第39話 ナオとヒロの真実

俺は試合が終わって、みんなに祝福してもらった後、


ヒロのところに行った。


「いやー、凄かったな。」


とヒロが俺に聞こえる声に言った。


「ヒロ!」


と俺はヒロを呼んだ。


ヒロはこちらを向いた。


「ペア解消できたか?」


俺はヒロに聞いた。


「おかげさまで。お前はいつも俺の予想を超えてくる。ほんと、面白すぎるよ。」


とヒロは笑いながら俺に言った。


「俺だって、いつも想定外のことばっかだ。」


と俺は言った。


「あれだよな?ペアを解消したら、ナオのことを話すってやつだろ。」


とヒロは言った。


「ああ。約束だったはず。」


と俺は言った。


「約束だよ。今ここで話しちゃっていいか?」


とヒロは俺に聞いてきた。


「うん。」


と俺は言った。


すると、ヒロは一息をついた。


「ナオからは聞いてる‥みたいだな。」


とヒロは俺の目を見てから言った。


「まず言っとくが、この話はそもそも話すってほどのものじゃない。単純な話なんだ。


俺とナオが出会ったのは、1年前だ。俺は誰とペアをやっても続かなかった。


特に年上のランクが高い奴らとは気が合わなかった。


そんで、俺にペアがいない時にナオはキラキラした目で俺とペアにならないかって迫ってきたんだ。


そんな純粋な目をされたら流石の俺でも断れないから、ペアを組むことにしたんだ。


最初は、いい感じだったんだよ。1週間ぐらい?元々、本当にペアが続かないタチだったから、1週間ってだけで長く続いてた方だった。


それから2週間ぐらいたって、もっと自由に戦って欲しいってナオに言われたんだ。

またキラキラした目でさ。


一回だけ、本気でやったんだ。


そしたら、次の時からナオの動きが変わったんだ。明らかに前より動きが遅かった。

そしてそれは次第にどんどん遅くなっていった。


多分、俺の動きに無理に合わせてたんだ。


それで、俺はナオに何度も『休んだほうがいい』って伝えた。本当に心配だったから。

客観的に見たら、ナオの調子が悪くなっていったのは明らかだった。


でも、それをまともに受けようとしなかったナオは余計頑張っちゃったんだ。


このままだと、取り返しのつかない体になるって思った。


これは言ってもダメだと思って、強硬手段に出たってわけ。


確かにナオに、お前とペアを組むのは無理っていうのは、はっきり言いすぎたかもしれない。でも、これぐらい言わなきゃ多分、休んでくれなかったと思う。


これは悪いのは明らかに俺だ。ナオのことをしっかり終始考えてあげられなかった俺の責任だ。


はい、これで全部。」


とヒロは言った。


確かにヒロの言う通り、難しい話ではない。単純明快である。ヒロは、ナオの怪我の悪化をこれ以上防ぐため突き放したのだ。


ヒロは何も理由なく突き放す奴ではなかった。


「もしかして、アレクと組みたくなかったのも?」


と俺が聞くと


「それもある。でも、アレクの場合は俺と組むより、断然アーシャと組んだ方が良い。


俺とアレクペアとして成り立ってなかったし。」


と少しニヤッとしてヒロは言った。


「俺もヒロと組んだら、怪我するのか?」


と俺はヒロに聞いた。


「やってみなきゃわかんないな。でも、俺は『やってみなきゃわからない』って初めて思ったんだ。お前なら、って。」


とヒロは言った。




俺はヒロと別れたあと、ナオにヒロが言っていたことを話すことを決めた。


そして、その日は一気に眠気に襲われ、俺は薬の影響で半日以上眠った。3粒は流石に効きすぎたかもしれない。


目が覚めた俺は、すぐにナオに直接ヒロとのことを話した。


すると、ナオはなぜか、無反応だった。

まるで知っていたかのように。


「そんなことだろうなとは思った。

結局、俺もアレクと一緒ってことだ。

自分勝手に解釈して1人で勝手に落ち込んで。口はあるはずなのに、変にコミュニケーション取らないで。」


とナオは言った。


それを聞いた時、俺はナオが本当に強い人間だと感じた。


俺だったら、「何だよ!!」とか怒ってしまう。2人にも2人だけの繋がりがあるかもしれない。


そして、ナオはヒロの取った行動の理由が何となくわかってたからこそ、俺に能力の『時間』で1年前に戻して欲しかったのかもしれない。

やり直すために。


「サン。俺たちのペア期間1ヶ月だったよな。」


とナオが俺に言った。


「ああ。」


と俺が言った。


俺とナオはペアになってまだ、1ヶ月はたっていない。


「ペアを解消しよう。お前は絶対にヒロと組め。」


とナオにしては珍しく、笑顔で言った。


「‥‥。」


俺は何も答えられないでいた。


これは言わせてしまっているのではないか。


ナオにはたくさん感謝を返さないといけない。まだ返せてない。


「俺、お前の初めてのペアになれて良かった。それは変わらないしな。考えてみろよ。お前の今までの行動は全部何のためだよ?」


とナオが言った。


俺は今まで全てヒロとペアになるために行動してきた。


ナオとペアになったのも1ヶ月と言う限定だったというのもある。


「俺はお前にまだ、何も返せてない。」


と俺は言った。


俺にしては弱気な言葉だと思った。

ナオとペアを組む前の俺なら真っ先にヒロの元に行くだろう。


「俺は、お前が1ヶ月弱、俺と過ごしてくれたことが全てなんだ。

うーん。でも、もし、返したいって思うならヒロのところに行け。」


とナオは真剣な顔をして言った。


「もし、お前がヒロと組んだら、お前と対決するために俺もSランクの順位戦に参加する。その時は、ライバルとしてよろしくな。」


とナオは今度はさっきより、優しい笑顔で言った。


「だから、サン、行け。」


とナオは俺の肩を押した。


「ナオ。ありがとう。」


と俺は力を込めて言った。


そして、俺はヒロの元に走っていた。


走りながら思った。俺はあんなすごい奴のライバルになれるんだ。少し寂しい気持ちはあった。でも、ナオが自ら俺の背中を押してくれた。そのおかげで今走っているのだ。




俺はヒロのいるグレーボーダーの本部に着いた。


「ヒロ!」


名前を叫んだのはこれで2回目だ。


ヒロはこちらに気づき、駆け寄ってきた。


全速力でここまで走ってきたので、息切れで言葉が上手く出ない。


ヒロは俺の言葉が言うまで待ってくれた。


「俺‥俺は、ヒロと‥ペアを組みたい。」


と俺は息切れしながら一生懸命に言った。


「この任務サボってくるからちょっと待って。」


とヒロはちゃらけて言った。


相変わらず適当な人である。


ヒロはグレーボーダーの隊員に耳打ちをした。


そして、こちらに戻ってきた。


「とりあえず、今日の俺の任務は完了したことにしたから、グループ1の食堂に行こう。」


とヒロは言った。


「で、何でそんな走ってきたの?」


と歩きながらヒロは聞いてきた。


「うるせぇ。」


俺は何か恥ずかしくなった。


俺とヒロは食堂に座った。生憎、食堂には俺とヒロのみだった。


ヒロから話だした。


「そういえば、ナオとのペアはどうしたんだ?」


とヒロは聞いてきた。


「解消してきた。」


と俺が言うと少しヒロは目を大きめに開いた。


「まだ、1ヶ月たってないだろ?」


とヒロは言った。


「ナオと話し合って解消してきた。ヒロとペアを組むために。」


と俺は言った。


「あの、ナオがね。」


とヒロは感心しながら言った。


「でも、俺はお前がそのうち俺のところに来ることはなんとなーく予感してた。」


とヒロは言った。


「何でもお見通しかよ。」


と俺は少し口を尖らせながら言った。


「ははは。」


とヒロは俺の様子で笑った。


「ヒロ、ペアのことだけど‥。」


と俺が言うと


「覚悟はあるか?」


とヒロは真剣な眼差しで言った。


「覚悟‥。」


俺はボソッと言った。


「真実を知る覚悟だ。」


とヒロは言った。


ヒロはまだ続けた。


「真実を知ることは怖いことだ。知らなくていいことを知ってしまうんだ。それでも覚悟はあるか?」


『真実を知ることが怖いこと』と言う言葉が俺の頭の中に響く。


覚悟なんてグレーボーダーに入った時からできている。


「覚悟は出来てる。」


と俺はヒロの目を見ていった。


俺とヒロ数秒間真剣にお互いの目を見た。


しばらくしてヒロが口を開いた。


「わかった。サン、俺とペアになってくれ。でもその前に、大事なはなしをきいてほしい。」


とヒロは言った。




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