騎士団副隊長ランベルトの日記。

来栖もよもよ

おはなし。

 ここはニホンベサルチア連合国。

 といっても昔ながらの日本である。

 

 ある日、富士山の麓に空いた穴から異世界の住人が現れ、世界各地にも同様の穴が空いた事で国際問題に発展したが、首脳会議で当時の日本の首相からの、

 

『魔法で防御されたらおしまいですし戦争にもなりゃしませんよ。ミサイルとか魔物に効くかも分かりませんし、日本の象徴である富士山を焼け野原にする訳には行きません。

 まあ害意もないそうなんで、ここは1つ穏便に』

 

 というなあなあの決断が評価され、各地で連合国として異世界の住人との共存関係が築かれる事となる。

 

 それから早数年。

 

 

 ラノベが存在する国の日本人からしてみれば、獣人や魔物と呼ばれるファンタジーが現実になって大歓迎だった者も多く、「外国人はとりあえずもてなす精神」が根強い年配勢からも、「日本人じゃない人(魔物)」という事でざっくりと理解され、概ね共存関係はどの世界よりも早く構築されていた。

 割と大雑把なゆるい国民性であるとも言える。

 

 だがベサルチアの人種(特に男性)は、一途で思い込みや独占欲が強く、思い込んだら命がけのストーカー気質な人種が多い事を、日本人はまだ気づいていない。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

「お、どしたの。幸せの溜め息かね桜くん」

 

「ルールー……いやぁ……そういうのでもないって言うか……」

 

 

 家電量販店の生活家電エリアに勤めている私、広川桜は、仕事を終えたロッカー室でもう何度めか分からない溜め息をついていた。

 

 

 ベサルチアからやって来た兎の獣人さんであるルールーは、日本の家電の素晴らしさに感銘を受けたとかで、ウチの会社に3年前に中途採用で入ってきたスタイル抜群の可愛い子だ。

 ウサ耳と真ん丸の尻尾以外は人間と変わらない。

 

 社内ではリアルバニーちゃんとして独身者からの熱い眼差しを注がれているのだが、獣人さんにはツガイというシステムが生まれつき備わっているようで、その異性とでなければ発情……付き合うというのもしないらしい。


 逆に結婚して子作りもしないのに付き合うという日本人の感覚が未だに理解できないようだ。

 

 結果、交際を申し込んできた男たちはことごとく玉砕しているのだが、ルールーは社内にはいないので安心して働けると言っていた。

 出会ってしまうと独占欲が強いらしく、女性のいる職場では全てが敵に見えて落ち着いて仕事も出来なくなるようで、彼女も彼女で大変なようである。

 

 こちらの年齢では22歳になるそうだけど、ツガイが見つかるかどうかも人によるらしい。

 こんな可愛くていい子が勿体ない話だ。

 

「桜くんにはベサルチア人のツガイ……ではなく恋人が出来たのではなかったか?

 ランベルトさんなら私でもベサルチアの頃から知っているぞ。とても真面目な人だと聞いているが」

 

 着替えを済ませたルールーは、私の隣のベンチに腰を降ろして顔を覗き込んだ。

 

 

 そう、24歳になった彼氏いない歴=年齢の内気でど平凡な私にも、とうとう1ヶ月前に彼氏が出来たのだ。

 それも、ベサルチアで騎士団の副隊長をしているという28歳の怖いぐらいのイケメンである。

 

 私より頭1つ分は高い身長に、鍛えた体もがっしりとして頼りがいのある、頭もよくて礼儀正しい、どこをどう切り取っても極上としか言いようがない人である。

 

 だからこそ悩んでいるのである。

 

 

 

 

「──なるほどな。余りに完璧すぎて、とても自分が釣り合う人間とは思えない、と」

 

「うぅぅ……」

 

 

 

 

 

 

 3ヶ月ほど前に彼が店に初めてやってきた時に、ウチの違うエリアの女性社員がフラフラと生活家電エリアに流れ込んで来て、ランベルトさんを遠巻きにして眺めていた程である。

 半端ではないいい男オーラがばらまかれていた。

 

「えーと、済まないそこのお嬢さん。ニホンの部署の方に移転になったので、1人暮らしをするのに必要な家電をみつくろって頂きたいのだが」

 

 と、たまたま近くにいた私にランベルトさんが声を掛けてきたのがきっかけである。

 

 私は緊張してまともに商品説明が出来ると思えなかったので、生活家電エリア10年の大先輩の峰山さんを呼ぼうとしたのだが、

 

「いや、せっかくだからお嬢さんにお願いしたい。

 ベテランの方の良さもあるが、君もスキルアップするためには経験を積まねばならないのだろう?」

 

 と間近でキラキラした笑みを向けられて鼻血が出そうになったが、確かに短大を出て4年目である。いつまでも先輩を頼っていてはいけない、と必死に冷静さを保ちつつ、炊飯器だの掃除機だのトースターや洗濯機だのの商品のメリットやデメリットを説明したのである。

 

 幸いにも幾つか購入して頂き、肩の荷が降りたと思った数日後、ランベルトさんが再び来店し、

 

「実はあのトースターなのだが、パンが全部黒焦げになってしまうんだ」

 

 と使い方の相談などを私にしに来るようになった。

 

「あ、それは温度の調節をするツマミがですね」


「洗剤を入れないと汚れは落ちないのです」

 

 などと慣れない機器の操作に戸惑っているランベルトさんが、早く日本の生活に慣れるよう親身になって相談に乗っている内に、

 

「桜さんが好きだ。是非ともお付き合いしてほしい」

 

 とランベルトさんが仕事帰りの私を待っていてくれて告白してくれたのが1ヶ月前のこと。

 

 真面目過ぎるのかキス1つしないが、週に1度のデート、週に2回、家電の使い方チェックも兼ねてランベルトさんの住む2LDKのマンションで一緒にご飯を食べるようになった。当然ながら健全そのものだ。

 

 偶然ランベルトさんのマンションと私のアパートが徒歩で10分位の距離という事が判明したので、

 

「どうせ一人で食べるなら、恋人と一緒に食べた方が美味しいと思うんだ」

 

 とまたキラキラした笑みで誘ってくれたのだ。

 

 そしてまた完璧な所が増えた。

 料理も素晴らしく上手いのである。

 

「1人暮らしが長いからね。サクラが気に入ってくれたなら嬉しい」

 

 と照れたように笑うのだが、短大から足掛け6年にもなるのにほぼ野菜炒めと精々肉か魚を焼くだけ、味噌汁は10袋入ったインスタントが基本という私にしてみたら、居たたまれないのである。

 

 

 今夜も夕食を一緒にする予定なのだが、自分が余りにもウリが無さすぎて、劣等感を刺激されてしまう日々に疲れてしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

「……で、いっそのこと別れようと?」

 

「そうなの。精神的にもうもたないのよ……」

 

 でもルールーに話を聞いてもらっただけで少し頭の中がスッキリした。

 

「ランベルトさんにはもっと相応しい人がいるわ。

 私がたまたま最初に生活家電のアドバイスをしたから好きになってくれただけで、ガサツでまともに料理も出来ない凡人なんだもの。

 顔もスタイルも平凡だし、普通の人と普通に恋愛したいの。安らか~な気持ちで」

 

「私は桜くん好きだけどな。親切で思いやりがあるし」

 

「女友だちと恋人とは違うわよ。

 ──よし。夕食の後で切り出すわ。ありがとう、話を聞いてくれて。吹っ切れたわ。

 ランベルトさんも話せば分かってくれるわよね?」

 

 私は立ち上がり、帰り支度をする。

 

「……ベサルチア人はそんな簡単じゃないと思うが……」

 

 ルールーが小声で何か言っていたが聞き取れず、

 

「え? ごめん何て言ったの?」

 

 と返すと、

 

「いや、何でもない。頑張れ。私は桜くんの味方だ」

 

 とニッコリ笑った。

 やはり女友だちって有り難い。

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

「……しまった」

 

 ランベルトさんと落ち合い、買い物をしてマンションにやって来たのだが、リビングまで荷物を運んだ辺りでランベルトさんが焦ったような声を上げた。

 

「ランベルトさん、どうしたんですか?」

 

「職場に大事な忘れ物をしてしまった。急いで取って来るから、テレビでも見て待っていてくれないか?

 タクシー使うから1時間もかからないと思う」

 

「え? 私はいいですけど、ランベルトさん手間だろうし、私はお弁当とか買って自宅で──」

 

 別れ話が次に延びるだけの話だしと思ってそのまま帰るつもりでいると、

 

「いや! 待っていて欲しい」

 

「そうですか。じゃ、お待ちしてますね」

 

「済まない」

 

 早足で玄関を出ていくランベルトさんを見送り、買い物した肉や野菜などを冷蔵庫にしまうと、やることがなくなってしまった。

 

 ソファーに腰かけて周りを見回すが、男性の1人暮らしというのに棚に埃もないし、テレビ台も綺麗だ。

 服を出しっぱなしにしてるとこなども見たことがない。自分のアパートと大違いである。

 

 ……私の部屋は週1しか掃除しないけど、ランベルトさんは毎日やってそうよね。

 

 溜め息がこぼれる。

 

 決してランベルトさんが嫌いな訳ではない。

 むしろ大好きである。好きで好きで困るぐらい好きだ。こんな何でも出来て自分に優しくしてくれる人などきっとこれから一生現れない。

 

 でも、私にはランベルトさんのような高級な人の横に立てる程の人間ではないし、私と付き合っているだけで日本の、いや世界の損失だと思う。

 

 夕食の後でと思っていたけど、考えてみたら食べるもの食べてから別れを切り出すとか最低だわ。

 ランベルトさんのご飯美味しいからつい。

 

 よし、戻ってきたら行くぞ! と決めた時に、ふとベッドルームのスライド式の扉が開いていたのが目に入った。いつも扉はきっちり閉まっており、


「汚れてるから」

 

 と決して入れてくれない部屋。

 

「珍しい……」

 

 いつもならそれで終わりだったのだが、好奇心でどのぐらい汚れてるのかしら、でもどうせ大した事はないのよね、と扉からチラッと中を覗いて、余りの恐ろしい光景に1回目をきつく閉じて、もう1度開いてみた。

 幻覚ではなかったようだ。

 

 

「……う、わぁ……」

 

 

 壁を埋めるように貼られまくった写真。

 それも全部私である。

 直接私に言ってくれれば恥ずかしいけどあげるものを、全て隠し撮りである。

 仕事をしているところ、ルールーとランチしているところ、コンビニで買い物してるところ、公園で日向ぼっこしてるところと様々だ。

 

 しかし現在は秋になったばかりなのだが、コートを着ているものもある。冬の制服を着ているのも。

 

 明らかに付き合う以前からの物である。

 

(どうして……いや、でも店に初めて来た3ヶ月前だってもう暑くて制服も夏服だったし……)

 

 私は頭が混乱した。

 あのランベルトさんがこんなストーカーみたいな事をしてたなんてとてもじゃないが信じられない。

 

 寝て起きたら夢だったという方がまだ現実味がある。

 

 ふと、そばのベッドテーブルの上に乗っている可愛らしいノートが目についた。

 

 【ラブダイアリー】と書かれた表紙と壁の自分の写真を交互に見て、

 

「……これは今の私には見る権利があるわよね」

 

 と誰もいないのに弁解をして、ページを開いた。

 

 

 

 ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

 

 3月×日

 

 仕事でニホンベサルチア連合国を訪れた私は、運命の人と出会ってしまった。

 駅の階段で「これ、落としましたよ」と鈴を転がすような美しい声がしたと思ったら、肩をトントンとされ、振り向くと笑顔でスウィカを渡してくれた女神に一目惚れした。何と思いやりのある正しい行いだろう。

 ベサルチアの女神より私には神々しかった。

 

 もう彼女以外は目に入らなくなった私は、仕事を後回しにして尾行をし、○○電機に勤めている事、△△駅から徒歩13分のアパートの201号室に住んでいる事、家族構成、現在お付き合いしている男性がいない事などを調べ上げた。

 まあ男が居たとしても、こちらは運命だからと別れてもらうか、聞き分けが悪ければベサルチアの山中で行方不明になってもらうかだったが、面倒な手間が省けて何よりだ。

 

 サクラ・ヒロカワ嬢。

 なんて綺麗な名前なのだろう。

 サクラというのはニホンで春に咲く可愛い花の名前だ。彼女になんとピッタリした名前なのか。

 

 フードで顔が隠れていたので私の顔は見えなかっただろうから、運命的な出会いを感じて貰えるよう何か考えなければ。

 

 だが、サクラ・ベイカーの方が彼女に合っているのは絶対に間違いない。

 

 ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

 

 

「……え? 待って待って、全く記憶にないんだけど」

 

 私はハイパーなイケメンのハイパーな情報収集力にも脅威を感じたが、落とし物した相手が分かっていれば拾って渡すなど、日本人で全く経験した事がない人の方が少ないだろう。

 続きも読み進める。

 

 

 ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

 

 4月××日

 

 サクラがアパートの更新をしたばかりで当分引っ越す予定がないという事が分かり、永住申請を出して最寄りの住まいを探す。一緒に暮らす事も考えて2LDK位にしておくか。補助が出るのでもう1部屋2部屋あってもいいのだが、いちゃつく為には狭い方がいいに決まっている。ベッドもダブルのを購入したので寝るときは一緒に眠ろう。

 自分の紳士としての理性を総動員して結婚するまでハレンチな振る舞いはしない。

 サクラに嫌われたら死ぬ。

 

 本当ならば役職のあるベサルチアの人間は3年単位で国に戻れるのだが、サクラのいないベサルチアになど2度と戻りたくもない。両親はいるが、兄弟も外に4人いるし、みんな仕事でもかなりいい地位にいて金銭的な問題もない。親の面倒は任せて問題ないだろう。

 サクラと結婚して子供でも出来たら里帰りして孫の顔でも見せてやりたいが、兄も弟たちもまだ独身だったらサクラが可愛すぎて危険だから、ニホンで結婚報告を待ってからにしよう。

 

 5月××日

 

 仕事の合間に隠し撮りしたサクラの写真に見守られながら眠るのも幸せだが、早く本人と知り合うきっかけを作らねば。

 だがちゃんと策は練ってある。

 サクラの店で家電を買うべく冷蔵庫とテレビ以外の物を買わずに頑張ってきたのだ。テレビでの情報収集は欠かせないし、夏場になると食料がすぐ悪くなるので冷蔵庫も致し方なかった。

 

 だが、ニホンジンではない私と果たして付き合ってくれるのだろうか。

 いや何としてもサクラと付き合って結婚して子供に囲まれて大往生ルートしか見えないのだが、人間には好みのタイプというものがある。

 生理的に無理とか言われたら死のう。

 いやこちらの世界では美容整形という技術が発達しているそうだから、サクラの好みに作り直して再度アタックしてからでも遅くはないか。

 

 騎士団と同盟を結んでいるジエータイの仲間に相談してみると、私の顔は不快ではないそうで、むしろ「タイタニックノレオサマ」や「ワカイトキノブラピ」という難しい名前の俳優に似てるそうなので、大抵の女性はイケると励まされた。

 大抵の女性はどうでもいいのだ。サクラ1人が好みかどうかだけでいいのだ。

 

 6月×日

 

 もう写真だけでは耐えられず、サクラの仕事場を訪問する事にした。

 仕事熱心なサクラは自分よりセンパイの方が良いものを紹介出来るはずと言い出したのを慌てて止めて、スキルアップに利用してくれと何とか直接案内してもらうのに成功した。

 正直サクラの声を聞いてるだけで涙が出そうな程幸せで、ここに来る前に買ったICレコーダーがちゃんと動いているかも心配だったが、自宅で確認したらちゃんとクリアにサクラの声が録れていたのでMP3に入れ直して毎晩エンドレスで流して癒されてから眠るのが日課になった。幸せだ。

 

 7月××日

 

 もう家電の不具合も考え尽くした。

 私は階下で働いているサクラを思いながら悩んでいた。

 いっそトースターか炊飯器を壊したことにしてもう1回買い直すかと迷っていると、テレビ売り場の男が2人、暇なのか雑談しているのが耳に入った。

 

「ルールーちゃんはツガイでないと駄目だそうだし、脈ないもんなあ」

「俺はサクラちゃんの方がいいと思うけどな。大人しくて何でも言うこと聞いてくれそうじゃん? ほら、尽くすタイプって言うの?」

「んー、でも気軽に遊べる子じゃないよね。ネクラ系は俺無理だし」

「まあ遊びなら外で探しなよ。社内だと問題になるし」

「だな」

 

 私はこの2人は年末にベサルチアに戻る部下に連れ帰ってもらいヒスゴラの崖から突き落とすか、ベスペリア山の鍛練の時によく襲ってくるベスペリアドラゴンから逃げる時の囮にして貰おうと心に刻んだ。

 

 8月×日

 

 とうとう告白してサクラと付き合ってもらえる事になった。嬉しくて今夜は眠れそうにない。

 テレビで『料理の上手い男はモテる!』という特集をやっていた。明日は料理本を購入しておこう。

 料理など食えればいいと思っていたが、サクラに好かれる可能性が高まるのならいくらでも上手くなってやる。

 

 9月×日

 

 週に2回のおうちご飯、そして週に1回のデート。

 間近で見る度に余りの愛らしさに頭に血がのぼってしまうが、15から騎士団で腕を上げる事だけを考えて女っけも全くなかった人間には、もう既に家でご飯を食べてくれるだけで深い関係である。

 いやもう妻と呼んでもいいのではないか。一緒に暮らそうと言ってもいいタイミングではないだろうか。

 まだ結婚とか早いって言われたら婚約だけでもいいからと確実に他の男が割り込めない関係にするべきだろう。ジエータイの友人からは、「え?まだ恋人に指輪も贈ってないんですか? マジないわ」と忠告された。

 こちらでは付き合っている段階でも指輪を贈る慣習があるようだ。勉強不足だった。

 慌ててサクラの指をマッサージする振りをして、薬指のサイズを測ってインターネットで調べたら9号というサイズだったので、そのままショップでシルバーリングを自分サイズのとペアで注文し、自宅だといない可能性が高いので職場にした。

 今度のおうちご飯の時には渡せるだろう。いきなり結婚では重いだろうから、いずれ結婚を視野にいれた婚約で一緒に住まないかと打診してみよう。私の部屋のサクラコレクションは片付けなければならないが、本物のサクラには敵わない。

 だがいきなり同じベッドは私の理性が崩壊するので徐々にがいいだろう。

 

 

 ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

 

 

「…………」

 

 抜粋して読んだだけでもかなり危険なタイプだと分かる。嫌われたら死ぬとか、整形しようとか、私の話をされてるだけで同僚を崖から落とすか魔物の餌にって。

 本でしか知らなかったが、これがヤンデレとか病み属性というタイプなんだろうか。

 あのキラキライケメンの見た目からは想像もつかないのだけど。

 

 忘れ物とはもしかすると日記に書いてあったペアリングだろうか。

 

 私はそっと元の位置に日記を戻してソファーに座りテレビをつけた。

 

 どこのチャンネルでもいい。アリバイ工作である。

 テレビに夢中でベッドルームなんて見る時間ありませんでしたよー、な体勢である。

 

 

 これは駄目だ。

 私といるのは社会的な損失だから解放してあげないと、と思っていたが、あの日記の中身が本当ならば私と別れたら死ぬだろうし、下手すれば私やルールーの話をしていた同僚の始末もしていく気がする。

 

 むしろ彼を解放する事で、社会的に行方不明事件や自殺者が出るという最悪のコースを辿る。

 

 私のどこがいいのか分からないが、とにかくタイプという事なのだろう。

 

 

 正直、写真のコレクションもそうだが自分の商品の説明を子守唄代わりにとかドン引きだし、知らないうちにスマホに位置特定アプリとか入れられてるかも知れないし、まさかとは思うが私のアパートにも盗聴器や監視カメラの類いもあるかも知れない。

 普通の人としてはアウトである。

 

 だが、私は反面少しホッとしていた。

 

 完璧すぎて近寄りがたいと思っていたランベルトさんが、実は犯罪すれすれ(いや犯罪か)な事をしてまでも私が好きだという人間味溢れる所が見えたからだ。

 実は料理も最近になって必死に練習したようだし。

 

「……私が責任を持って引き受ければ、日本は平和なのではないかしらね」


 そう思えばとても気が楽になった。

 

 執着的な行動も私限定のようだし、ものすごーくいい表現をすれば一途な男性ということだ。

 浮気性の男性は好きじゃないし、束縛もランベルトさんならいいかなと思う。

 

 コレはコレでありかもと思っていると、玄関の鍵が開き、息を切らしてランベルトさんが戻ってきた。

 

「済まないサクラ、今すぐご飯作るからっ」

 

 とエプロンを掴み出してキッチンに向かおうとしたランベルトさんは、ベッドルームの扉に気づいたようで、

 

「汗かいたから着替えないと!」

 

 とベッドルームに消え、部屋着になって出てくると扉をしっかり閉めていた。

 

「……サクラ、ずっとテレビを見てた?」

 

「あ、冷蔵庫に食料はしまいましたけど、後はぐうたらテレビを見てしまいました。すみません。

 何か手伝いますか?」

 

「あ、いやっ、いいんだ! 待っててくれ、ご飯はもうセットしてあるから30分位で出来るよ!」

 

 ホッとしたようにキッチンに入っていくランベルトさんの背中を見ながら、私は自分から一緒に暮らさないかと言ったらあの日記には何と書かれるのだろう、と思って何だかふふっと笑ってしまった。

 

「サクラ、テレビ面白い?」

 

 笑い声が聞こえたのかキッチンからランベルトさんが顔を出した。

 

「ええとっても。ご飯楽しみにしてますね。お腹空きました」

 

「分かった!」

 

 

 私は来たときの重苦しい気持ちがすっかり消えているのを感じた。

 

 ストーカーでヤンデレだと判明した危険な男と一緒なんだけど、ストーカーされている側が了承済みなら心配性の恋人ってだけである。

 

 

 でも同僚は手出ししない方向できちんと教育せねば。

 

 

 

 

 

 

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騎士団副隊長ランベルトの日記。 来栖もよもよ @moyozou777

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