第21話

 いつものように早朝に起きて、練兵場に行き、黙々と素振りをする。


 素振りを始めてから一年経過しているからか、だいぶこなれた動きができるようになってきた。

 前後のすり足に合わせてリズミカルに早素振りをしながら、腕の振りや身体の軸に問題がないか確認をしていく。

 まだまだ前世のピークには遠く及ばないが、それでも剣道っぽくなってきたかもしれない。


 早素振りで追い込んだ結果。

 俺はすぐに疲れて休憩をする。

 体力がそこまでついてないから、すぐに息が上がってしまう……。


 休憩をした後、騎士の一人に声をかけた。

 初めて練兵場に来たときに、俺に声をかけてきた人だ。

 名前は知らない。名乗ってくれないから。

 トゥーシャイシャイボーイな俺なので、積極的に名前を聞き出すことができない……。


「ぼっちゃま、今日も見事な素振りですね」

 この人、たまにヨイショしてくるんだよな~。

 こんなん、全然大したことないっすわ~。


「はぁ……。その歳でそれだけ振れること自体、末恐ろしいのですが……。」

「今日は頼みたいことがある」

「お手伝いできることならば、なんでも結構ですよ」

「乗馬を教えてほしい」

「はい、よろこんで!」

 騎士から寿司屋の板さんみたいな了を得ることができた俺は、乗馬を習い始めた。

 荷馬車だと気軽に遠乗りできないので、これはかなり助かった。


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 練兵場から屋敷に戻った俺は、久しぶりに義母バイ子に声をかけられた。


 僕ちん、てっきり、貴女に一生声かけられないと思ってたんですけど。

 屋敷の中でも露骨に視線を外してくる感じだったし。


 なにこれ、むっちゃ怖い。

 恐怖しか感じないでござる。

 前世の大作ホラー映画以上の恐怖感。

 スタート直後から、おしっこ漏らしそう。



「メシヤさん。貴方には、今後は離れに住んでいただくことになりました」

「はぁ?」

 素で聞き返してしまう。

 なんなんそれ。俺に何が起こってんの?


 なんでも俺が馬糞臭かったり、灰まみれだったり、獣の返り血で汚れてたり、屋敷のカーペットを土で汚したりしているのが、あまり良くないらしい……。

 他の子の教育に悪いから、少し距離を置いてほしいとのこと。


 

 さすがだ。

 このケチの付け方は想定しておくべきだった。反省。


 最近、良いこと多いから調子のってましたわ。

 長期間経過観察して、ファクトを積み重ねられてるから、これはなかなかに抗弁しづらい……。



 その日、俺は、クソ家庭において家庭内別居を果たしたのであった。

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