第42話 模擬戦


俺とスリーは仮想室に向かった。


この戦いの前、俺は薬を2粒飲んだ。


スリーの能力『喪失』は俺の能力を使えなくさせることができる。


だとしたら、そんなに薬は飲まなくていいはずだが、俺はスリーの『喪失』の詳しいことは知らない。


そして、なんといっても、スリーはSランク3位だ。簡単に勝てる相手ではない。


俺とスリーは、仮想室にそれぞれ入った。


「1回戦しかできないから、最初から飛ばしていくよ。」


とスリーが言った。


俺は初め、スリーの動きの様子を見ることにした。


スリーは元々、『喪失』というとても珍しい能力であった。


能力という物では珍しい、相手に仕掛けるものだ。


この能力を駆使するには、自分の戦闘能力が高くなければならない。


その能力でSランク3位となると、当たり前だが強いに決まっている。


俺がグレーボーダーに入りたての頃、特訓してもらった時大きな壁にも感じた。



「あんまり、攻撃をしてこないね。」


とスリーが俺に言った。


俺は能力『喪失』をもう既に使われていると思った。


俺はもしやと思い、能力『時間』を発動した。


心の中で「遅くなれ」と呟いた。


なんと、時間は遅くなった。


スリーはまだ、能力を発動していなかった。


これはスリーを警戒するべきなのか。


いや、相手を攻撃できるチャンスだ。


俺はスリーの背後に立とうと、ジャンプした。


そのまま立とうした瞬間、急にいつもより短い時間で元に時間に戻った。


「このタイミングだと、そこにいるんだね!」


とスリーが俺の背後からくる攻撃を避けながら言った。


スリーはこのタイミングで『喪失』を使ったのだ。


どうやら、俺がスリーの様子を見ていたのではなく、動きの様子を見られていたのは、俺だった。


「よく、タイミング良く、発動したな。」


と俺が言うと


「僕の予測が当たっただけだよ!だから、ほとんどまぐれだよ。」


とスリーは言った。


まぐれだとしても、スリーの戦闘における勘は本物だ。


俺はこれで能力は使えなくなったのか?それとも‥。


今度は少しタイミングをみてから発動をすることにした。


スリーに予測されないように‥。


それでも、スリーの予測しにくい動きは俺にはついていくだけで精一杯だった。

そして、これは予測だけではない。少なからず、反射的に避けている部分もあるはずだ。

さすがの反射神経だと思った。


俺もこのままでは一方的にやられてしまい、確認したいことも確認できない。


俺はスリーの攻撃をわざと受けて隙を作ることにした。なるべく急所に当たらないように。


しかし、俺にここでふとある懸念が浮かび上がった。


スリーレベルだったら、攻撃をわざと受けたら、流石にわかるはずだ。


そしたら、そのタイミングで能力も使うことがバレてしまうのではないだろうか。


上手く能力を使えなかったら元も子もない。


あまり、能力は使いたくなかったが、上手く能力を使うためには、能力を使って隙を作りその状態で、能力を再び発動するしかない。


俺はスリーの攻撃を受けている間に心の中で「遅くなれ」と呟いた。


能力は使うことができた。


スリーの能力『喪失』は相手の能力を消したり、戻したりすることができるようだ。


流石にこのタイミングではバレていない様子に俺は安心しながらスリーから数メートル離れた。


そして、そのまま連続的に能力『時間』を発動した。


俺は確実にスリーに攻撃をすることができた。


時間が元に戻ると、スリーは自分が攻撃されたことに気づいた。


「さすが、サン君。これに気づくのは流石に無理だ。」


とスリーあまり、動揺している様子はなかった。


俺はスリーのこの攻撃を受けたにも関わらず、余裕な様子が気がかりであった。


スリーは先程より攻撃的な戦闘になった。 


今までのスリーの動きの中で1番早かった。


所々、スリーの剣が俺の体にかすった。


このままではダメだ。能力を使わなくは、対処ができない。


俺は再び能力『時間』を発動した。


まだ、スリーの能力『喪失』は使っていないみたいだ。


俺はそのまま、スリーの真上に飛んだ。


すると、これも先程と同様にスリーに勘づかれて『喪失』を使われ、元の時間に戻った。


俺はジャンプした状態で時間がいきなり戻ったため、動揺して、少し体制を崩した。


スリーはその隙に俺から離れた。


俺は勘づかれているままではまずいことに気づいた。少し、スリーに押されている部分がある。


これに勝つためには、予想外の攻撃をするしかない。


俺がスリーにされて予想外だったのは何だっただろうか。


能力の『喪失』を使っていると思ったら、使っていなかったこと。


俺が能力を発動最中にタイミング良く、『喪失』を使われたこと。


スリーがまだ、俺の能力『時間』で知らないことは何だ?


俺の能力の弱点は絶対に知っている。


俺の能力の発動時間がが薬によって拡大されことは知っているのか?直接は、いっていないはずだが、流石に試合を見ていたからわかるはずだ。


『時間』を使って大幅に時間を戻してみるとか?


俺はまだ、実際にやったことはなかった。


それなりにリスクがあったからだ。


でも、これを機にやってみてもいいかもしれない。


俺はスリーに向かって口を開いた。


「俺は、『時間』を使って大幅に時間を戻すことが可能だ。」


すると、スリーは驚いた顔をした。


当たりである。


「これで戻して、スリーとの対決をし直す。」


と俺は言いながら、心の中で「戻れ」


と呟いた。


「1回戦しかできないから、最初から飛ばしていくよ。」


とスリーが言っていた。


これは、さっきの試合の最初でも言っていた言葉だった。


成功したのだ。分単位で戻ることができた。


しかし、俺は、こうも安心していられない。

ミシェの開発した薬を2粒しか飲んでいない俺にとって、今の消費は大きい。


なるべく早く、スリーを倒す必要がある。


早速、俺は能力『時間』を使って背後に行った。


ここで俺はスリーの予想外になればいいんだ。


俺はそのまま攻撃の態勢をとることができた。


そして時間が戻った。


俺はスリーの背中を思い切り攻撃した。


「えっ。」


とスリーはその一言だけ残し、試合終了のブザーが鳴った。







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