第6話 ここにきて部員紹介…的な

「…逆に聞くが、君はドラマやアニメの登場人物になりたいと思ったこと無いかね」


「え、そりゃあ…ありますケド」小さい頃、魔法少女とかに自分を重ねてチョイとイタい事をしたりした記憶が甦って懐かしいような穴掘って入りたいような…。


「それが実現出来るんだよ、舞台の上なら。それも色んな人になれる」


それは、演劇なんだから何となくそうだろうなとは思っている。けど…


「でも、限界がありますよね。テレビや映画みたいにCGなんか出来ませんから」プロジクションマッピングならあり得るかもしれないけども。


「そんなデジタルな後付け効果なんて必要ない。もっと言えば、何も無くたって成立するんだ役に入ればっ」川越は拳を握り語る。


「え〜?そ〜いうもんですか」「そ〜いうもんだよ」何とも実感の湧かない感じがする。


「まぁ、そのおかげで深夜やってるドラマなんかを見てて『お前ホントにそう思って台詞言ってるのか?』と思っちゃったりしてしまうがね」


「充実した人生ですね〜(棒)」


「ではそろそろ走るか…と、その前に」「?」「ちょっとこの場で走ってみてもらっていいかな?」


「?えぇ、まぁいいですケド…」久米は直径2メートルくらいの円を描いてグルグル回る。


川越は顎に手を当てつつ「う〜ん、やっぱり姿勢が良くないな、それに余計な所に力が入ってる」と分析した。


「いや…そう言われましても…」もう十数年このやり方なのだから今さら変えるのは面倒だ。


「ま〜そう言わずにダマされたと思ってやってみなって。まずはアゴが出過ぎてるからもっとアゴ引いて、腰も引けてるから おへそをもうチョット前に突出す感じに」


「こ、こう?」一応言われた通りにやってみる。


「まぁ、とりあえずそんな感じで走ってみてくれ」「えぇ〜〜っ」「さぁ行ってみよう」と川越は走り出してしまう。久米も慌てて追いかけるが、


(う、動きづらい…)身体の動かし方が物凄くぎこちない。


「ちょ、ちょっとぉ、これで走れっていうの?!」「そうだが?ま、最初だけでそのうち慣れるから頑張ってやってみんさい」久米の抗議に川越が止まって振り返り告げる。


「…」


(本当かなぁ〜〜〜…)久米はかなり疑いの眼差しを向けて渋々ゆっくり川越の後を付いていく。


公園内にランニングコースは設定されていないが、外周に近い所を回れば1キロ行くかいかないかぐらいか。ほのかに上りと下りがあるし、長方形の公園の中央に原っぱがあり、その両側に木々が植えてある為にそれなりに景色が変化するのでつまらないという事はない…が、やはり久米はあと少しで一周という所でスピードが維持出来ず失速してしまった。


「はぁ、はぁ…やっぱり無理だー」徒歩と変わらない速度になって久米は さっさと弱音を吐いた。


「よし、今日はこのくらいにしておこう」「え、いいの?!」いきなり開放されることに嬉しくて声が弾んてしまう。


「あぁ、慣れない体勢だっただろうし無理させたくないしな」「やったー」喜ぶも束の間


「とりあえず、今日の走り方忘れないようにしといて。次の部活の時に確かめるから」「え〜」「だって、昨日より長い距離ちゃんと走れたんだから忘れないでしょ」「え…」


(そうだっけ?)と久米は首を傾げるが「ここの公園の方が校舎より大きいからね。一周すれば校舎一周半くらいの距離にはなる」


そうだったんだ…


「ん?でも、昨日走ったんだからその感覚が身体に残ってて昨日より走れたっていう可能性…」「頑張ってくれよな」川越はいつもの笑みではあるが有無を言わさぬ雰囲気を纏っていて久米は黙ってしまった。






次の日


「よ、よろしくお願いします」「…いや、タメなんだからそんなに緊張しなくてもいいんじゃない?」久米は少し呆れと不安を感じつつコメントする。


今日の相手は狭山の弟、日高が務める。改めて見ると身長は久米の160センチ(少し高い方)でも見上げる程で多分180〜190くらいであろう。短髪で少し あどけなさが残っている顔、の下はそこそこガッシリしている。初対面の時にこんなのが物凄い勢いで迫って来たのだから久米が動けなくなるのも頷ける。

しかし初めてピンでの会話、だけど日高がオドオドしているので久米は少し気が大きくなるのはしょうがない。


「というワケでサボらない?」何がどういう訳なのか全くもって不明瞭なのだが、言いたい事は「やりたくない」ただそれだけである。


「えぇっ、でも部長が…」「いいじゃない」「いや…コレ」と言って日高の差し出した手のひらにはiPhoneSEよりもコンパクトなプラスチックで出来た薄い箱が乗っていた。


「…何コレ」「"GPS"って言ってました」「は?」「『これが無いと彼女逃げるだろう?』という事みたいです」ご丁寧に川越の口調を再現してみせる日高。流石は演劇部員といったところか。


「むう…監視されてるんじゃしょうがないわね全く、休めると思ったのに」「まぁ、慣れてくればそんなにキツく無いですよ」「本当に?」「えぇ」純度99.9999…%の混じり気の殆ど無い眼差しを向けてくる日高。対して久米は(う〜ん、この人ダマされやすそう…)と思ってしまったのだった。





更に次の日


「よろしくね〜」狭山の姉の方、入間だ。身長は日高より低いが久米よりは大分高い。170cmくらいあるのではないか。ボブカットなのもあってか姉弟よく似ている。二人を並べて聞かれれば問題無いけど、片方だけドンと出されて「どっち?」と言われたら答えに詰まる自信がある。


「よ、よろしく…」出会った時の衝撃のせいで久米は身構えてしまうが、物凄く気さくな感じで接してくるの普通の人という印象に戸惑って日高みたいな反応をしてしまう。


「じゃあ、早速…」「ちょっとちょっと…」「ん?どうしたの?」入間が首を傾げる。


「あ、いや…最初から飛ばしたりしない…ですよね」「?何言ってるの?」「いや、昨日そんな事がありましたので…念の為…」久米は相手の身内の事なので少し躊躇いつつ言う。


そうなのだ。昨日はのっけから日高が物凄い速さで駆け抜け一気に置いてかれてしまったのである。その後、日高が気付いて結局久米と同じくらいのペースになったのだけども、いきなりそうなるとは夢にも思わないからそんなに暗い道ではないけどスゴく不安になったのだった。


「そうなんだ…それはごめんなさいね。気が利かない弟で」普通に丁寧に謝られると流石に久米も恐縮してしまう。「あ、いえそんな謝らなくても…」「でもっ、私もやっちゃうんだけどねーーーっ」入間はそう言いながらバビューンと走って行ってしまう。


「えぇ…………」あっさり置いてかれる久米、急いで後を追いかける。


「ちょ、ちょっと!ちゃんとストレッチして下さいーーー!」



…いや、そうなんだけど…ツッコむとこそこか?




で、次の日


「…大塚先輩」「さぁ行きましょ」「あの、それは何なんでしょうか…」


久米は くたびれたような感じで大塚に問う。どう見ても大塚の服装は近所に散歩に来た人でこれから走る気配は一切ない。その上…


「何でチャリに乗ってるんですか」そう、大塚は自転車に乗っていた。形は いわゆるママチャリと呼ばれるカゴと荷台の付いたもので自転車屋さんやホームセンターなんかで1番よく見るやつだ。それにしても色が紫なんで人を選ぶカラーなのだけど、カゴと荷台が白に塗装されていて思ったよりお洒落だ。


「だって、こっちの方があなたを鍛えるのに向いてるから」


「いや、楽したいだけでしょ」「そうとも言う」久米のツッコミに大塚は悪びれもせず言ってのける。


「だって私は演者じゃないし」出た、いつものやつ。


「うぅ…」それを言われると弱い。しかし、同時に「何でこんな役割をしなきゃいけないんだ?」という思いも出てくる。半ば無理矢理に入部させられたのだから気に入らなければ出て行っても問題ないはずだ。


(でも、どうやったら波風立たせないで辞められるんだろう?)あんまり反感持たれるような辞め方は避けたい、学校でバッタリ会った時の気まずさを考えるとなかなか難しい。


結局、「とりあえず続けてチャンスがあったら辞める」という妥協案に落ち着くのであった。




「ほら、ファイトファイト」自転車で後ろから応援されながら走る。漫画かなんかで見た光景だ。…これ何てスポ根?



走る


走る


久米は、ふと思った。ついでに声に出して言ってみた。


「…大塚先輩は川越先輩のことうるさいとか面倒だなぁとか思ったことあります?」以前より呼吸は楽な状態で走れるようになったので喋るのも大丈夫なようだ。


「…う〜ん、そう言われると…どうなんだろう」自転車のタイヤの転がる音と僅かな風切音、そして久米の地面を蹴る音と息遣いにまみれて大塚の少し戸惑った返答が帰ってきた。


「分からないんですか?」「うん、昔からあんなだったしもう慣れちゃったわ」それじゃあ久米の参考にはならな…


「いや、大塚先輩と川越先輩は幼馴染だったんですか?!」


「幼稚園の頃からの知り合いの事を"幼馴染"というならそういう事になるかしら」「や、それ以外に思い当たらないんですけど…」


「う〜ん、何も特別なものなんてないし、当たり前にいるだけだって」


「それじゃあ付き合って無いんですか?」久米はチラッと後ろの大塚を見やるが、いつもの考えてそうで考えてなさそうな表情で一言「…考えた事無かったわね」「考えたコト無いんですか…」久米が即座に呆れたように言う。


「だって、殆ど毎日見ている置物に特別な感情なんて起きる訳ないじゃない」「置物って…でももったいないですって」「何でよ」


「幼馴染は欲しくてもどうにもならない人もいるんですよ」


「そんなに良いものでもないけど?」涼しい顔で(実際に自転車でランニングの速度で走っているだけなので暑くなることはないが)答える大塚。


「分かってないですね〜。幼馴染と言えば、毎朝相手を起こしに行ったりそのまま朝ごはんいただいて一緒に学校に登校して授業受けて下校して放課後家で遊んで…」「無いわよ」久米の妄想マシンガンをたった4文字で撃破してしまう大塚の破壊力たるや。


「そんなに一緒に居たら飽きるし、面倒くさいでしょ」只の妄想VS経験者では流石に久米も敵わない。


「まあ…おフロは中学校入るまで一緒に入ってたけども」


「…」(アレ?さっきの私の妄想よりそっちの方が難易度高くない?)


「そんだけ妄想出来るんなら演劇するときも役にも入りやすいかもね」


「そうですか?」「分からないけど」


いや!分からないんかい!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る