第99話出会いは突然に

「ふぁ~~~~~」

風呂場に間の抜けた声が木霊する。

「やっぱり迷宮内の町とかにある小さな風呂より高級宿の大きな風呂の方が入った気がするな~」


自分1人しか居ない浴槽で湯船に浸かり独り言を呟く。

今日は迷宮を出てから大した事をしていないけどこうして迷宮の外にある高級な宿で食事をしゆっくりと風呂に入ると疲れが一気に吹き飛ぶ感じがする。

実際は疲れてないけど…。


それにしても晩飯の際にもどこぞの国のお姫様がレストランに来ていたけど、やっぱり何か変な感じがするんだよな…。

向こうもそうなのか自分をたまに見ていたような気がするし。

お姫様に知り合いなんて居ないし、まさか自分に一目惚れって事もないだろうし、よく分からん。

席が離れていたからお姫様と取り巻きっぽい人の会話は聞こえなかったけど時々声を潜めて話す仕草をしてたから物見遊山でこの迷宮都市に来たって訳では無いんだろうけど。

ってまさか迷宮探索をするとか?

いやそれは無いか…。

うん、分からん!!


いくら考えてもお姫様の目的なんか分かる訳では無いし、そもそも自分と関係ない事を考えるだけ無駄なので思考を辞めて風呂から上がる。

それにしてもカトレア、ルイーズさん、リーズの長湯には恐れ入った…。

レディーファーストのつもりで先にどうぞとは言ったけどまさか2時間も風呂に入ってるとは。

ルイーズさんが酒を持ち込み風呂で酒盛りをしてたのが原因だけど、自分が生きてるか確認で声をかけなかったらあと1~2時間は風呂を占拠していたんじゃないか?

女性の長湯って言葉があるけどそれは色々とケアをしたりするからであって、風呂で酒盛りをするからじゃないんだけど、ルイーズさんの場合は入浴の前に酒を取り上げないと…。


そうお思いながら身体を拭いて寝間着に着替えてベッドに倒れ込むようにして横になる。

やっぱ迷宮内にある宿のベッドや野営時と違い高級な宿のベッドは違うな。

「うん、寝よう」


そう独り言を呟いて目を閉じて思考を停止させるとそのまますぐに眠りについてしまった。


翌日、宿のレストランで朝食を済ませ、久々に魚を売りに行き、その後メレンの相場を調べた後でギルドでメレン採取の依頼が無いか確認する。

結論から言えばあるにはあったけど依頼料が相場の半分ぐらいの価格だったので一瞬売るのを辞めようかと思ったけど、カトレアとルイーズさんが依頼を受けてから、最低数量の5個だけをギルドに渡し依頼達成の結果だけを得ていた方が良いと言うのでアイテムBOXから5個程メレンを出して成功報酬を受け取った。


それにしても迷宮内には色んな場所があるからもっと色んな採取依頼があって、アイテムBOXに収納していた物で依頼達成実績を稼げると思ったんだけど、34層のメレンと更に下層にある果物や野菜などぐらいしかなかった。

しかも依頼書が結構古びているとこ見るとこれが俗に言う塩漬け依頼というやつだ…。

塩漬けの理由は依頼料が安いからじゃないのかな…。

実際、メレンをギルドの依頼料の1.5倍で買い取ってくれるって店があったし。


その後、ドロップした武器や防具、魔物から剥いだ毛皮などの素材を売りさばき不要在庫を現金に換える。

上層階は結構冒険者が多いから魔石ぐらいしか手に入らないからそんなに利益にはならないけど、25層を越えた辺りからはそれなりに獲物に恵まれたからそこそこの金にはなった。

それにしてもメレンを全部売るってカトレアが言い出したのには驚いた。

絶対に自分達の分とか言って半分ぐらいしか売らないで取っておくと思ったのに「全部売りなさい」とか言い出した…。

明日雨が降らなければ良いんだけど。

って思ってたらカトレア的には再度迷宮攻略に臨むからその時に再度メレンを採取すれば良いってだけだった。

うん、ごもっともです。


迷宮で得た物を売り払い、宿にしている【吉原の夜】に戻ると何か宿の入り口辺りに人だかりが出来ている。

「うわ~、なんかトラブルか揉め事でも起きてる感じだけどアレ無視して宿に入れるかな…」

「そうね、刃傷沙汰でも起きてたら厄介かもしれないけどそうでなければ無視しすればいいのよ。 衛兵も来てないから大した事じゃ無いんじゃない?」


確かに衛兵は来ていない、来てはいないけどまだ到着してないだけで現在現場に急行中とかの気もするけど…。

カトレアとルイーズさんはそんな事は全く気にしていない様子で人だかりをかき分けて宿の入り口に向かって行くのでリーズと共にカトレア達を追うようについき、人だかりを抜けるとそこにはバールとお姫様、そして取り巻きに加え何か偉そうに腕を組んでいるオッサンが居た。


「カツヒコってのは何処のどいつなの? 今すぐここに連れて来てください。 私は聞きたい事があるんです!!!!」

「だから何度も言っているだろう、俺はこの宿に居る恩人に礼をしに来たんだ、カツヒコ達が宿に居ないならどこかに出かけているんだろ、それよりも何でお前がここに居るんだ、それに親父まで!!」


「お兄様、そんな事はどうでも良いじゃない!! それよりもカツヒコよ! 私が生まれてから今まで探してた大罪人と言っても過言でもない人かもしれないんだから会って本物か確かめないといけないの!!」

「カツヒコが大罪人? 何を言ってるんだ、話を聞く限りカツヒコは樹の国にある田舎村出身の冒険者でフーレイゼと会った事もないはずだ、それ以前い城から出た事がないフーレイゼに何をしたって言うんだ」


「そんな事はお兄様に関係ないわ、それよりもカツヒコを連れて来てください!」

「だから宿に居ないなら出かけてるんだろ? それよりも親父が何で居るんだよ! そもそも国を出たらまずいだろ!!」


「それは問題ない!!! しっかりと留守を任せてきている、それに俺のフーレイゼちゃんに悪い虫が付かないように監視する方が大切だ!!!!」

「パパは黙ってて!! 私はパパが付いて来たことにも怒ってるけど今はカツヒコって人に会って確かめる事が先決なの!!」


うわ~、なんか宿の前で親子喧嘩してる。

しかも相手はバールの妹と父親みたいだから本当に良いとこのお坊ちゃんだったんだな…。

てかバールは自分よりは10歳ぐらい年上だろうけど。


ただ妹らしいお姫様と自分は同い年ぐらいで宿で昨日初めて顔を見ただけで大罪人と呼ばれるような事はしていない。

なんでそんなにカツヒコに拘ってるんだ?


そう思いつつもカトレア達に続いて兄弟の言い争いを無視して宿に入ろうとしたらバールに見つかった。


「カトレアさん、それにルイーズさんにリーズさん、カツヒコさん、待ってましたよ。 今出来るお礼は大したことありませんが実家から持ち出してきた魔道具を持って来たんです」


バールの声に反応してフーレイゼがこちらを向き睨みつけるように自分を見る。

マジか…、空気読めよ…。

そこは気づかないふりして声かけないのが普通だろ?

何で声をかけるんだ?


これだからお坊ちゃんは…。

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