第37話 サンの本来の目的

今の俺の目標はたった一つだった。


ヒロのペアになること。


これだけだった。


ナオとペアを解消するのは、少し寂しい気もしたが、俺はそれでも、意識は変わらなかった。


俺はその時、この前のヒロの発言を思い出した。


「俺とアレクのペアを解消してくれたら、ナオとのことを話してもいい。」


俺はこの言葉を少し冗談のように解釈していた。でも、これがもし、本当に言っているとしたら?


ヒロとアレクのペアを解消する方法とはなんだろう?


そして、俺はその場にいた、ナオに質問をした。


「1度ペアになった人たちを外部の人によって解消する方法ってある?」


ナオは俺の質問に驚いたのか、一瞬固まった。


「方法というか、条件付き対決とか‥?」


と言った。


「条件付き‥ってことは、条件を懸けて戦うってことだよね。」


と俺が言うと、ナオは少し体勢を変えて


「うん。例えば解消して欲しいなら、自分が勝った場合ペアを解消するっていう条件を相手にのんでもらう。相手が勝った場合は相手の条件を自分がのむっていう対戦だよ。」


とナオが言い、言い終わったと思ったらまだ話を続けた。


「それは、ヒロとアレクのペアを解消させたいってこと?」


とナオが答えにくい質問をしてきた。


その時、俺が無意識に無責任なことをナオに言ったことに気づいた。


当たり前だ。今ペアを組んでいるのはナオなのに、その人に対してペア解消をしたら、なんて話をしたら、勘づかれるに決まっている。


俺が黙っているのに対してナオは


「やっぱいい。そこまで興味ないし。」


と言った。


俺はこのままじゃ、ダメだと思った。自分の拳を強く握り締めながら


「解消させたい‥。」


と俺が言った。


すると、俺の無責任の言葉なのにも関わらず、


「だから、答えなくていいって。」


とナオは笑って言った。


「ごめん、ありがとう。」


と俺は俯きざまに言った。


「ところでさ、サンの能力で知りたいことがあるんだ。」


とナオは話題を変えた。


「知りたいこと‥?」


と俺は不思議そうに言った。


「うん。サンの『時間』って、過去に戻ることは出来る?」


とナオは聞いてきた。


過去に戻ったことは、無意識のうちになら、たぶん、ある。


でも、能力に自覚が芽生えてから、過去に戻したことは一度もなかった。


「出来ないことはない‥はずだ。」


と俺は曖昧に答えた。


「もし、出来るとしたらでいいんだ。一年前に戻すこととかは出来るのか?」


とナオは言った。


「一年前‥?それはどうだろう。出来たとしても一年前に行くのは俺だけだ。あと、知ってると思うけど、俺の能力を使いすぎると意識がどんどん無くなって、眠くなるんだ。だから、それをやったら、どうなるのか‥。」


と俺が言うと、ナオは少し落ち込んだように見えた。


「そうか。そうだよな。ありがとう。」


とナオは言った。


これは一年前に戻りたいということだろうか。でも、一年前となるとヒロとペアを組んでたあたりではないのか?


そんなことを頭に回らせていた。



すると、ナオから再び口を開いた。


「サンの弱点は治すことは出来ないのか?」


とナオは言った。


「弱点だから、無くすのは無理だろ。」


と俺がいうと


「でも、俺の能力は最初は、能力と呼べるほどのものじゃなかった。人より耳が少しいいってだけだった。


だけど、グループ1のミシェがヘッドフォンをもっと聞けるように開発したことで、『耳がいい』から『人より耳がいい』に変化した。


こんな感じにサンもできるんじゃないか?ミシェに協力して貰えば、何か弱点克服につながるものがあるかもしれない。」


とナオは言った。


ナオはあまり、凄い能力でもないが、珍しい能力ではあった。そのため、開発するにしたってそれなり、大変だったと思う。


これを能力と呼べるようにしたミシェの開発技術には少し驚いた。


「ミシェか‥。たしかに、頼ってみてもいいかもしれない。」


と俺は言った。


「俺が思うに、ミシェの開発技術は、グレーボーダーだけじゃなく、政府全体でも3本の指に入るはずだ。きっと、何か些細なことでも得られると思う。」


とナオが言った。


俺とナオは任務が終わってから、ミシェのところに行った。


ミシェはグレーボーダーに自分用の研究室を持っており、普段はそこにずっといる。


「ミシェはいますか?」


とナオはミシェの研究室の仲間に聞いた。


「ミシェさんは、今は右手の1番奥の方の研究室にいらっしゃいます。」


と親切に教えてくれた。


俺とナオはミシェのいる部屋に向かった。


ミシェの研究室の扉の前に着くと、そこでは

「バーン」「ガッシャン」

といろんな音が爆音で聞こえた。


ナオは


「うるさいな。」


と言いながら、研究室の扉を開けた。


「ミシェ、今いいか?」


とナオが言った。


するとミシェはこちらに気づいたようでミシェの背後にあった実験器具?のようなものを必死で隠した。


「あー、ちょっと、数秒でてってもらってもいい?」


とミシェは、苦笑いで背後のものを隠しながら言った。


俺とナオはミシェの言う事を聞き、一旦ミシェのいる研究室を出た。


すると必死で物を片付けているのか、

「ガラガラガッシャン」「バリーン」

と先程より、激しい音が鳴った。

しばらくすると音は止み、ドアからミシェが顔を出した。


「入っていいわ‥。」


とミシェが言い俺たちは再び研究室に入った。


「ナオ!久しぶりね。

なんか、だいぶ、キャラ変したのね!?前はあんなに可愛かったのに‥。」


とミシェはナオの顔を見てがっかりした。


「キャラ変ってなんだよ。」


とナオが少し苛立ち気味にミシェに聞いた。


「なんか〜前は、ミシェミシェって、人懐っこい感じだったのに。今はなんだろ?

『俺、一匹狼だぜ、かっこいいだろ』みたいな‥?」


とミシェは言った。


「ふっ。」


俺はミシェのなんとなく的を得てそうな答えに思わず笑ってしまった。


「おい、サン。笑うな。」


といつも冷静なナオが俺に対して少し興奮気味に言った。


「ごめんごめん。つい‥。ふっ。」


と俺は抑えられずまた笑ってしまった。


「それで、用件は何かしら?」


とミシェが俺たちに尋ねた。


「昔、俺の能力の性能を上げるためにヘッドフォンを開発してくれたじゃん、

サンの能力『時間』は使いすぎると眠くなってしまうって言う弱点があって、それの改良を頼みたくて。」


とナオが言った。


すると、ミシェは少し考えてから言った。


「完全に無くすのは、難しいかも。でも、改善の余地は全然あるよ。

2つのパターンがあるんだよね。こういう時。」


とミシェは言った。


「2パターンっていっても一つはとっても単純なんだけど。

まず一つ目の方法は、そもそものサンくんの体に合わせた器具を作って、能力の効果時間を増やす方法。これは、試行錯誤が必要だから、時間がちょっとかかるかも。

2つ目の方法が、とっても単純な方法なんだけど。

サンくんが能力を使っても意識を保つ時間を増やす薬を開発する。これは、ほとんど能力は関係ない薬でも効く気がするからすぐできる方法ね。」


とミシェは言った。


「サン、どうする?」


とナオが俺に聞いた。


本当なら、「両方!」と言いたいところだが、そんな我儘は言ってミシェに負担をかけることは出来ない。


「両方出来ないのか?」


とナオがミシェに言った。


「おい!ナオ!流石にそれは‥。」


と俺が焦っていうと


「出来るわよ。」


とアッサリとミシェは答えた。


「えっ!?」


と思わず驚いてしまった。


「よかったな、サン。」


とこの流れが当たり前のようにナオは言った。


「両方はさすがにきついだろ。」


と俺が言うと


「あー!大丈夫大丈夫。そこは全然気にしないで。」


とミシェが言った。


「本当に大丈夫なのか?」


と俺がナオに聞くと


「大丈夫大丈夫。むしろ、あの人、サンの身体を研究したいとか思ってるタイプの人だから。」


と平然とナオは言った。


俺はミシェに少し恐怖を感じて背筋が凍った。


そして、俺はミシェに薬と俺の体にあった道具を作ってもらえることになった。

薬は1週間以内とすぐに出来るらしい。

それに対して、道具は半年以上はかかるらしい。それでも、作ってもらえる事は俺にとっては楽しみでもあった。


俺はミシェからいくつかの検査のようなものをされた後、薬が出来たら連絡をしてくれることになった。


俺はナオとミシェのおかげで新たな進歩に近づこうとしていた。

















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