七、 質屋

あるところに勤勉で愚直な若者がいた。

地主の一家に生まれ羽振りもよく、働く必要はなかったが、

世間を知らぬままに歳を重ねるのは良くないと、

親の副業を受け継ぐ形で質屋を生業とした。


商いの才はあったため店は親の代より大きくなったが、

色恋に興味を持たぬため、今度は跡継ぎの心配が出てきた。


親の言うことは守る子供である。

どこそこの誰それと結婚しろと言えば結婚するし、

子供を作れと言えば子供を作ることもするであろう。

だが、それでは人は育たぬ。


若者の親が迷っていると、お節介者が名乗りを上げた。

「私の娘を質草に入れましょう。

 質草と言えど人は人。食わねばならぬし寝床も必要だ。

 年頃の娘と生活を共にすれば、いずれは恋慕の情も湧きましょう。

 それに大事な質草となれば、無下に扱うこともせぬでしょう」


若者の親はその提案をえらく気に入り話がついた。

まもなく、お節介者の娘は質に入れられた。


質に入れられた娘は器量もよく勤勉であった。

質草という立場をわきまえ、若者の言うことをよく聞き、良く尽くした。

若者と娘の生活は周囲の話題にもなり、祝言はいつなのか、ともささやかれた。

だが、一年と半年が過ぎても、若者と娘の関係は質屋と質草のままであった。


そんな折、娘の親が流行り病で亡くなった。

残されたのは娘を質に入れた時の借入金と質草の娘だけである。


若者の親はお節介者の気持ちはくみ取りたいと、

若者と娘の祝言の段取りを組むために我が子のもとを訪れた。


「お前と質草の娘に話がある。あの娘はどこだい?」

「ああ、あの娘ですか。

 親が死に、金を返す当ても無いと聞いたので、女衒に引き渡しました。

 人売りとは意外に儲かるものなのですね」

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