第54話ハチミツ採取

ストーンキラービーの巣から少し離れたところで暗くなるのを待っていると、2回程ストーンキラービーの編隊と遭遇した。

探知で事前に察知していたので慌てはしなかったものの、カトレアが睡眠魔法の練習に丁度よいと言い出し向かって来るハチに向かって睡眠魔法スプレーを噴射するように使用して眠らせると言う命がけの練習をさせられた。


編隊で飛んで来る分にはいいんだけど、散開されると大変なんだよ。

結構な速度で飛びまわるし…。

眠らせきれなかったストーンキラービーはルイーズさんのバトルアックスで両断されたから良かったけど、睡眠魔法を使いながら剣でハチを倒すって結構難しかった。


そうしているうちに、夕方となり、辺りが徐々に暗くなっていく。

「ルイーズ、カツヒコ、もう暫くしたら出発するわよ」


夕飯代わりの干し肉を食べながらカトレアがそう言って準備を始めだした。

「いや、暗くなってすぐって早くない? もう少し時間をおいてハチが眠った後に行けばいいじゃん」

「カツヒコ、あなた何をいっているの!! 早く行って持ってきた樽を全部満タンになるまでハチミツを採取するんだから早い方が良いに決まって居るでしょ!!」


何を言っているんだ? と言う顔をしながらカトレアはそう言っているけど、自分達がハチミツ欲しさに今回の依頼を受けたと知ってしまうとカトレアの言葉も甘味を早く食べたいと聞こえてくる。


ルイーズさんもやる気満々だし、諦めて暗くなった森を抜けストーンキラービーの巣がある岩山へ向かって歩き出し、背の低い木々を通り抜け岩山の前に着くと、既に先客の獣が複数いて巣から流れ落ちたハチミツを一心不乱に舐めている。


カトレアが口には出さないものの、ほらね、早い方が良いって言ったじゃない。 と言うようなドヤ顔をしなが巣の入り口を向かって指さす。

岩山の中腹の辺りにある巣の入り口には巣を守る門番のように数匹のハチがおり侵入者がくれば襲い掛かって来そうな感じだ。

恐らく早く睡眠魔法で眠らせろとの事だろうと思いつつ、ゆっくりと足場を確認しながら岩山を登り、睡眠魔法をハチに向けて噴射する。


睡眠魔法を受けたハチの数匹が地面に向かって落ちていき、十数匹は足が岩に引っ掛かっているのかぶら~んと逆さ吊りのようになっている。

その後カトレアが先行し、入り口に居るハチが眠っていることを確認すると、早く来いと手で合図する。


巣の入り口は意外と大きく大人が2人並んで通れるぐらいの大きさがあり、外敵の侵入を阻むよりも有事の際に一気にハチが飛び出せるように作られている感じだ。


ライトの魔法で小さな明かりを作り、巣の中に投げ込んでから足を踏み入れようとすると、岩を削って出来た通路には、ストーンキラービーがいつでも飛び出せるようになのか通路の床や壁、天井部分に張り付いている。

急に投げ込まれた光に、ハチ達が反応し、動く音が響きだす。


暗くなってまだ時間が経っていない為かハチ達も眠りについていないようで、数匹が巣から飛び立つも、入り口を出た瞬間にカトレアによって切られ落下していく。


「カツヒコ、睡眠魔法をフルパワーで通路に流しなさい!!」

「わかったから、そんなに急かさなくてもハチミツは逃げないから…」


ハチミツがもう少しで手に入っるからと興奮しているような雰囲気のカトレアを呆れた顔で見た後、巣の入り口から中に向かって睡眠魔法をスプレーで殺虫剤を噴射するイメージで放つ。


睡眠魔法自体、スプレーのように噴射するイメージで発動しても音などはしない為、効果が出ているのか心配になるも巣の中からはドサッ、ドサッ、っとハチが地面に音がるるので効果は出ているものと思える。


暫く睡眠魔法をフルパワーで噴出し続けてからカトレアに中へどうぞとジェスチャーをすると、驚きの言葉が帰って来る。

「何言ってるの! 先頭を進むのはカツヒコよ!! あなたが睡眠魔法を放出しながら進んでハチをすべて眠らせないとゆっくりとハチミツ採取出来ないじゃない!!」

「いや、カトレアも睡眠魔法を使えるよね? カトレアが先頭でも良くない?」


「カツヒコあなたね~、普通睡眠魔法を噴射するように使える人間なんていないのよ…。 だからあなたが睡眠魔法を噴射しながら先頭を歩いて奥に進むのよ!!」


そう言ってカトレアは早く行けと言わんばかりに顎をしゃくる。

「はあぁ~~~」


大きく溜息をつき、巣の中へ足を踏み入れ、左手を前に伸ばし睡眠魔法を噴射しながら、右手に握った剣の先にライトの魔法で明かりを作り奥へ進む。


通路には眠りに落ちたハチ達が足の踏み場も無いほど横たわっている為、踏みつけないように気を付けながら奥へ奥へと進む。

通路は奥に行くにつれて徐々に広くなり、10メートル程進むと広い空間の中に吊り下がるストーンキラービーの巣が現れた。


「いや、デカすぎでしょこれ…」

岩の中をくりぬいて出来た空間の広さもさるものだが、巣の大きさにも驚愕する。

恐らく横50メートル、高さ20メートルはあろうかと言う空間、そしてその2/3を占める蜂の巣。

そして壁や巣にはビッシリとストーンキラービーが張り付いている。


「カツヒコ、早く睡眠魔法で巣の中のハチを全部眠らせなさい!! グズグズしていると明かりに反応して一斉に襲って来るわよ!!」

そういうカトレアの言葉を聞き、ここに居るハチが一斉に襲い掛かって来る光景を想像し身震いをすると、右手に握る剣を鞘に納め両手を前に出し全力で睡眠魔法を噴射する。


広い空間なだけあって睡眠魔法が行き渡るまで時間がかかるも、壁や天井に張り付くハチ達がボタボタと落ちていく。

どのぐらい全力で睡眠魔法を噴射したのか覚えていないが、カトレアに「もういい」と肩を掴まれた事でハッとして魔法を止める。

巣の中は暑い訳でもないのに額には玉のような汗が浮かび、全身も水を浴びた後のように汗がびっしょりで服が肌に張り付いている。


「これでほとんどハチは寝たわね。 じゃあハチミツを頂きましょう」

そう言って広い空間に足を踏み入れたカトレアは地面に転がるハチの隙間をまるでステップを踏む様に歩き巣の真下まで行く。


「カツヒコ、ルイーズ、早くこっちに来なさいよ」

ルイーズさんの顔も引きつるこの光景の中カトレアだけは満面の笑みを浮かべ、早く来いと手を振っている。


「カツヒコ、お前、先に行ってくれ、あたしはその後を寝ていないハチが居ないか警戒しながら進むから…」

ルイーズさん、恐らくこの中を進むのが嫌なんだろうな…。

気持ちは分かるけど普段の強気はなりを潜めたルイーズさんの言う通り、ハチを踏まないように気をつけながらカトレアの居る巣の真下へと向かう。


どうやらストーンキラービーの巣の中の構造は、ミツバチの巣と同じように巣盤がいくつも上からぶら下がっていた。

カトレアはアイテムBOXから早く樽を出すようにと急かし、自分が樽を出すと、剣で巣を縦に斬り流れ落ちるハチミツの下に中樽を置いて行く。


そして大樽には切った巣盤ごと詰め込んでいく。

「カトレア、蜜蝋も売れるの?」

「よく知ってるわね、これは蝋燭の材料にもなるし薬の素材にもなるのよ、まあそれ以外の理由もあるんだけど…。 ほら、カツヒコもルイーズも中樽が一杯になったら樽を交換しなさい!!」


そう言てカトレアは大樽に斬った巣盤を押し込んでいく。

カトレアが縦に斬った巣盤は斬撃が天井近くまで達している為、ハチミツが勢いよく流れ落ちて来て直ぐに中樽がハチミツで一杯になった。

ハチミツで満たされた樽と空樽を交換し、ハチミツが一杯詰まった樽は蓋をしてアイテムBOXに収納する。


このペースなら

2~3時間で持って来た樽を一杯に出来たじゃん!!

これなら暗くなってすぐに行動しなくても良かったのに…。

カトレアはそんなにハチミツが恋しかったのか?

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