第10話旅立ち

初めて冒険者と一緒に森に入ってからかれこれ5年が経ち、春には村から出て行くことになるんだけど、この5年で、貰った剣を余裕で振れるようになったし、魔法もそれなりに使えるようになった。

なにより身長も伸びて今では170センチぐらいになったしね。


それに2年前からは自分一人で森に入り狩りや薬草を採取したりして村で売ってるので資金的にも多分余裕が出来た。

魔物との戦いも経験したので結構有意義な期間だったと思う。

とは言えほとんどはゴブリンやコボルトで、オークは1匹だけ、それでもいい経験になったと思う。

魔物を倒すと魔物の魔力の一部を吸収し身体能力と魔力が増えると言ってたけどあんまり実感は無いんだよね。


村を出るのに用意出来た資金は金貨8枚と銀貨8枚に銅貨が9枚で8890レン、日本円にしたら大体889000円ぐらいだから独り立ちの資金としては微妙な気がするけど街に行って冒険者登録をすれば仕事にはありつけるだろうから選好みしなければ何とかなるはず。


そう思っていたら父から餞別として金貨5枚を貰ったので手持ちのお金が13890レンになった。

一応は後ろめたい気持ちはあるんだろうな、それとも手切れ金と言った所か、何にせよお金が増えるのはいい事だし、アイテムボックスに保管しておけば取られる心配も無いしね。

実はアイテムボックスって結構レアな魔法らしい。

なので盗賊対策として手元には少額だけ持っていて残りは収納魔法で保管しておけば全額奪われることは無いらしい。


それにしても、フォレストの皆さんは2年程前からルミナ村には来なくなったけど、みんな元気してるのかな?

確かブロームの街を拠点としてるって言ってたけど、自分も拠点とする街を決めないといけないんだよね。


父が持つ地図を見ると、自分の居る国は樹の国でルミナ村からは、ブロームの街とキャールの街が近いけど、王都に近いのはキャールの街で、キャールは王都と同じく大森林に接してるので冒険者として活動するには適してるらしいけど、魔物の出現率が高いらしい。

まあその分、珍しい薬草や素材なんかも多いらしいけど…。


さて、どうするか…。

まず王都だけど、絶対に物価が高そうだし冒険者も多そうだから駆け出しには競争について行けない気がする。


そしてフォレストの皆さんが拠点とするブロームの街は大森林と接してない分、魔物はそこまで多くないけど反対に出稼ぎに行かないと稼ぎが少ないって話だし。


恐らく、たいして他と変わらないだろうけどまずはキャールの街に行って冒険者登録し、キャールが稼ぎにくいようなら他の街に行くことを検討しよう。

まあ他の国に行くのもアリだしね。


今、自分が居る樹の国は元々はロマーラル帝国の一部だったらしいけど、皇帝に跡継ぎが居なかった為、後継者争いが起きたらしい。

ただその際に帝国に使えていた6人の賢者が内乱を静め、話し合いで帝国を6分割しぞれぞれの賢者が治める事になったらしい。

とは言え内乱を治めるにあたり戦争が起こり多くの血が流れ、帝国の貴族の一部は独立し国となったとの事だけど、6人の賢者が帝国の大半を掌握し戦争を終結させたと聞いている。

その6国のうち南部にある大森林に接しているのが樹の国で大森林から魔物が溢れたりしないようにする役割も兼ねていると言われてる。


とは言えその他の国にもダンジョンがあったり魔物が生息する山岳地帯や森があったりするので樹の国だけが危険な訳では無いんだけど、6国は分割後も強固な盟約で争うことなく手を取り合っている為、ここ数百年は大きな戦争などは起こっていないと聞いている。


そして6国の盟約のおかげで6国のどこかの冒険者ギルドで登録したら6国間では身元を保証され冒険者として活動できる。


そして帝都だった場所を有する光の国に冒険者ギルド本部があり、その他5国にあるのは支部と言う扱いらしい。

だから樹の国で稼げない様ならその他の国に行けばいい、だけどまずはキャールの街に行き冒険者登録をしようと思っている。


父が所有する地図を見ると、キャールに向かう途中の村の近くに、墳墓のダンジョンと言うのがあり、冒険者の間ではハズレダンジョンとして有名らしいが、そこに立ち寄って腕試ししてからキャールを目指す事にする。

まずはどの程度のところまで自分だけで出来るか試したいしね。


それに食料はアイテムボックスに1月分くらいは保管しているし、水は魔法で何とでもなるし、準備は万端だな。


ギフトを得て前世の記憶を取り戻してから7年、長いようで短かったような気もするけど一応、15年間は育ててくれたんだから両親には感謝しよう。


そして旅立ちの日、父は怪我に気を付けろよと、母は少し涙ぐみながら身体には気を付けてと言ってくれたけど、やはり何かあったら相談しろとも、戻って来いとも言ってはくれなかった。

まあ村を出るように言ったのは父だからな…。

流石に戻って来いとは言えないか。


とは言えここまで育ててくれた両親だし、よくよく考えれば父は酒場などで働いたり手伝いをしたりするのも、冒険者に同行して森の奥に行くのもダメだとは言わず自分の成長につながる事はするなとは言わなかったし、母はいつ実家に戻っても必ず自分の料理を用意してくれたうえ部屋の掃除もしてくれていた。

教会の司祭には口止めされていたけど母は自分が器用貧乏のギフトを得た後しばらく教会に行き再度加護を得る為の儀式をおこなって欲しいと何度も頼み込んでいたらしい。


何処の世界でも自分達の子供を心配しない親なんて居ないんだな…。

見送りは2人だけの寂しい旅立ちだったけど、憎まれて村を出るのではなく、言葉なくても新たな場所でつつがなく生活をして欲しいという気持ちがひしひしと伝わって来る。

街について落ち着いたら手紙を書こう。

心配してくれているうちは近況報告ぐらいして安心させてあげたいしね。


そう思いながらも村を出て街道を一人歩いて行く。


うん、これからは一人で生きて行かないといけないとは。

異世界転生とは意外と厳しい人生が待ってるもんなんだな…。

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