第97話地上に向けて

話を聞いて分かったことは、どうやらパームはかなり裕福な家庭に育ったようで衣食住に困ることなく生活をしていたらしい。

ただ親の教育方針で剣技や格闘技、魔法、そして礼儀作法やらを毎日のように習わされていてそれが嫌になり家出をし昨年頃に迷宮都市へやって来たとの事だ。


剣技や格闘技、魔法の才能は無いものの父親譲りの体力だけは自信があったらしく、また趣味が絵画と言う事もあり将来は画家になりたいと思い、迷宮の中の景色を見る為にポーターとして冒険者に同行し迷宮に入っていたらしい。


家出の際には結構お金を持っていたらしく、迷宮都市内の集合住宅に家を買い、そこで絵を書き、新しい風景を探しにポーターとして迷宮に入る生活を繰り返していたら今回同行した冒険者パーティーがサヴェジゴブリンに殺され、運よくパームだけが生き残ったといった感じのようだ。


本人曰く、家出はしたものの、親との関係は悪くなく、実際連れ戻す為か居場所だけは把握しとく為か雇われて監視をしてる人が居たらしく、実家に帰れば相応のお礼が出来るとの事だった。


う~ん、眉毛に唾つけたらいいのか?

そもそも監視が居たんだったらこんな事にはなってないと思うんだけど…。

ってどうやら迷宮都市に入る前に監視をまいて来たらしい。


どんだけ迷惑な家出放蕩息子なんだよ!!!

いやそれよりも、この話を信じろと?

何か身分を証明出来るような物があれば信用も出来るんだけど、衣服は摑まった時のままで他に何もなく、集落の地下にあった物の中にもそれらしき物は無かった。


「うん、よくできた話だとは思いますが、何を証拠にその話を信じればいいのか…」

思ったことを口にしカトレアとルイーズさん、リーズの顔を見回すと、みんな同意見のようでヤレヤレと言った顔をしてる。


「ほ、本当だ、今は迷宮に入る為家に置いてきているが、家に行けば証明出来る物はあるんだ!」

「まあ本当だとしてですけど、さっき金貨2枚渡しましたよね? それで冒険者に迷宮の外まで護衛を頼んだらよくない?」


「そ、それはそうだが、君達に頼んだ方が安全と思ったからだ! それに助けて貰ってロクなお礼すら出来ていない。 おぅ…、親にもそう教えられているんだ! ここを出たら実家に帰りお礼を用意してくる。 だから俺を迷宮の外に連れて行ってくれ!!!」


すごい剣幕でそう言うと、今度はまた心配そうな顔でこちらを見ている…。

「カトレア、ルイーズさん、リーズ、どうする?」


「はぁ~、どうするってもなぁ~、あたしはどっちでもいいんだけど。 まあお礼って言っても期待はしてないしな…」

「私もどちらでもよいです」

「そうね、カツヒコが決めれば? どうせ回収した冒険者証をギルドに提出するには一旦迷宮の外に出ないといけないわけだし、どっちでも良いわ、一旦迷宮を出て仕切り直しても問題ないわよ」


う~ん、どっちでも良い、何でも良いって一番困る回答だよね。

奥さんに晩御飯何にする? って聞かれて、なんでもいいって答えるのと同じような気がする。


決定権を持つ自分にパームの視線が注がれる…。

「はぁ~、とりあえず一旦迷宮の外に出ようか。 これで後々恨まれることになっても嫌だし、後日行方不明報告聞いたら目覚め悪いし…」

「ありがとうございます!!!!!」


諦めた感じで迷宮を一旦出る決定を下すと、パームが自分の手を取りブンブンと上下させながらお礼を言ってくる。

いや、お礼言う以前に今度からは、迷宮内部の絵を書きたいがためにポーターするなよ!!


収入が得られるうえ迷宮内部を見て回れるからって言っても一歩間違えたら死ぬんだからさ~。


そう思いつつパームの顔を見ると、絶対に体力が戻ったらまた迷宮に入りそうな感じで見るからに反省の色は無かった。

うん、やっぱりマインの町に置いていこうかな…。


その後、マインに一泊し、翌日迷宮を出る為に上層を目指す。

それにしても体力が相当落ちているのによく喋る…。


喋れば喋るほど息が上がるのに、自分の生い立ちや絵の素晴らしさ、そして迷宮内部の造形美など、方で息をして呼吸が困難になるまで喋り続ける。

もうしゃべるなよ!!

毎回、呼吸困難になるたびに休憩してると迷宮から出るのに時間がかかりすぎるんだから!!


ただ、パームの生い立ち家庭の事情については、なんとなく理解が出来た。

本人の話が本当だとすれば、父親には複数のお嫁さんが居て腹違いの兄弟、姉妹が何人もいるらしい。

パームはそこ中の3男で家を継げる訳でもなく、また結婚と言っても父親が決めた相手の婿養子になる可能性が高いらしい。

更に父親の方針で兄弟、姉妹全員には自衛の手段として武芸や魔法、人前に出ても大丈夫なように礼儀作法等を小さい頃から習わされ、好きな絵を書く時間があまり取れなかったらしい。

家の外に出るのも制限されていたようで、いつも同じような風景ばかりを書いていた為、何かの折に外出し見た景色に見惚れ、もっと沢山の場所を巡り絵を書きたいと思ったことが家出した理由と言っても過言ではないらしい。

しかもトドメとして15年程前に妹が生まれたらしいけど、もう子供は諦めていたところに生まれた子とあって溺愛されるだけならともかく武芸全般に加え魔法にも長けておりかなり聡明だったらしく、自分ってこの家に要らなくない?

って思うようになったみたいだ。


優秀な妹に平凡な兄、確かに家出したくもなるよね。

自分の一番上の兄は愚鈍と言うか残念だけど、自分は出来ると思ってるだろうからこういう悩みは無いだろうけど…。


そういえばルミナ村の実家はどうなってるんだろう。

迷宮を出たら、また母さんに近況報告がてら手紙でも書こうかな。




「それにしても武芸や魔法を習ってたんならそこそこ戦えないのか?」

「いや~、どうもセンスと言うかなんというか…、剣も格闘技も魔法もからっきしなんですよ。 唯一誇れると言ったら体力ぐらいで…」


「普通はセンスなくても長年習ってればそれなりに身に付くもんなんだけどな…」

ルイーズさんはパールの答えに呆れた感じの顔をしてるけど、実際センスなくてもそれなりに身につきはするよね…。

多分、苦手意識なんかから無意識のうちに拒絶し手を抜いていたのかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る