第6話 悪役令嬢とチョコ
帰る前にカフェに寄ったものの、人が多くて座れるまで時間がかかりそうだったので、有名なチョコレートだけ買って帰る。
お茶なら家で飲めば良い。アンネちゃんが食べる物だから、と言いつつ、高いチョコレートを買った。美味しそう。
「何飲むー?」
「私、紅茶がいい。アンネちゃんは?」
「えーと、紅茶とコーヒーと、オレンジジュースとココアと、ハーブティーと抹茶ができるよ。」
「えー、では、私も紅茶で。」
じゃ、紅茶で。
「二人で茶葉選んで。」
一時期、夕実がハマっていた紅茶の茶葉がたくさんあって、用意をしている間に選んでもらう。
「アッサムがいいです。」
「はいよ。」
茶葉の違いはよくわからない。俺はダージリンが好きで、祖母は、アールグレイを好んだ。夕実はその日の気分でコロコロ変わる。
アンネちゃんの好みも徐々に知っていきたい。
チョコレートの箱を開けると、二人の歓声が聞こえる。俺は美味しければいいけど、やっぱり女性は見た目も可愛くないと嫌みたいだ。
どれが、何の味で、と盛り上がっている。
「二人とも好きなの選びな?」
俺はどれでも良い。二人が楽しそうに選んでいるのがほっこりする。
紅茶を少し高いティーカップに入れると、高級な感じになった。お店には敵わないけれど、古民家カフェみたい?にしたつもり。
紅茶は好みの味だったみたい。自分の心のアンネちゃんメモリーに入れる。アンネちゃんは、ミルクチョコレートとナッツ入りのチョコレートを選んでいた。メモメモ。
アンネちゃんは、紅茶の飲み方一つとっても、優雅。音は立てないし、上品だ。さすがご令嬢だな。対して俺達は、慣れないティーカップに悪戦苦闘して、ガッチャガッチャ音を立ててしまう。恥ずかしい。アンネちゃんに下品と思われないように音を立てないように飲もうと思った。
「アンネちゃんは普段何してるの?学校とかあるの?」
なんとなく高校生ぐらいかと思ったので、聞いてみる。
「私は、学園に通っております。貴族のみが通う学園です。」
「彼氏とかいるの?」
「彼、し、とは何でしょう?」
「恋人とか好きな人とか。」
「恋人はおりませんが、婚約者はおります。」
「えっ、婚約者……」
「ええ、王太子のアラン殿下です。」
お、王太子…
何も喋らなくなった俺に呆れながら、夕実はさらに話を続ける。
俺は途中からショックで聞いていなかった。
そうかー、そうだよな。あんなに可愛いんだしな。令嬢なんだし、婚約者もいるわな。
しかも、王太子。
俺なんかが気軽にアンネちゃん、なんて呼んではいけないよな。
先ほどまでの浮かれ切った自分の横面を叩きたい。
「アンネちゃんは、その婚約者の王太子様は好きじゃないの?」
「うーん。好きとはどう言った感情でしょうか。」
ん?
「え?」
「お恥ずかしながら、私、恋と言う物を経験したことがないのです。」
アンネちゃんの衝撃発言に固まってしまう。
夕実は、何故か頷きながら、俺の方を見る。
笑って親指を立てている。顔がうるさい。
俺が目を逸らすと、鞄を漁りだした。
「アンネちゃんにいい物を貸してあげる。」
夕実が取り出したのは、今はまっていると言うゲームだった。
所謂乙女ゲームと呼ばれるもので、恋愛を疑似体験できる代物らしい。
アンネちゃんは初めてみるゲーム機に興味津々だった。
「実はこのゲーム、アンネちゃんと同じ名前の人が出てくるんだよ。キャラの見た目もちょっと似てるの。まあ、主人公を虐める方なんだけど。」
夕実が熱心に、ゲームのやり方を説明している。アンネちゃんは頷きながら、説明を聞いていたが、ふと、キャラの説明を見て愕然とした。
「まさか、これは、予言のアイテムか何かですか?」
「アンネちゃん?」
アンネちゃんは、「そんな、まさか。」と小さく呟いたと思ったら、衝撃的な発言をした。
「この方達は実在します。」と。
「この方は、先程話した私の婚約者で、アラン王子。そして、こちらはアラン王子の側近の魔導師クリストフ・アードラー様。こちらが、第二騎士団所属の護衛騎士ディルク・ホルム様。そして私の兄であるグレイ・リーフ。
あとは、この、聖女と書かれている方ですが、似た方をお見かけしたことがございます。」
夕実と俺とを不安そうに見つめアンネちゃんは問いかける。
「これはどういった物でなぜ、私達を選んだのでしょうか。私をここに呼んだのも、この為だったのでしょうか。」
夕実は、驚いてはいたが、悪巧みを考えついたような顔で、ニッコリ微笑んだ。
「予言のアイテムとかでは無いと思うけど、いいからやってみて。帰るヒントが見つかるかも。」
夕実がアンネちゃんの口にチョコを放り込む。黙らせるためとは言え失礼だぞ。
アンネちゃんは突然の行動におどろいてはいたが、美味しかったらしく、微笑んだので、
まあいいや。
とりあえず、アンネちゃんは王子攻略から始めるらしい。それにアンネちゃんが登場するからだが、敵役なら、辛いことになるのでは、と予想していたが、案外面白いらしい。
夕実も一緒になって、楽しんでるみたい。
二人がゲームに夢中になっている今のうちに、庭に行き、今日買ったばかりの苗を植える。
綺麗に咲いたらいいなあ。
アンネちゃんに対する勝手なイメージで選んじゃったから、本人にいうと気持ち悪いと思われるかもしれない。
咲くまでは内緒にしておこう。
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