第53話ハチと鳥

カトレアがストーンキラービーのハチミツ採取の依頼を受けてから3日が経った。


結果から言うと、翌日には睡眠魔法はマスターして、その日のうちに浄化魔法のように噴射して使用する事が出来るようにもなった。

では何で直ぐに出発をしなかったのか…。

カトレアが、睡眠魔法を噴射出来るならストーンキラービーは脅威とならないから思い切り大量に採取が出来ると言い出して、樽を発注し納品を待っている為だ。


いやいくらアイテムBOXがあるからって、大樽20個と中樽20個注文する?

どれだけストーンキラービーからハチミツを奪う気なの?

しかもローヤルゼリー用とか言って一升瓶ぐらいのビンまで20本程用意してるし…。

もうこれ採取じゃなくて略奪だよ! ハチさん怒って報復しに来るよ!!


ルイーズさんもカトレアの行動には流石に呆れた表情を浮かべてた。

それにしてもルイーズさん、ソロの冒険者だったのに最近はなんか自分達とパティーを組んでる感じのような気がするけど、本人が気にしてる様子は無いし、戦闘訓練の相手にもなってくれるうえ、変なチンピラ冒険者に絡まれる事も無くなったからいいんだけど。


そして依頼を受けてから5日目の朝、やっとキャールの街を出発した。

カトレアは、自分が解毒魔法を使えるから要らないと言っていたけど、怪しい薬屋さんで、ストーンキラービーの毒と麻痺に効く薬を10個ずつ購入し、ルイーズさんと5個づつ携帯する。

薬屋の婆さんいわく、解毒薬を飲んでもすぐに効果が出るわけではなく徐々に効果が現れるとの事だったので、万が一、毒や麻痺の状態になったら解毒薬を飲んだうえで解毒魔法を使うようにしようとルイーズさんと話合って決めておいた。

カトレアには解毒薬を持たせないのかって? いやカトレアの魔纏は針も顎も防げるみたいだから用意はしなかった。

本人も要らないって言ってたし…。


キャールの街を出発し、森に沿って東に向かう事2日程進み、そこから大森林に足を踏み入れ1日程進むとストーンキラービーの巣があるという大きな岩山が見えて来た。


夜になってから岩山に近づくものだと思っていたら、カトレアもルイーズさんも、さも当然のように進み続け、岩山まで200メートルぐらいの所まで昼間のうちに移動をする。


「いや、なんで昼間にいどうするの? 夜に移動したほうが安全じゃん!」

「カツヒコ、あなた何言ってるの? 暗くなったら即突入してありったけハチミツを採取するのよ!! 時間はいくらあっても足りないわ!! 砂糖なんか高級品で早々手に入らないし、ハチミツはパンに付けても良し、お茶に入れて良し、お菓子の甘味として使うも良し、そのまま舐めても良しと万能なのよ!!」


そう力説するカトレアの横でルイーズさんもウンウンとうなずいている。

なんでこの依頼をカトレアが受けたのかわかった気がする…。

甘味が欲しかっただけだ!! 絶対それが目的で依頼を受けやがった!!


そう思いつつ、岩山の周辺を見渡すと、ふと気になる風景が目に留まる。

「それにしても、向こうに見える草原にある朽ちた柵や崩れた廃屋みたいなのって? それに岩山の周りは背の低い木ばっかりじゃない?」


そんな自分の疑問にカトレアは興味なさそうな顔をしながら知らないと言い、代わりにルイーズさんが教えてくれた。


そうやら岩山の奥に見える草原、そしてそこに朽ちた柵や廃屋があるのは、元々、ここは昔、開拓村があったからとの事だった。

それが30年以上前、ストーンキラービーが岩山に巣を作った事で最終的に放棄されたらしい。

とは言え最初は駆除を試みたらしいけど、分蜂されてここに来たストーンキラービーの数が多くみるみるうちに巣が大きくなり手が付けられなくなったらしい。

そして、岩山周辺の木々が低いのは、ストーンキラービーが背の高い樹を削り倒し、どこから運んできたのか、蜜の取れる花が咲く背の低い木の種をまいたらしい。

そして背の低い木にはもう2つの役割があり、1つは獣が近づくと、木々が揺れ居場所がすぐにわかる事、もう一つは天敵である大型の鳥に狙われた際、背の低い木の中に逃げ込み身を守る為との事らしい。


いやあのバカでかいハチを食べる鳥ってどんな鳥だよ!!

そう思い、上空に目をやると、確かにはるか上空を数羽の鳥が旋回している。

あれが天敵の鳥か…。


上空を旋回する鳥を眺めていると、そのうちの1羽が、急降下を開始し始めた。

恐らく巣の周辺を巡回している5匹編隊で固まって飛ぶストーンキラービーを狙っていいるのか、鳥が急降下するにつれ小さく見えていた鳥がどんどんと大きくなる。


巡回しているハチは上空から急降下してくる鳥にまだ気が付いていないようで、低い木々の上を飛びながら侵入者が居ないか警戒をしているようだ。

地上に近づくにつれみるみる大きくなって見える鳥がストーンキラービーの編隊近くで翼を広げ、垂直降下の勢いのまま翼を広げ鋭角降下に変わり、ストーンキラービーの編隊の後ろから追い抜きざまに襲い掛かり、そのまま上昇していく。


一瞬の出来事だったけど、両足で2匹、嘴て1匹のストーンキラービーを苦も無く仕留めた。

恐ろしい速度で急降しておこなう狩凄かったけど、何より鳥の大きさに目を奪われる。

恐らく翼を広げたら10メールはあろうかと言う大きさもだけど、鋭い爪、そして嘴、どれも凶悪で人間が襲われたらなすすべもなく引きちぎられて食べられてしまうそうな程凶悪だった。

いや、マジでこの大森林って危険!!


そう思いながら、襲撃を受けたハチの方を見ると、鳥の襲撃を受け、ハチが救難信号かフェロモンでも出したのか、巣穴から2~300匹以上のハチが飛び出し一塊になり上空を警戒していると、上空を飛ぶ鳥達はそれを待っていたかのように次々に急降下に移る。


続々と猛スピードで急降下してくる鳥に対しストーンキラービーは横に広がるように散開し低い木々の上にハチの絨毯が出現し、その10メートル近く上に間隔を大きく取ったハチが飛ぶ。


今度は奇襲で後ろから襲うのではなく、ハチが待ち構えている所に突っ込む鳥達の狙いは間隔を開けて単独で飛ぶハチではなく絨毯のように散開したハチ達のようで単体のハチを通り越し翼を広げ襲い掛かる。

鳥が単独で飛ぶハチをすり抜けた直後、絨毯のように広がったハチが波打つように躍動し鳥を包み込むかのように飲み込む。


直後上昇する鳥達には複数のハチが纏わりつき、1匹の鳥が針で刺されたのか暫く上昇した後、錐もみ状態で地面に落ちる。

ストーンキラービーも鳥達の獲物と言う訳ではなく、鳥達にとっても捕食者の一面を持っている感じだ。


ストーンキラービーと鳥達の攻防を目の当たりにし、驚くと共に疑問も浮かんでくる。


「ねえカトレア、なんであの鳥たちはストーンキラービーを狙うの? 1度で最大3匹が限度しか狩れないのに危険を冒してまで捕食するほどの物なの?」


あの大きな鳥達ならもっと大物を簡単に仕留められそうなのにわざわざ効率が悪く、場合によっては逆襲される可能性のあるストーンキラービーを狙う理由が分からない。


「栄養価が高いからよ。 あの鳥は、スゥーフバードって言うんだけど見た通り大型の肉食魔獣なんだけど、あの巨体で空を飛ぶためには少量で高栄養価の獲物を狙う傾向があるのよ」

「いや、栄養価が高いって言っても一回でハチ3匹ぐらいじゃ意味無くない?」


「それだけ栄養価が高く美味しいって事ね。 まあ魔物や獣も襲うけど基本的に内臓だけ食べて肉は殆ど食べずに放置するぐらいの生き物だからそれだけあの巨体を維持するには量より質って事なんでしょうね」


う~ん、自分が人間だからなのか、効率が悪いようにしか思えない…。

ただ、それよりも驚きなのが、岩山にあるストーンキラービーの巣から2~300匹ものハチが一気に飛び出してくるって、巣の中には何匹ぐらい居るんだ?


今晩、あの中に入ってハチミツ採取するんだよな。

なんか生きて帰れる気がしない…。


カトレアさん、ハチミツ採取諦めて帰りません?

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