第9話 出来る?出来ない?分からない
「という訳で二人が付き合うための作戦を考えようと思うわけなのよ」あくる日、久米は相談に来ていた。
「…なるほど〜、部長と副部長って二人でいる事多いし お似合いだよねぇ」お気楽な感想を述べる相談相手その一、狭山姉こと入間。
「でも、そんな事して大丈夫なんでしょうか…」不安そうな顔で疑問を口にする相談相手その二、狭山弟こと日高。
以上
この二人だけしか相談する相手がいない事に久米の交友関係の狭さを表している。
「いや、川越部長はあまりに認識してもらえなくて自信無くしているんだよ。私思うんだけど、色々部長の思い通りにやってきてコレだけが上手くいかないんじゃないかな。"好き"っていう言葉がLIKEから先にどうやっても進まないと嘆いていたし」
「それはなかなかキビシイねぇ」入間はテーブルの上にあるポテチ”海苔明太マヨネーズ(特価68円)”を左手でつまみながら右手でスマホの画面を撫でている。
うーんリラックス。
…って、ここ何処だ?
「急にお邪魔しちゃったけど、一緒に考えてもらえたらって思って…」都合良くその話題になったが、ここは狭山姉弟の家だ。何故ここなのかというとランニング関係ではあるが、いつもの公園に近いのと、今日は狭山の弟の方、日高と走るのでちょうどいいからだ。
「う~ん、大丈夫大丈夫。面白そうだからいくらでも恋のキューピットするよ。ねぇ、日高」そう言って入間は日高に話を振る。
「え?あ、うん」日高は何故かカラ返事する。
「ん?どうしたの?」気の抜けた返事に入間は眉を寄せてちょっと訝しむ。
「あっ!いや何でもないよっ」日高は慌てて取り繕う。
「アレ、顔赤くなってない?大丈夫?」日高の変化に気付いた久米は日高の額に手を…
「だ、大丈夫…です!」日高はピョーンと飛び退いて叫ぶ。
「?…ならいいけど」久米はよく分からなかったが本人がそう言うなら追求する理由はない。
「…ふ〜ん、なるほどね〜」一人、入間だけは何かを理解したようだった。
「じゃあ、とりあえずデートで雰囲気作って、最後に二人っきりになったところで告白って感じかなぁ?」
「う〜ん、多分そうじゃないかなぁ。やったことないけど」
「…」
入間のその言葉で3人は黙り込んでしまう。当然の如く誰もやったことなど皆無なのだからアドバイス出来る奴なんかいる訳が無いに決まっているじゃあないか。
「と、とにかくそういった感じで…いいよね?」このままだと皆、口を閉じた貝になってしまうので久米は先へ進める。
「…それじゃあ、デートっていったら…遊園地?」日高は恐る恐る聞いてみる。
「う〜んまぁ、ありきたりだけどやっぱそうなのかなぁ」「あ、私ジェットコースター乗りたい!」唐突に自己主張始める入間。
「いや、それは…」「姉さんが行くんじゃないんだからね、ダメだよ」身内だと強く言えるのか日高は久米が若干言い淀んだところにビシッと釘を刺した。
「いいじゃない、ケチー」入間はぶぅーと頬を膨らませて文句を言う。
「…」
「ん?どうしたの?久米っち」急に黙って固まってしまった久米に気付いた入間。
「あ…ううん、何でもない」久米はそう言うが、実際大したことはない。だって
”ツッコミを持ってかれた事にショックを受けた”
という本人以外理解しがたい理由で思考が停止していたというのが真相なのだ。とはいえ久米も自分のツッコミにそこまで絶大な自信がある訳ではない。ただ、この中では1番であると思ってはいた。それが1番不得意であろう日高がやってのけたのが衝撃的だったってだけ。
「…まぁ、あとは映画館とか お芝居とか?」久米は気を取り直し、候補を挙げていく。
「う〜ん、映画もお芝居もタイミングが難しいかな」「あ、そうなんだ」「映画は好みもあるけどまだ多少どうにかなる。でも、お芝居はホント劇団によって年1〜2公演なんてよくあるし」「ええっ!そうなの?!」入間からもたらされる事実に驚かされる久米。
「たしか、部長のよく観に行く劇団はそんな感じだったよ」「そうかぁ、じゃあお芝居は望み薄なのかな」
「じゃ、ちょっと調べてみるね」入間はスマホを物凄い速さで操作する。顔は割とノンビリしていて指だけ素早く動いている為、別の生き物のように見える。
「ん〜、やっぱり春に公演しているね」
「じゃあ、やっぱり身近な遊園地で行くとして…何乗ればいいんだろ?」
「それは部長達に任せればいいでしょ」
「いや、でも部長が良くても副部長が嫌だったらどうしよう」
「う〜ん、そこまで私達が決めることなのかなぁ?」
「「う〜ん」」
「とりあえず、飲み物お代わり持ってくるね」女子の会話に入っていけずに手持ち無沙汰だった日高はそう言って部屋を出る。
「…じゃあ、大まかに言うと遊園地で遊んで最後二人きりの時にドーンと告白って感じでもうアイラブユーしか思えなくすれば勝ちよね」
「勝ちって…久米っち意外とこういうの好きだね」
「好きっていうか、女子として生まれたからにはそういうことを知っておきたいじゃない?」
「まー分からないコトもないけど」入間はそう言うと久米の側まできて耳元で「もしかしたら久米っち近いうちに現れるかもよ」と囁いた。
「え?何が」久米は急に近づかれてビックリしつつ入間と顔を合わせる為に上半身を捻って聞くと、入間は何か含むようにこう言った。
「運命の人が」
「っくしゅん!!」割と可愛めな くしゃみをした日高。しかし、ジュースの入ったコップから顔を背けるようにくしゃみをする名采配をした為、そちらには被害が及ぶ事は無かった。
「あれ?何でか急に鼻が痒くなったんだけど?」少し鼻をすすりながら不思議に思う日高であった。
「というわけで、部長と副部長のデート大作戦を考えたワケなんだけど…」
久米はそう言うとノートに書いたメモを読み返す。
結局、大雑把な予定になった。書いたり消したりを何度かやった結果、大して具体化出来ないまま時間が経ってしまった。
「もっと調べていかないとダメかな〜。とりあえず走る時間だし、今日はこれぐらいで終わりにした方がいいよね」
「ん〜、久米っちマジメだねぇ。日高に走らせてサボっちゃえばいいのに」
「…それはヒドいというか何というか…でも、キツいけど楽しくなってきたのは確かかな。前は1周でもバテてこれを5周出来る気がしなかったんだけど、だんだん走っても疲れにくくなって5倍でもそんなに大変に思わなくなってきたんだよね。それにこのままいくとどこまでも走れそうな感じしてきてちょっとワクワクしてる」
「ふぅ〜ん、まぁツラくないんならわざわざ止めることないかな。じゃあ行ってらっしゃい」
「はい、行かさせてもらいます。じゃ、行こっ」「あ、はい」
「あっ、日高はちょっと待って」「え?」入間は突然日高を呼び止めた。
「お姉さんとちょ〜っとお話があるから久米っちは先行っててね」「え?あ、はい。じゃ、先行って待ってます」何かよく分からない久米はそう言って部屋を出て行った。
「あ、きたきた。何かあったの?」待つこと5分。図書館の方角からダッシュで公園に現れた日高は少しグッタリしているように見えた。
「あ、いえ…ちょっとアドバイスを…」「アドバイス?」「あっ、いや…あの前回久米さんを置いて行っちゃった事を注意されたんで…」「あぁ、そんなこと?あんまり気にしなくてもいいのに」「いえ、ホントすみません」日高は頭を下げる。こう真摯に謝られると困ってしまう。…とは言っても出会った時から久米が迷惑を被っているのは事実。
「う〜ん…あ、そうだ。じゃあ、スマホ持ってる?」「え?はい」「このゲームインストールしてみて」「えーと、これですか」日高は画面を見せる。
「そうそう、それインストールして」「はい…って何ですか?これ」インストールをタップしてダウンロードしながら日高は今さらになって聞く。
「普通にスマホゲーだよ、パズルのやつの。周りにやっている人が居なくて張り合いがないから誰かいるといいなと思ってたんだ」「そ、そうですか」
「妹も全然やってくんないし、クラスの人とはそういう話しないし、部活で先輩とやって関係悪くなったら嫌だし、あなたとなら同学年だから多少脅したりも出来るし…」「え…」
「コホン、まぁそういうわけでやってくれる?」片目を閉じて俯き加減で言う久米の言葉は誤魔化せているのかは分からないが、「あ、はい」と日高が応えたので問題は無かった。
「じゃ、お願いね」ガシッと久米に肩を掴まれた日高。それは指の関節を一つ一つ感じる程のしっかり具合だったと言い、風呂入る前に見たら手の跡が残っていたとかいないとかいう噂があったりなかったり…。
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