第49話 記憶


「まず、俺たちはカナタの存在を政府に公表していない。」


ヒロの口から衝撃的な発言が聞こえた。


政府に公表しないなど、政府のもとの組織が許されるのだろうか。


「ちゃんと、これにも理由がある。俺はサンとペアになる前に真実を知る覚悟があるかって聞いたよな?その時に話そうとしていた内容と関係してくる。」


ヒロが言った。


俺は唾を呑み込んだ。


「それを今から話すんだな。」


「そうだ。だから、心して聞けよ。」


「まず、俺たちグループ1いや、グレーボーダーがカナタを引き渡してはいけない理由は、カナタの記憶がない時点で決定したことだ。


俺はあまり、こんなこと考えたくなかったがグループ1もしくはグレーボーダーに敵の回し者が紛れ込んでいる。」


とヒロが言った。


「スパイってことか?何でわかるんだ?」


俺は恐怖すら感じて、動揺しながら言った。


「まぁ、そうなるな。カナタが化け物の姿で俺たちと戦っていた時、サンのことをカナタは覚えていたよな?なのに、目を覚ましてから化け物になったことだけじゃなく、サンのことまで忘れている。


それは、化け物になったことによる副作用とも考えることができる。この時点では、何がとか決定的なことは言えない。


でも、サンがいた。サンは、カナタを殺してしまった記憶をずっと持っていたよな。

途中で自分の記憶とは違うものが夢で見ていた。」


とヒロは俺の目をしっかり見ながら言った。


化け物の姿のカナタと戦っていた時、むしろ俺より先にカナタは俺の存在に気付いていた。


今記憶がないのは、化け物になったことによる副作用とも考えることができる。


俺は能力『時間』による睡眠で常に夢を見ていた。


ヒロはまだ続けた。


「でだ。カナタはサンに殺されてなどいなかった。


今だって、どこか悪い訳でもなそうだし、しっかり生きていた。


これは、サンの記憶が間違っていたことがいえる。


でも、おかしいと思わないか?お前の記憶がいくらショックな内容だからって、細かいところが全く違うように記憶するか?」


とヒロは言った。


「たしかに俺も、自分の記憶に信憑性がないことは何となく感じていた。」


と俺は返答した。


「じゃあ、サンの記憶が何で変わったと思う?」


とヒロは俺に質問してきた。


「誰かに操作された‥とか?」


と自分でも半信半疑な答えを出した。


「その可能性が1番高い。そこで繋がるのは、カナタの記憶も誰かによって、操作された可能性だ。何か、知っていたんじゃないか?

カナタなら、お前の前で化け物になった日のことを。だから、その時の関係者が消した。


そう考えるのが1番妥当だ。」


とヒロは言った。


数年前の俺と今のカナタの記憶を消した人物がいるのだ。そして、そいつは何か知られたくない情報があったんだ。


「今まで、

サンの『時間』

スリーの『喪失』

シグマの『コピー』

マサの『肉体強化』

アーシャ、アレクの『瞬間移動』

と珍しい能力を見てきた。

実は俺は記憶に関する能力の人物に心当たりがある。ただ、こいつがその能力だと言うことに確信を持ててはいない。

確認するにも確認できないでいる。それをサンに手伝ってほしい。」


とヒロは言った。


「手伝う?それがカナタを引き渡さないことと何が関係しているんだ?」


と俺は少し混乱していた。


「これも確信はないが、俺は政府を味方だと思っていない。


あいつらに渡したらカナタの無事でいられる可能性は保証できない。

もしかしたら、敵に塩を送ることになるかもしれない。


だったら、こちらで身柄を確保していた方がいいんだ。」


とヒロは言った。


俺はヒロの言う敵という表現が曖昧で少し気になった。


「俺は何を手伝えばいいの?」


と俺は言った。


「グループ1とグレーボーダー全体に『昔の記憶が戻った』って言うだけだ。


そしたら、敵のスパイとやらは絶対お前に近寄ってきて、記憶を書き替えようとするはずだ。」


とヒロは少しニヤッとしていった。


おとり作戦か‥。」


俺は再び唾をのみこんだ。


「まぁ、そういうことになるな。」  


とヒロは言った。


「大丈夫さ。相手が何かを仕掛けてきたら俺が守ってやるよ。」


と少し俺を小馬鹿にして言った。


「守られるのは好きじゃない。」


俺は口を尖らせて言った。


「まぁまぁ、お互い助けあっていこ。ペアなんだし。」


とヒロはニコッと笑った。


「やっぱり、ペアになったんだよな。俺、Sランク1位の奴のペアになったんだよな‥。」


と俺は自分に言い聞かせながら言った。


おとり作戦決行のタイミングはサンのタイミングに任せる。」


とヒロは手をグーにして差し出してきた。


俺は自分のグーの手でそこに押し当てた。








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