八、 ごますり

ある寺の檀家に要領の悪い男がおった。

誠実なのだが人の前に立つと緊張してしまい、まともな会話ができない。

おかげで寄合のたびに損な役回りばかりを請け負うておった。


それを見かねた和尚様は男に鉢とすりこぎを手渡した。

「これはお前さんの緊張をほぐすための品じゃ。

 緊張しそうな場になったら、この鉢で胡麻をするが良い。

 お前さんは誠実だし、緊張さえしなければ全ては良い方向に動くじゃろう」


和尚様に鉢とすりこぎを渡されてから幾日か。

たまたま近くを狩りのために訪れていた侍が男に声をかけた。

男は不快を買ってはならぬと貰った鉢で胡麻をすり始めた。

「ほれ、そこの男。おぬしは何をしておる」

「はい、お侍様に失礼があってはならぬと、無心で胡麻をすっております」

「人前で胡麻をするのは失礼に当たらぬと申すか」

「はい、緊張して答えも返せぬよりは失礼に当たらないと思うたのです」

「面白いやつ。うちに来るがよい。悪いようにはせぬ」


男は侍の家で下働きすることになった。

男は一番身分が低かったので常に胡麻をすっていた。

最初は奇異な目で見られこそしたが、

いつでも丁寧に胡麻をする男は、誠実な人柄も相まって皆に愛されたという。

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