第73話王都周辺の森

昨晩はルイーズさんの発言でカトレアの事情をリーズに説明したりとなんか慌ただしかったけど、リーズの性格なのか、いや性格だろうけどすんなりと元ノーライフキングで今は人間として蘇った事を受け入れてくれた。

まあリーズの父親も変わり者みたいだし、その血を引くリーズも結構変わり者の血を強く引いている感じだからあまり気にならないのかもしれないけど…。


それよりも昨晩はこの世界に転移して初めて足を思いっきり伸ばしてゆったり出来る風呂に入れたのが嬉しかった。

流石に日本にあるスーパー銭湯とまではいかないものの、それでも一人で入るには大きすぎるぐらいの湯船にゆったりと浸かれる事に感動し、少しのぼせてしまった程だ。


風呂を出るとリーズがカトレアを質問攻めにしていたが、自分はそれを見なかった事にし、ルミナ村の母への手紙を書く。

追い出された身としては手紙で近況を知らせる必要性なんて無いんだけど、村を出る前に涙ぐんでた母の顔を思い出すと元気でいるという事ぐらい手紙で知らせておこうかと思ったからだ。

当たり障りの無く、キャールの街で冒険者になり今は王都に居る事、Cランク冒険者になり信頼できる人達と依頼を受けて生活には困ってない事などを書き記た。

明日、ギルドに寄った際に手紙を出そう。

とは言え王都からルミナ村まで手紙を届けるのはいくら費用がかかるんだろう。

その辺の料金システムも確認しておかないとな…。


そして翌日、ふかふかのベッドの寝心地を満喫し、宿で出された豪華な朝食を食べた後、当初の予定通り王都周辺の森で常時依頼である薬草採取と魔物、魔獣討伐をする。


流石に王都には冒険者も多く居る為か、王都に近い森では探知を使ってもあまり魔物や魔獣を見つけられなかったけど、森の奥に行くにつれてチラホラと探知に反応が現れる。

探知で見つけた方向を示すと、誰が先に倒すかの競争と言わんばかりに走り出し、魔物を狩っていく。

ルイーズさんが早くて追いつけない!!

リーズも意外と足早いし…。


そして昼食を食べ終えた後、カトレア対3人での訓練が始まる。

事前打ち合わせも無いので連携は無いものの、それそれが互いの動きを見ながら効率良くカトレアに攻撃を繰り出すも、すでに予測されていたかのように受け流されたうえ反撃をされ吹き飛ばされる。


ルイーズさんと2人がかりで一撃も入れられなかったけど、3人になってもそれは変わらないらしい。

夕方近くになるまで何度も戦いを挑んでもその都度ボコられ、治癒魔法で回復し再度ボコられる…。

治癒魔法はそこそこ手際よく使えるようになったけどこれも訓練の成果なのか?


そして訓練が終わると、ギルドに行って採取した薬草と魔物を買い取って貰い、宿に戻る。


「それにしてもキャール近隣と比べて王都周辺の森は得物少ないね…」

「そうね、それだけ常時依頼である薬草採取や魔物狩りをする冒険者が多いって事ね。 まあお金に困っている訳でも無いし、良いんじゃない?」


そう言うとカトレアは、リーズの方を向きなおり不思議そうな顔をして話し出す。


「リーズ、あなた魔法は使えないの?」

「いえ、私は火魔法と風魔法が使えますけどそれがどうかしましたか?」


「火魔法と風魔法ね…、じゃあ何で使わないの? 魔闘技と組み合わせて使えば戦術の幅も、一撃の威力も上がるわよ」

「魔闘技と魔法の組み合わせですか? 確かに昔、そう思って父に聞いたんですが、その時に魔法との組み合わせは邪道だと言われたので…」


「邪道ね…、むしろ何が邪道なのか聞きたいぐらいだわ。 本来魔闘技は魔法と組み合わせて使用する事で本来の力が発揮されるものよ。 それを邪道って…」

「そうなんですか?」


驚いたようなリーズにカトレアが魔闘技と魔法の組み合わせ方を説明していく。

どうやら通常の魔闘技はインパクトの瞬間に拳や足などから魔力を放出し相手に打撃を与えるものだけど、そのインパクトの瞬間に魔法を発動し放出する事で、魔力による打撃に魔法が加わり威力が増すとの事だ。

確かに、殴った瞬間に魔力を放出するだけでなく、火魔法なら火を魔力に込めれば打撃と炎、2つのダメージを与えられる。

カトレアの話ではそれだけでなく、リーズが使える風魔法と魔闘技を組み合わせ、地面を蹴って距離を詰める際に使用する事で通常よりスピードを出して距離を詰められたり、打撃に風魔法を組み合わせる事で、打撃が当たらなくても、放出した魔力を飛ばす感じで攻撃する事も可能らしい。


確かに殴られたら火傷する打撃とか、後方に飛んで避けたはずなのに見えない打撃が飛んで来るとか結構有用だよな…。

それを聞いたリーズは明日の訓練で試すと言ってなにやらイメトレを始めた。

それにしても魔法との組み合わせは邪道って、これも時代の流れがそうさせたのかな…。


そして翌日の午前中は狩、午後はカトレア相手に訓練をする。

自分とルイーズさんは昨日までと同様にフェイントを入れたり、お互いの動きに合わせ攻撃をするが、カトレアはまるで動きを予測していたかのように攻撃を避け、受け流し反撃をしてくる。

そんな中で昨日と違う動きを見せたのはリーズだった。

カトレアに教えられて昨晩イメトレをした成果なのか打撃に炎が混じり、踏み込んだ瞬間に風魔法を使用し地面を蹴ったのか、凄まじいスピードでカトレアに突っ込んでいく。


ただ、凄まじいスピードとは言え直線的な動きの為、カトレアが身体を1歩横に動かしたら、勢いそのままに木に衝突した。

打撃に火魔法を組み合わせた攻撃も、まだ慣れていない為か数回に1回出来るかどうかと言う感じで実戦ではまだまだ役には立ちそうにないけど、リーズが魔闘技と魔法の組み合わせをマスターしたら結構な強さになりそうな気がする。


そして、もれなく全員がカトレアにボコボコにされた後、ギルドで獲物を買い取ってもらう為、王都に戻ろうと森を歩いていると、探知に複数の反応あった。


数は7? いや8か、人間かな? いや、人と魔物、恐らく他の冒険者が魔物を狩っている最中だろうな…。


以前ルイーズさんに教えられた暗黙のルール、合同で受けた依頼の場合を除き、他の冒険者が魔物や魔獣と戦っている際は向こうから助けを求められたり、合力を頼まれたりした場合は手を貸すが、それ以外の場合手を出すと後でトラブルになるから見かけても素通りするらしい。


このまま進んで行ったら接触しそうだけど、とりあえず手を出さなければ問題ないだろ。

そう思いながら探知で戦闘中であろう冒険者達の位置を把握しながら森を進んで行くと、5人がこちらに向かって移動を始め、その後を魔物が追いかけている感じだ。


カトレアもルイーズさんも気が付いているようだけどあえてこちらから急いで向かう様子もなく、普段通りに歩いている。

「なんか魔物に追いかけられているっぽいけど助けないで良いの?」

「良いんじゃない? 助けを求める声も聞こえないし、こっちが急いで向かっても後で自分達が戦いやすい場所に誘導してたとか難癖付けられても面倒だし」


確かに、まあこの辺の魔物ってゴブリンかオーク、魔獣と言っても角ウサギとホーンボアぐらいだし、5対3ならなんとでもなるか…。

そう思いながら、歩いていると木々の合間を縫うように5人組の冒険者が走って来る。


あっ、この前絡んで来た同年代の5人組だ!

それで追いかけて来てるのはオークか…。


オーク3匹なら一人で余裕だろうに、オークを疲れさせて1匹づつ確実に仕留めるつもりかな?

それにしても必死の形相だけど、まさかオークに敵わないから逃げて来た?


うん、逃げて来たようだ…。

すれ違いざまに助けてくれって言うだけ言って、自分達の後ろに回り込み肩で息してるし…。 



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