第39話

 練武祭が終わると、王立学院は再び通常授業へと戻っていった。

 だが、俺はうまく気分を切り替えることができず、なかなか本調子になれなかった。



「これが第一次百年戦争の契機となり……」

 歴史学の授業を聞き流しながら、窓の外を眺める。


 いつもならば前のめりで聞いてしまう戦争史すら、聞く気にならない。

 オタク男子にとって戦争史ほどの好物ないんだけどなぁ……。


 鉄鉱石と石炭の産地をめぐる、隣国との長期間にわたる戦争。

 休戦を挟んで蓄えた兵力をもって、英雄たちが繰り広げる決戦。

 中二心をくすぐられる内容ばかりですわ。

 そういえば、俺、信●の野望とか結構好きやったわ……。



 はぁ~。

 深い溜息のあと、俺は自然とつぶやいた。


「なんか新しいことを始めるか……」

 とにかく、武芸から頭を放したかったし、気分転換をしたかった。


------------------

 

 新しいことを始めようにも、何を始めたらいいのか……。

 物思いに耽りながら人混みに流されるように歩いていたら、大聖堂にたどり着いていた。


 王都に来たばかりの頃に足を運んだ大聖堂では、炊き出しが行われていた。

 下っ端聖職者らしき人達が懸命に炊き出しをし、そこに群がる多くの貧民。


 明らかに栄養価の少なそうな粥をありがたがっている様子を、俺はベンチに座りながら眺めていた。


「横、座らせていただきますよ」

「あんたは、たしか……」

「以前ご挨拶をさしあげたハマークです。随分とご無沙汰しておりましたが、ご健在のようでなによりです」


 全然健在じゃない!

 しかも、横に勝手に座るな!

 俺は内心イラッとしてしまったが、それは流石に口外しないで、かわりに無言になる。

 どっかに行ってくれ! そう思いながら。


「食い詰めた農民、遍歴職人や移民の成れの果て。それが王都に住む貧民たちです。彼らは生活に困窮して王都に来たものの、這い上がる機会すら与えられないわけです」

「そうなのか」

「なんでもワドーカ伯爵領では小麦の豊作が続き、食うに困る農民が減っているとか。結構なことです」

 

 なんか俺のバイオ炭のことを揶揄してそうだが、シカトを決め込む。

 シカトだ。シカト。



 だが、そんな俺をハマークさんはリリースしてくれなかった。

「もしお暇なようでしたら、明日の炊き出しにご協力いただけませんか」

 

 なんとも断りづらいお願いをしてきたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る