第15話 大塚の本心
「”結構面白かったなあ”」「"うん"…」
「"次はコーヒーカップに行くか"」「"うん"……いや、台本中断するけど無理じゃない?」
「だってジェットコースター乗っただけでコレだし…」「…正直、僕も怪しいと思う」
二人は至近距離で見つめ合っている。ただ、お互いの顔が90度曲がっているのだけども。
「やっぱり、三半規管弱いのは変わらないのね」「役になりきればイケるかと思ってたんだけど…無理だったな」「だから乗る前に"大丈夫?"って聞いたのに」「それは君の楽しんでいる姿を近くで見ていたかったから」「…それで見れたの?」「吐きそうになりながら見れたよ」
吐いたら彼女にかかるんじゃないの?という疑問をツッコむ奴はいないので、そこはスルーされる。…そんな事よりも今の二人の姿だ。ベンチに横たわっている川越の頭の下に大塚の太ももが置かれている。いわゆる”膝まくら”という羨ましいやつだ。
「とりあえず、しばらく休みましょう」「すまないな」「それぐらい問題ないわよ。時間も決められているわけじゃないしね」
二人は沈黙する。時間がゆっくりになって様々なアトラクションの喧騒やセミの声が遠くに感じられる。二人だけ別の世界に来てしまったみたいであった。
「……あのね、私って自分から考えて行動したことなかったなぁって、やっと気付いたの。ずっとあなたの言う通りにしてそれが当然だと思って甘えて…」大塚は自分の、ここ数日考えている事を口に出す。
「これからもそうするさ」
「…でも、それでケンカになった」「?」大塚の言葉に要領を得ない川越。
「私は私のやり方を探していきたいの。あなたに言われた方法だけでなく、私も考えたいの」
「…僕の考えに考えたやり方が嫌なのか?」
「いいえ、その考えに"私が"参加してないのが嫌なの」「え?」「私だって色々考えたいし、あなたと共有したいの」「いや、でもな…」
「私が何もしないで”お客さん”になって与えられているのは もうゴメンなの。だから、私の提案も受け入れてもらいたいの」
「提案?何かあるのか」
「あるわよ、それは…」
「もう、タワーのは降りてるみたい」久米はこれから乗る人くらいしか人がいない状況を見て、そう言った。
「ちょっと時間掛かったからかな…」日高は後悔していた。なんだかんだ話していたのと今いる場所まで距離があったのもあり、だいぶ時間が過ぎていたからだ。
「次、何だっけ?」「あ、えーと…ジェットコースター…?」日高はリュックから台本出して確認したが、さっきまでいたとこだった事に愕然としている。
「う〜ん、ちゃんと確認していたら良かったね…台本書いてる時もマップ見ながら何となく順番決めてたから覚えてなかったよ」
「僕が確認してればこんな事には…」「そんなこと言っても始まらないよ」「でも…」
「じゃあ、過去に戻れるなら戻ってみなさいよっ」「え…」「過去をやり直せるんならそっちのほうがいいしっ!でも、出来ないんだからここで止まってウジウジやってても先へ進まないじゃない?だったら、今から出来ることをやっていって取り戻すしかないでしょっ」
「…」
「さぁ、部長達を見つけましょ」「あ…はい」そうして二人は。元居た所へ引き返して行ったのだった。
「あっ、いた」「えっ、どこ?」久米と日高は、今度はその次と更に次のアトラクションの方まで見に行くと遂に二人を発見した。先に発見したのは頭一つ分 背の高い日高だ。
「ほら、あの突き当りを右に行ったとこに」「あ、いた」
「…あれはどこに行くんでしょうか?」「あのタコの…は通り過ぎそうね」
「台本だと空中ブランコがジェットコースターの次にあるからそこじゃないですか?」台本をすぐに出せるようにポケットに丸めて入れておいたのを開いて日高は言う。
「ん~、じゃああそこね…あれ?そこも通り過ぎてない?」「え?」久米の言う通り、二人は空中ブランコの前を過ぎて行ってしまう。
「おかしいなぁ…ここを通るならタコか空中ブランコのどちらかに乗るはずなんだけど」「何かあったのかな?」「う~ん、とりあえず追いかけてみよう」久米と日高はコッソリ二人を追いかけた。
「ここって…」追いかけた先に待っていたもの
それは
カタン、カタン
車が世に出てきたばっかりの頃の形に寄せたクラシカルな車でレールの上を走行するものだった。もちろん、速度は子供向けのゆっくりで高校生が楽しむには刺激が足りないはずである。だから、台本では外したのだった…が、二人は楽しそうに乗っていた。
その光景を久米と日高はお互い顔を見合わせて首を捻ったのだった。
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