第35話
練武祭の前日。
俺は、久しぶりのオフ日にした。
さすがに前日までハードなトレーニングをしていたら、本番で実力発揮できないかもしれないので。
特にやることもないので、俺はグラウンドを散歩することにした。
翌日に向けて、観覧席が設置されていたり、屋台が準備されていたり。
広大なグラウンドを余すことなく使用した一大イベントだということが、よくわかった。
弓術や馬術といった俺が出場しない種目の会場を素通りし、剣術の会場で足を止めた。
そこでは、翌日に使う木刀や謎プロテクターが既に並べられていた。
会場に設置された石舞台の上を歩いて、どの程度の広さなのかを確認する。
歩数がどの程度なのか、踏んだ感覚なども入念に探る。
次いで、俺は適当な木刀を一本掴むと、柄頭に左手小指を添え、ゆっくりと振り下ろしをしてみる。
木刀に違和感はなかったので、支障なく使用できそうだった。
そして、石舞台の開始位置に立って中段に構えて、対戦相手をイメージする。
相手は、前世の俺。
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何度イメージしても、勝てない。
やっぱ、前世の俺、つえーわ。
あの域に達するまでに、一体どれだけの時間がかかるのだろうか。
集中力が切れてきたので、休憩しようと思った矢先。
声をかけられた。
「何をしているの?」
流れるような金髪に、整った容姿。声の主は俺の許婚だった。
「最終調整」
俺はそう答えながら、もとあった場所に木刀を戻し、クリスティ嬢に向き合う。
「そういえば、こうやって二人っきりで話をするのは初めてだね」
彼女は苦笑しながら言った。
「……そうね。結局待ちきれなくて、私から声をかけてしまったわ」
不覚にも、彼女の苦笑した表情はとても美しくて……、俺は目を奪われてしまった。
「ごめん」
今まで、彼女に対してどこか気恥ずかしさを感じてしまっていた。
だから、俺はロクに声をかけることすらできていなかった。
神聖童帝をこじらせまくった結果、とんでもないコミュ障に仕上がった俺。トホホ……。
「別に謝る必要はないけど……。明日は勝てそうなの?」
「勝てる」
俺は即座に断言する。
彼女はその美しい瞳を開いて、俺を見つめる。
「知らないのかもしれないけど、オリバー君は強いわよ」
「あいつは確かに強いが、俺よりは弱い」
「じゃあ、もし彼に勝てたら、一つご褒美をあげるわ」
ご褒美。
降って湧いたようなアタックチャンス。
俺は、勿論それに飛びついて、こう言った。
「完全勝利を君に約束しよう」
俺は、いよいよ負けられなくなった。
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