第98話地上で待ち受ける者
バールは良く喋る。
体力が低下しているのに歩きながら喋り続けるからすぐバテる。
助け出した頃に比べ食事は好きなだけ食べさせているから衰えた体力も回復しつつあるとはいえまだまだ本調子でないんだから黙って歩くことに専念すればいいのに…。
ゼーゼー肩で息をしながらも弱音を吐かずについて来るのは迷惑をかけまいと思っているのか、それとも本人のプライドか、はたまた育てられた環境が弱音を吐く事が許されなかったのか。
マインを出発し10日ぐらい経ったのか、やっと迷宮の入り口が見える所まで辿り着いた。
後半はかなりペースが上がったとは言え10もかかるとは…。
それにしてもバールに剣を持たせ1階層のスケルトンと戦わせたけど見事なほどに剣を振り回すだけで技術の鱗片すら見る事が出来なかった。
普通はいくらセンスが無くても数年ぐらい剣を教えたら最低限は扱えるようになるだろうけどバールはただ剣をがむしゃらに振り回すだけで型もへったくれもない。
カトレア、ルイーズさん、リーズも半ば呆れた表情でスケルトン相手に剣を滅茶苦茶に振り回すバールを見ている。
「剣技が身に付かないスキルかギフトでも持ってるのかしら…」
「いや、そんな残念なスキルもギフトも無いだろ…。 むしろ技術が身に付かない呪いの方が現実的だな…」
「そうですね、でも元々の体格は良さそうですし体力も筋力もありそうですから意外と格闘術は身につきそうですけど…」
三者三様に剣を無茶苦茶に振り回すバールを見ながら原因を好き勝手に推測してる。
確かに酷い言われようだけど実際に武術や魔法が身に付かない呪いでも受けてるんじゃないかと思うぐらい戦闘に向いてない。
これはもうセンスとかの問題じゃない気がする。
呆れた目でバールを見ていると、やっと無茶に振り回していた剣がスケルトンの頭部に当たり直後スケルトン崩れ落ち魔石を残し消滅した。
「はぁ、はぁ、はぁ…、倒しましたよ! やっぱり俺に戦いは向いてない、見ただろ? 小さい時から一通り武術も魔法も習ったけどどうしても身に付かないんだ…」
「もう勝手に呪われているという結論に達して納得しましたのでお気になさらず。 もうすぐ迷宮から出れますからとっとと外に出ましょう」
そう言いバールから剣を回収しアイテムBOXにしまうと、迷宮の外に向けて歩き出す。
迷宮の外で受付にバールの雇い主は死亡した旨を伝えると多少の質問があったものの特に取り調べを受ける事も無く解放された。
バールの話だと死亡したのがポーターだと取り調べ室に連れてかれあれこれと聞かれ、怪しい所があれば取り調べに数日かかる事もあるとの事だが今回はその逆なので特に問題なく幾つかの質問だけで済んだみたいだ。
「さて、迷宮の外まで送り届けたから後はご自由に…」
そう言い、4人で冒険者ギルドに向かおうとすると、バールは慌てたようにお礼の件があるからせめて宿の場所を教えてくれと言い出す。
「いや、宿はこれから確保するからまだ決まって無いし…」
「じゃあギルドに行った後、宿を確保するまで同行させてもらうよ」
うん、どうやらついて来る気らしい。
まあ良いんだけど、それにしても何故か大通りに人が多い気が…。
丁度昼時とあって席が空いてそうな店に入り昼食を頼むついでにウエートレスさんに最近何かあったのか聞くと、どうやらどこかの国のお姫様が護衛を連れてこの迷宮都市パダーリンにやって来たらしい。
それだけで大通りに人が多くなる理由が分からないので料理を運んで来た際にその辺も聞いてみた。
どうやらお姫様が迷宮都市に来たことが周辺の町や村に伝わり、お姫様を一目見ようと人が押しかけ、そしてそれを商機と捉えた商人などが集まり人が多くなっているらしい。
う~ん、お姫様の物見遊山か…、人が多くなると良い宿屋が確保出来なくなりそうだから困るんだけどな…。
それに迷宮都市の冒険者を雇い何かを探しているとの噂もあるみたいだし、なんか国家間の争いとかにならなければ良いんだけど。
そう思いながらも昼食をすませギルドへ向かい、死亡した冒険者の冒険者証を受付に提出して状況を説明する。
回収した場所が34階層という事、ポーターが生き残っていた事であらぬ疑いをかけられることなく、後日褒賞として冒険者ギルドに貯蓄していたお金の半分を貰える権利を行使する書面にサインをしただけで終わった。
「えらく簡単に終わったな~、もっと時間かかるかと思ってたのに拍子抜け…」
「そうね、本来ならもっと細かく聞き取りをされるんでしょうけど私達がこの迷宮都市に来る前に迷宮へ入った冒険者みたいだし、なにより生き残りが居るんだから詳細に取り調べする必要は無いと判断されたと思うわ」
「まあ何にせよ無駄に時間がかからなくて良かった。 じゃあ宿を確保しに行こう。 今日は宿で休んで明日は迷宮で手に入れた物を売りさばいたら一日が終わりそうだから、再度不足品を揃えて迷宮に入るのは早くても3日後ぐらいか…」
「カツヒコ、一旦出て来たんだから1週間ぐらいはゆっくりするわよ。 急いで攻略しないといけない理由は無いんだから」
カトレアの提案にルイーズさんもリーズも頷いているので1週間はリフレッシュの時間に決まったらしい。
その後、以前宿にした「吉原の夜」に行き部屋が空いているか確認をしたところ1部屋だけ空きがあるようなので即座に確保し1週間分の宿代を先払いしておく。
バールは宿を確認すると自分の自宅に戻り実家に手紙を書くと言って帰って行ったので久々のお風呂でも満喫しようと部屋に向かう。
それにしてもなんか鎧は着ていないけど兵士らしき人がドアの前に立ってる人が居るんだけどまさかここにどこぞのお姫様とか居ないよね…。
そう思いながらも部屋に向かうと、正面の方から数人の護衛を引き連れた女性がやって来る。
あ~、あれは完全にお姫様だ…。
周囲には姫騎士って印象を持たせたいんだろうけどどう見ても良いとこのお嬢様感丸出しだし腰の剣も宝石が散りばめられてるし。
まさか同じ宿に泊まってるとは…。
とりあえず揉め事は勘弁なので道を譲り通り過ぎるのを待つ。
流石お姫様だけあって礼節を弁えているのか、通り過ぎ際に会釈をされた。
んっ? なんか自分の顔を少し長く見ていたような気が…、ってそんな事は無いよね。
会った事ないし、初めて見る顔だったし。
ただ何だろう…、すれ違いざまに目があった瞬間、なんか不思議な感じがした。
何が不思議かと言われると上手く答えられないけど不思議な感じだ…。
うん、気のせいだ!!
知らない人だし、まさかお姫様が自分に一目ぼれって事もないだろうし。
早く部屋に言って風呂に入ろう!
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