六、 穴
この集落を進んだ先に板で塞がれた穴がある。
入り口は広く、かなり深い穴だそうで、
おそらく誤って人が落ちないようにとの配慮だとは思うがこんな話を聞いた。
以前は穴は塞がれていなかったそうだ。
住人は不要なものを捨てるための穴として使っていたらしい。
資源にも肥料にもならないような人から不要とされたもの。
それが何なのかはわからない。
昔の方が今よりリサイクルにはうるさい暮らしだからね。
それでも要らないと思われた物が捨てられていった。
ある時、そんな穴に物を捨てに行った住人が誤って落ちたらしい。
深い深い穴だが、本人は怪我もなかったのか声は聞こえる。
早く助けたいところだが穴の周りは崩れやすく大勢で行くには危険がある。
深さのわからない穴に足りる長さの綱が見つかるかもわからなかった。
仕方が無いので、せめて声のあるうちは食料だけでも届けよう。
それで当番制で握り飯を投げ込むようになった。
だが、三日が過ぎ、一週間が過ぎ、半月も経つ頃、
当番を疎ましく思うものも現れ始めた。
握り飯はいつしか残飯に変わり、残飯も野菜屑なんかに変わっていった。
それからしばらくしたのち、集落で病人が出た。
病状は重いが医者のあてはなく治る見込みもなかった。
そんな時、誰と言うわけではないが声が上がった。
「ただ飯食らいの穴の奴に世話をさせよう。」
否定するものがいなかったため、病人は穴に投げこまれた。
また野菜屑ともいえぬものが投げ込まれる日が続いた。
その日、当番についたのは好奇心旺盛な若者であった。
穴に鼠や烏の死骸を投げ込んだ。
「ほら肉じゃ、うまかろう」
すると穴の奥からいつものうめき声とは違う、はっきりした声が聞こえた。
「ちいせぇ、ちいせぇ。また肉をくれんか。以前くれた大きいやつじゃ」
若者は慌てて集落に向かい事の顛末を話した。
それから、穴は塞がれたという。
誰かが落ちぬように。
求める声が聞こえぬように。
求める者が出てこぬように。
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