第43話薬草採取

昨日は薬草採取の依頼を受ける予定だったが、ガラの悪い冒険者に絡まれ、その後乱入したルイーズさんと戦ってその後、夕方までギルドの酒場で話し込んでしまった為、依頼を受ける事が出来なかった…。

っと思ったが、カトレアはいつの間にか昨日のうちにギルドで依頼を受けていたようで今朝は朝からキャール外に出て薬草採取に向かう事になった。


「昨日の話では、魔石や薬草、魔道具等の依頼に無い品も買い取ってくれるんだから、わざわざ依頼を受ける必要ってあるの?」

そう疑問もカトレアにぶつけると、カトレアは読んでみろと言わんばかりに依頼書を無言で渡してくる。


「ムライム草? 期限は…、過ぎてる? これはどういう事?」

「ようは、ギルドに期限を設けて依頼をしたけど誰も受けなかった依頼。 依頼主が取り下げてないから依頼としては有効なうえ失敗してもペナルティーは無い、そんな依頼よ」

そう言いいながらカトレアはキャールの街から森の奥に向かう道を歩きながら、ムライム草について説明をしてくれた。


ムライム草は、湿地帯に育成している薬草で、葉や花は小さく、反対に根が太く長いとの事で見つけにくく、かつ採取もしにくい薬草との事だった。

使用方法としては葉や花は煎じて飲むと腰痛や関節痛などに効果があり、根の部分は精力剤となるらしい。

いや…。 精力剤になる薬草をギルドに依頼って…。


そんな事を思いながら半日ほど道を進んで行くと、森を切り開いた開拓村が見えて来た。

開拓村は現在、4つ程あり、今見えて来た村は最初に開拓をした村という事で、規模も大きく、森で活動をする冒険者達の休憩拠点としても活用をされている。


ムライム草は、この村から北の方にある湿地帯にあり、夜明けのみ花を咲かせ日が昇る前には花弁が閉じてしまう為、探すとしたら夜のうちに森を抜け明け方までには湿地帯に到着し採取をする必要があり、泥濘で足を取られ探すのも苦労するとの事であまり冒険者が受けたがらない依頼らしい。

夜の森は危険なうえ、湿地で泥だらけになりながら採取をしても一つ銀貨5枚、確かに割に合わないとどの冒険者も依頼を受けないだろうなと心の中で思う。

それにしても何でカトレアはこんな依頼を受けて来たんだ?


そんな疑問は、開拓村に入らず素通りし、森へ入っていく事で何となく理解出来た。

カトレアは夜の森で野営をし、森で野営をする事がどんな事かを教えるつもりなんだろうと思う。


カトレアと共に、森へ入り開拓村の北の方にある湿地に向かう。

開拓村の近隣は定期的に冒険者が魔物を狩っている為か探知を使用しても魔物の気配はあまり感じらない。


「カトレア、開拓村を作る際ってこんな風に冒険者に魔物を狩らして安全にしてから開拓を始めるの?」

「最初の頃は冒険者や国から兵士を出し、村を作る場所の周囲の魔物は狩るが、村の形が出来れば後は開拓者とわずかな兵士や冒険者が残るぐらい。 だからあの開拓村は恵まれてると言っていいわ」


そんな話をしつつも、探知のスキルを使用しながら森の奥へと進むと徐々に探知で魔物の気配を感じられるようになる。


「カツヒコ、分かっているとは思うけど、このまま湿地まで行ってそこで時間があれば野営するけど、夜になると動き出す魔物も居るから気を抜くと怪我するわよ」


ゴクリ…。

自分が生唾を飲み込む音が辺りに響いているかのような感覚に襲われる。

カトレアには魔物と遭遇しても私は手を出さないからと宣言をされているので、探知で周囲を警戒しつつ慎重に湿地帯を目指す。


森の中を歩く事4~5時間、湿地帯に到着するまで、狼のような獣が数回接触をしてきたが、カトレアが居たからか、様子を伺っただけで去って行ってしまったので、幸い暗闇での戦闘とはならなかった。

カトレアは、去っていく狼のような獣に向けて「襲って来なさいよ!」と悪態をついていたけど、個人的には襲ってこなかったので内心胸を撫でおろした。


湿地帯に着くと、カトレアは少し休んだ後、1メートルぐらいの枝を集めて来るように言い、集めた枝には目印になるよう布の切れ端を結べとの事。

なぜそんな事をするのか不思議に思うも、言われた通り枝を集め布を結んだ後、明け方まで休む際に教えるとの事で、休む間もなく枝集めと枝に布を結ぶ作業をする。


1メートルぐらいの枝って言われても夜間に探すのも結構手間で、19本用意するのに恐らく1時間ぐらい時間がかかった気がする。

地面に腰を下ろし、アイテムボックスに収納しておいたパンに肉とチーズを挟んだ物を食べながら、カトレアに問いかける。


「それで、この布を結んだ枝は何に使うの?」

「カツヒコはどうやって依頼の薬草を採取するつもりだったの?」

質問を質問で返された…。


「空が白みだしたら湿地に入って花を探して採取するんでしょ? 依頼書に絵があったから花と葉の形は分かるから、ライトの魔法で明かりを確保してそれっぽいのがあれば鑑定して、薬草なら採取するけど…」

「はぁ~、それだと1つ、良くて2つ程度しか採取出来ないでしょ、だから目印を付けた枝を用意させたのよ」


「目印を付けた枝でどう…、ってそういう事か…。 花が咲いているうちに見つけたら目印を刺しておいて、後でゆっくりと採取するって事ね…」

「そう、馬鹿正直に明け方に根まで掘り起こす作業をする必要はないでしょ。 頭を使いなさい、冒険者でなくても何事も効率よく物事をする事が大事なのよ」


うん、耳が痛い…。

効率よくって前世でも職場で良く言われていたし、効率重視はどんな世界でも当然のことだよね…。

なんかすっかり失念してた。


「じゃあ、そろそろ空が白みだすから用意した枝を持って薬草を探しに行きなさい」

「カトレアは? 採取しないの?」


「しないわよ、あなたの経験を積む為の依頼なんだから私が手を出すわけないでしょ」


カトレアはそう言って、木にもたれ掛かったままお茶を飲んでいる。

確かに経験は大事だとは思うけど、全く手伝わないってのはどうなんだ?


そう思いながらも枝を左の小脇に抱え湿地に足を踏み入れる。

「うわ、結構足が沈むな…、ただ草が生い茂っているから泥に足を取られるって事が無いのが幸いってとこかな…」


そう呟いて、湿地す進み、ライトで足元を照らし、ムライム草を探す、小さな花が目印の為、草木が生い茂っている場所で探すのは大変かと思ったが、白い花弁が光を反射しているかのごとく小さいながらも存在感のあるムライム草の花がすぐ見つかった。

ムライム草の花のそばに目印の枝を刺し、次を探す。


湿地の草木をかき分けて進んでいると突然足元から何かが飛び出し、直後右足に激痛が走り、そのまま足を引っ張られる。

「うわぁ、い、いたっ!!!」


突然の事に声を上げ、直後咄嗟に右手で剣を抜き足に噛みついた何かに向けて魔力を剣に纏わせて振り下ろす。

ザシュッ!!


頭と離れた胴体がバタバタと動き、しばらくしたら動きを止める。

「カツヒコ~! 湿地帯には蛇が居るから気を付けなさいよ~。 牙が無い奴は毒持ってないけど、上か下に鋭く長い牙があるのは毒持ちだから、噛まれたらすぐ解毒しないと死ぬからね~!」


いや、その情報遅い!!

既に噛まれてるし!!


剣を地面に刺して、足に噛みついた蛇の口を強引に開き足から引きはがす。

上あごに鋭く長い牙があるし、噛まれた場所がジンジンするし、完全に毒蛇じゃん!!


慌てて解毒魔法を使用し、毒が抜けた感じがしたら回復魔法で傷を癒す。


「カツヒコ~! 蛇は肉も皮も売れるから回収しなさい、あと気を抜いているとそのまま穴に引きずり込まれるから、しっかりと周囲の気配に気を配りなさい!」


カトレアからアドバイスともとれる言葉が飛んで来るも、探知は使用してるのに全く反応が無かったんだよね。

探知にかからない蛇をどうやって事前に察知しろと?


カトレアからの無茶振りにため息をつきつつムライム草探しを再開する。

日が昇り出し、恐らく花も閉じてしまっただろう時間までに用意した目印の枝19本は無くなり、今は、枝が無くなった後に見つけたムライム草を採取している。


最終的に6回程毒蛇に噛まれ、その都度解毒魔法と回復魔法を使用をするはめになったけど、最後まで蛇の気配を察知する事も探知で発見する事も出来なかった。

蛇は、湿地に穴を作っているのかそこに潜み、目の前を通る獲物を待ち受けている感じだった。

恐らく穴に噛まれた足を引きずり込まれたら、剣で斬る事も難しく毒が回って最悪死ぬ可能性もあったので、最初に噛まれた際、咄嗟に剣を抜いて切ったのは正解だった…。

あそこで慌ててバランスでも崩して転んだらそのまま穴に引きずりこまれてただろうし。


それにしても毒蛇デカいな…。

頭が20センチ…、いや30センチ近くあるし、長さも4~5メートルある。

今思うと、蛇が本気で自分を穴に引きずり込もうとしてたらヤバかった。

恐らく毒蛇だから毒で弱らせた後引きずり込んで食べようとしてたんだろうな…。


そう思いつつ、ムライム草を採取していく。

昼前には採取が終わり、合計で21個確保は出来た。


「カトレア、21個採れたよ…」

「そう、まあ上々ね、それとその泥を落とすまで近づかないで! 私まで汚れる!!!」


いや、経験を積ます為って言ってたけど、実際は泥だらけになるのが嫌だっただけじゃない?

しかもメッチャ汚い物を見る目でこっちを見てるし…。


絶対汚れるのが嫌だから手伝わなかったんだな…。

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