第8話 人生相談(答えを出すとは言ってない)

「いやー、部活でこんなに台本読んだの久しぶりだ」


その日の夜、時間いっぱいまで台本読んだ後に始まるニ周目の連添いランニングは また頭からなので部長の川越が担当する。


「やっぱり、読んでる感じじゃなくて自分の言葉にして言うことの素晴らしさを知ってもらえたのは収穫だったな。あんなに積極的にガンガン来るなんて…やはり私の目に狂いは無かった!久米君は実に有力な選手だよ。これからも君の感性を存分に発揮させて部を盛り上げて欲しい」上機嫌な川越は言葉がドンドン出てくる。


「…それにしても狭山弟はもうちょっと言葉をハッキリさせた方がいいだろうなぁ、少し聞きづらい。姉の方はリズムが一定で何言っても同じに聞こえるのが問題だな」今度は部室でも散々やったダメ出しを始めてしまう。


「久米君は経験が浅いとは言え口の動きが甘いな、ちょっと早口になると言葉がボヤける」


「はぁ…またダメ出しですか」「他人からの意見は参考になるぞ」


「でも、ソレされるとテンションがスゴく下がるんですよね…私頑張ったのにまだ頑張んないといけないの?って」


久米の苦情に川越は困ったように頭を搔き「う〜ん…それは慣れてもらわないとなぁ…まぁ、必ずしも全部直さなきゃいけないものでもないし、只のいち意見だから参考程度にするだけでいいのだけどもな…いや、何だったら私にダメ出ししてくれても全然問題無いぞ」と久米に何か求めてきた。


「川越部長に…ダメ出し?」「あぁ」川越は迎え撃つ準備は万全に見えた。


(というか…私から見ると部長にダメ出し出来るところって見当たらないんですけど…)久米は正直困ってしまう。彼は流石部長をやっているだけあって滑舌も良く、演技も自然で気になるところが無いのだ。


(…う〜ん、どうしよう。何か部長で気になるところ………あっ)


「部長」久米は衝動的に聞いてみたくなった。


「何だ」川越は何が来るのか心なしかワクワクしているように見える。


「川越部長って大塚先輩のコトどう思ってます?」


演技と全く関係ないやーん


だが、川越にはクリティカルヒットした。


「なななな何を聞いてくるのだね、君は」明らかに動揺している。こうかはバツグンだ。


久米は川越の今まで見せた事のない焦った言動に驚きつつ「いや、川越先輩と大塚先輩は幼馴染って聞いていたので、どうなのかなって」と久米も少し焦って言い訳気味になってしまう。


「そんなこt…いや、久米君には白状するか…私は大塚君とそういう仲になりたいと思っている」「ええっ!」薄々分かっていたつもりの久米であるが、つい驚いてしまう。しかし、


「だが、彼女は相当手強くてな…」川越は自嘲気味に語る。


「私のアプローチが悪いのか彼女が鈍いのか…全然気付く素振りを見せないのだ」


「それは…」久米は言いかけて思い出す。"幼馴染だから恋人として見れない"というのと ほぼ同じ意味合いの言葉を大塚が言っていた事を思い出したからだ。


「…正直、考えうる事はだいたいやったんだ。しかし、ここまでして彼女に振り向いてもらえないのなら…僕じゃ無理なのかなぁって…」ガラにもなく自信無く呟く川越。


「…いや、まだ無理とは決まってないハズです。諦めるのはまだ早いと思いますよ」その言葉が久米の心の底から自然と出ていた。それはこの間の大塚への”川越が迷惑ではないか”という問いに全然迷惑そうな顔を見せなかった事、時折二人が当たり前のように寄り添う姿を思い出すと、大塚は川越の事を悪く思っていない、むしろ近くに居るのを受け入れている。そんな感じが久米はするのだった。


そうなると大塚がちゃんと意識出来れば二人は結ばれるのではないか、そう思えた。


「でもな、もう何すればよいのか…」「まだ何か出来る事があるはずですよ。行くとこまで行っちゃいましょう!」


「行くとこまでって…どこまでだ?」川越は気になるところを聞いてみた。


「ストーカーで訴えられるまでです」久米は純粋な瞳で平然と言った。


「いや…そこまで覚悟しないとイカンのか…」


近いと思っていた幼馴染との距離の離れ具合にガックリしてしまう川越であった。

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