと思う。
もし、口車に乗るなら、婚約者にも同じことを言ってあげれば良いのだと思う。だって、大変なのは自分だけじゃないのだから。大変な思いをしてる自分の大切な人に、少し肩の力を抜いたら、って言うのをしたか、してないかの違いじゃないかな。
結局のところ、婚約者を大切にしない男達なのは間違いない。きっと主人公も同じ目に合うに違いない。
俺ならやめとけ、と言うね。浮気男は何度も繰り返す。
俺は浮気しようにも、恋すらしたことがないからわからないけれど。
アンネちゃんを見てると、婚約者の王子が、嫌な奴じゃなければ良いな、と思う。この可愛い女の子に苦労がないと良いなと思った。
俺が言うことではないし、アンネちゃんとは少ししか一緒にいないけれど、絶対にいい子だから、幸せになってほしい。
アンネちゃんは、最初こそ、ゲーム機の使い方がわからなかったようだが、既に使いこなしている。若い人は覚えるのが早いな。自分も若いくせに年寄りみたいな感想だな、と苦笑する。
アンネちゃんが本当にそうなるかはわからないけど、相手の手を見ておくことは悪いことではない。赤本みたいなものだ。傾向と対策は、完璧にしておきたい。
ここで、それができるのなら、この召喚にも意味があることに思える。
アンネちゃんを救えるのなら、何だって力になるよ。
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