第29話

「入学式の開始まで少し時間がありますので、さっそくですが、皆さんには自己紹介をしてもらおうと思います」


 イライザ先生は、突然そう告げた。


 じ、自己紹介……だと……。


 趣味が、馬糞錬成とかジビエ自家料理とか炭灰製作とかは……NGだな。

 「前世が日本人のオッサンで」とかもNGだし。

 いや、そもそも趣味云々以前に、なぜ私服なのかを説明しないと……。

 

 やべえ。

 俺の素性、よう紹介できんわ。

 

 俺が自分の半生を振り返って悩んでいるうちに、次々と他の生徒が立ちあがって自己紹介を済ませていく。

 当然、俺は他人の自己紹介は完全に聞き流して、自分の自己紹介準備に集中する。


 そして、とうとう俺の番になった。


「ワドーカ伯爵家の嫡男メシヤです。趣味はアウトドアと読書です。王立学院に在学しているうちに、学生ベンチャーを立ち上げて経済的に自立したいと思っています。これからよろしくお願いします」


 クソ実家へのディスりを個人的には入れたかったが、そこは見送った。

 オブラートに包んだ自己紹介で、さらっと流した。



 俺が席に座ると、横の席の人の番になった。

 やっと落ち着いた俺は、横の席に目をやる。

 

 綺麗な金髪に、透明な蒼眼。透明感のある白い肌に、すらりと伸びた手足。

 バランスの取れた抜群のスタイルに、少しだけ女性特有の丸みを帯び始めた超絶美少女。


 ……あっ。これ……。


「メソケイ公爵家の三女のクリスティと申します。この由緒ある学院での皆様との出会いが、よりよきものとなりますよう祈念いたしまして、私からの挨拶と代えさせていただきます。皆様、とくにメシヤ様、今後ともよろしくお願いします」


 俺がかつて見た肖像画なんて比較にならないぐらいの美少女が、俺を見据えて、挨拶をしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る