第9話SS日常

村の酒場で夜働きながら自分を鍛える日常は意外とごく普通の日常だ。

うん、普通なはずだ…。


朝、空が白みだす頃になると自然と目が覚めるので、ベッドから起きだして庭でフォレストの皆から貰った剣で素振りをする。


最初の頃は木の棒で素振りを毎朝100回と決めていたがそのうち数えるのが面倒になってきていつの間にか腕の筋肉が張って振りかぶれなくなるまで素振りをするようになった。

それは木の棒から剣に変わってからも変わってない。


ただ素振りをしていて思うのが、日本刀の重さは大体1~2キロぐらい、時代劇とかでは役者さんが華麗な殺陣で悪者を斬っているけど、実際はあんな風にはいかないね。

1~2キロの剣を片手で扱い相手を斬るなんてテレビだからだってこの世界に来て改めて実感した。

しかもこの世界の鉄剣は日本刀の二倍以上の厚みがあるから大体3~4キロはあると思う。

それを片手で振り回すなんてまず無理だ。


今でも鉄剣で素振りをしていても下半身の力を抜くと剣の重みでバランスが崩れてうまく振るえない。

まあ素振りと言っても重たいからゆっくりと振りかぶり、ゆっくりと振り下ろすだけの繰り返し。

勢いよく振りかぶれば重さで体が後ろに、勢いよく振り下ろせば途中で止められず、剣の先が地面に突き刺さる。


うん、今はゆっくりでも数多く素振りが出来るように努力して、剣速に関しては後々で良いと思う。

まだ子供だしね。


そして腕が動かなくなり剣を振りかぶれなくなったら素振りを止めて、しばらく休憩をした後、村の周りを走って持久力を付ける。


村は柵と堀で囲まれているけどその外周を大体5周する。

周回する回数は体力が上がったらその都度増やす感じで今後は6周、7周と増えてくと思う。

何かあっても逃げれるように持久力は大事だからね。

それにしても毎日同じ景色を眺めながら走るのはかなり飽きが来るのが問題だ。

何度挫折しそうになったか…。


走り終わったら再度鉄剣で素振りをし、剣を振りかぶれなくなったら少し休憩した後で水浴びをして朝食を摂る。


住み込みとはいえ夜しか働いていないある意味居候の為、出される朝食はパンとスープのみ、朝食だけは実家に戻って食べようかとも思った事もあるけど朝の日課がその日の体調によって長くなったり短くなったるするから諦めた。

母いわく実家で朝食を摂るなら決まった時間に来なさいとの事。


時計とか無いから決まった時間と言われても困るんだよね…。


朝食を済ませると日によってやる事は違うけど、畑仕事を手伝う、または川に魚を採りに行く、肉屋で解体を手伝うなどをして日中を過ごす。

本当は教会の司祭に回復魔法を教えて貰う予定だったんだけど、冒険者の人に教えて貰ったから教会で教えて貰う必要が無くなったので昼間は独り立ちした後、役に立ちそうな事をする事に決めている。


そして今日は川に魚を採りに行くことにするが、村の近くには2つの川が流れている。

1つは村の西側、この川は川幅が20メートル以上あり水深もあり、村の漁師が漁をしている為、下手に漁師の真似事をすると邪魔者扱いされる可能性があるので基本的には東側にある川へ向かう。


東側の川は、川幅も2メールぐらいで水深も深い所で1メートルぐらい、その上、川幅が広く浅い瀬がある為色々と都合が良い。


西側の川で漁をしている漁師さんから破れてボロボロになった廃棄予定の網を貰い、それを繕って事前に浅い瀬に挿しておいた竹の棒に網を張って下流に魚が流れて行かないようにする。


網を張って準備が済んだら50~100メートル程上流に向かい、水面に手をかざして雷魔法を全力で川に流し込む。

うん、日本で外来魚を駆除するとき電気を流して魚を失神させて捕獲するのを思い出したんだよ。


そして川に雷魔法で電気を流し込んだら下流に戻り、網を張った場所で流れて来る魚を待ち構え後は採るだけ。

1回で多いときは数十匹の魚が取れるので、これを数回繰り返して大体100匹ぐらいを目途に魚を採る。

ちょくちょく魚を採りに来るけど意外と魚は居なくならないんだよね…。

話によると西側の川も、東側の川も、下流で合流してるらしいから魚を採り過ぎても下流から上流に登てくるのかな?


そして休憩がてら焚火で採った魚を焼いて昼食にする。


「グギギィ…」

魚を焼く匂いに釣られて稀にゴブリンがやって来るがゴブリンは馬鹿なのか、静かに忍び寄り襲い掛かるという事はせず、そこそこの距離から「グギギィ…」とか鳴きながら向かって来る。


自らここにゴブリンいますよって言ってるかのように声をあげながら現れるからある意味大助かりだ。


魚が焦げないように焚火から少し遠ざけてから重めの木の棒を持ってゴブリンに立ち向かう。

本当なら鉄剣で戦えればいいんだけど、まだ重たすぎて上手く振れないので木の棒で撲殺する方が効率がいい。

解体用にナイフは持ってるけど、一応ゴブリンも木の棒とかで武装してるし、爪とかも鋭いのでナイフだけだと怪我をする恐れがあるからどうしても武器は木の棒になる。


ゴブリンを目視し、距離が10メートルぐらいになったら全力で走って間合いを詰め有無を言わさず頭部を強打する。

ゴブリンは頭も悪いのか咄嗟の事に一瞬動きを止めた後で攻撃態勢に入る事が多い為、意外とこれが有効だと最近気が付いた。


頭部を強打されたゴブリンがその場に倒れ込んだらその後は追撃とばかりに頭部を木の棒で数回殴りナイフで首を刺してトドメを刺す。

その後は川原まで死体を持っていき、魔石を取ったらゴブリンの死体を川に流して終了。


そして食べかけの焼き魚を食べ終わったら村に戻り、酒場に魚を卸し、余った分は肉屋に持って行って下処理をした後で燻製にして貰う。


保存食用に肉の燻製を作ってるから一緒に魚も燻製にして貰ってからアイテムボックスに収納して保存食兼空腹時のおやつにしている。


その後、一旦酒場に戻り、水浴びをしたら、酒場の営業準備を手伝って、少し早い夕食を摂り、狩りや採取から帰ってきた冒険者を相手に料理を運んだり酒を運んだりとウエイターみたいなことをし、冒険者が併設する宿の部屋に戻って行ったら後片付けをしから夜食を食べる。


その後、鉄剣を振りかぶれなくなるまで素振りをし、少し休んでから魔法の練習をする。

基本的に毎日行うのは火、水、氷、風、土、雷を順番に魔力が無くなるまで一定の魔力を使ってひたすら発動し続ける。


そして魔力が尽きたら水浴びをした後に部屋へ戻って後は寝るだけだ。


うん、普通の日常だ…。

日本に居た時だったら間違いなく普通じゃないけど、15歳になったら村を出て行かないといけない自分が生きて行くためにはこれぐらい普通の事だ…。


そう自分に言い聞かせないとサボりたくなるんだよね。

日本人だった頃の知識があったとしても15歳の若造がその知識で何かをしても絶対強者に利益を奪われる。

この世界の人の話を聞く限り、日本と違って人の命は簡単に金で買える世界らしい。

まあ日本でも江戸時代…、いや明治時代でもお金で命は買えてたみたいだからそこまで驚くほどの事では無かったけど、自分はそんな死に方はしたくないので今のうちに出来る事はやっておき、いざとなったら戦うなり逃げるなり出来るようにしておきたい。


そんな一心で普通じゃない日常を普通の日常にしている。

うん、心が折れそうな気もするけど基本は大事だから全力で取り組もう。


因みに、14歳の時に回復魔法を使う事で疲労も回復する事に気付いた…。

うん、普通に考えたら回復魔法なんだから疲労も回復するよね。


回復魔法を発動しながら剣で素振りをしたら魔力が切れるまで素振りし続ける事が出来るのに気が付くのが遅かった…。


時間無駄にした…。


なんで誰も教えてくれなかったんだよ~~~~!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る