第25話

 俺が初めての売上金を手にしてから、あっという間に二年半が過ぎた。

 クソ家庭のなかでハブられながらも、なんとか俺は成長し、十歳となる年の春を迎えた。


 この国では、貴族の子弟の場合、数え年で十歳になる年が一つの節目となる。

 王都にある王立学院に通い始める年齢だからだ。


 まぁ、つまり、俺も王立学院に通うことになったわけだな。


 父も、いちおう教育だけは受けさせる気持ちはあったみたいだ。

 もし通わせてもらえなかったら、俺は身の振り方を真剣に考えていたな。

 すでに自力で生きていけるだけの生活力は身につけてるし、子供に対して教育投資をケチる親など見限った方が良いから。



 そして、いま、俺は荷馬車に乗って、王立学院に向かっている。

 貴族の紋章入りの馬車に乗っているわけではないし、護衛もつけてもらえなかった。

 ……護衛をつけなかったがために、山賊とかに襲われたらどうするんだろう。

 身代金とか払う気もないから別にいいってことかな? 


 ノーザントースト号とサンダーサイレンス号の奇跡の配合(単なる馬糞臭いボロイ荷馬車)で街道を進んでいくと、特にこともなく領境に達し、父の治めるワドーカ伯爵領を出ることができた。


 俺が十年近く過ごした地域だったので、いろいろ感慨深くなるかと思ったけど、案外そういうこともなかった。

 思い返せば冷や飯しか食ってないし、庭師のトムさんや農家のマイクさんときっちり別れを済ませてきたからかもしれない。


 王立学院に通う五年間は、この地を踏むことはないだろう。

 そう思いながら、俺は手綱を手繰ったのだった。


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 荷馬車で街道を進み、二週間。

 道中、特に危険な目にあうことはなかった。

 見るからに金をもっていない(しかも積み荷がスカスカ)とか襲う価値もないってことかな。

 

 無事、王都に到着した。

 王都が近づくにつれ、行き交う人が増え、その盛隆を肌で感じていたが……。

 実際に目にした王都は、俺の想定よりもはるかに発展していた。


 さすがに一国の首都だけあるわ。


 東京にははるかに及ばない中世の都市なんだろうけど、田舎生活に慣れ親しんでしまった俺にはカルチャーショックが半端なかった。

 秋田に赴任して、数年ぶりに仙台に出張したときみたいな感じというか。

 ビッグシティーを肌で感じるとでも言えばいいのだろうか。


 行きかう多くの市民、そして彼らの身に着ける洗練された服装もそうだけど……。

 大通り沿いの商店には、見た感じ高価な商品がディスプレイされていて。

 活気あふれる売り子の声に、嗅いだことのない旨そうな料理の香りが至るところからしてくる。

 道路沿いには、石造りの四階建ての建物が林立し、人口の多さを感じさせる。

 そして、大通りを進む馬車が多すぎて、渋滞を起こしているぐらいだ。

  

 前世以来、久しく味わっていない感覚に、高揚してしまう。


 ワドーカ伯爵家が王都内に構える別宅にたどり着く頃には、都市のもつエネルギーにあてられて、俺は思わずクラクラとしてしまっていた。


 これからの王都での生活が、俺には楽しみでしょうがなかった。


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