第35話 サンに残ったもの
俺は声を荒げるほど、そして、これ以上ないほど泣いた。
4人に見守られながら、俺は次第に落ち着いていった。
すると、落ち着いた俺を見て一安心したのか、マサはこの後、用事があると言って帰っていた。
「何か飲み物を買ってくるね。」
ミナとスリーは飲み物を買いに立ち去った。
俺とナオの2人きりになった。
するとナオが口を開いた。
「今のお前に言うべきことじゃないのかもしれないが、俺はお前がヒロとペアを組まなくて良かったと思ってるよ。」
ナオのその発言に、ナオがヒロを毛嫌いしていることを思い出した。
そして、なぜここまでにヒロのことを嫌っているのか不思議でたまらなかった。
そこで話が終わりだと思ったら、ナオはまだ話し続けた。
「俺からお前に提案があるんだ。」
とナオは俺の目を見ないで壁を見つめて言った。
「提案‥?」
俺はナオに聞き返した。
「そうだ。1ヶ月間、俺とペアを組まないか?」
とナオから出てきた提案は思いもよらないものであった。
これは、ナオが本気で言っているのかと疑いを持ったが、こんな大事なことを冗談で言ったりするやつではないことは十分に俺は理解していた。
「突然すぎてびっくりだよ。でも、なんで俺とペア?」
と俺が言うと、
「突然‥。そっか、突然だな。」
とナオは突然なことを今気づいたように言った。
「理由は、サンの能力に興味がある‥じゃ、物足りないか?」
と真剣な顔をしてナオが言った。
俺の能力に興味‥。
「少し、時間をくれないか。明日までに決めるから。」
と俺は言った。
俺は今の俺が正常に判断できるかは、危ういと感じていた。
答えを急ぐより、せめて冷静になってから答えを出した方がいいと考えた。
「そうだな。おれも、タイミングが少し悪かったな。それは申し訳ない。
ゆっくり考えてくれていい。」
とナオは快く受け入れた。
そして、そのまま、ヒロに会うことはできずにいた。
俺は翌日、学校に行くと
クラスのみんなに囲まれた。
そしてクラスのみんなは俺の能力について質問攻めをしてきた。
「なんでそんな能力使えるの?」
「昨日見たよ!すごかったよね!私、感動したよ!」
と俺はたくさんな人に囲まれていて混乱していた。
なぜかというと、俺は今回の大会で決勝戦で負けた敗者なのである。
敗れた自分にこんなに人が集まるとは思いもよらなかった。
すると、SPのようにスリーとミナが
「はい、散った!散った!」
と俺の警備に回った。
クラスのみんなはミナとスリーを睨みつけた。
そんなことをしている間に、ナオが俺の前に現れた。
「俺とペアになるって言うのは考えた?」
と通常の声のボーリュムで、淡々と俺に言った。
その話を聴いた瞬間、ミナとスリーと含めたクラス中の人が俺とナオの方を向いた。
「ちょっと、声、大きくないか?みんなこっち見てるぞ。」
と俺がナオに小声で話すと、
その小声を無視するかのように
「気にするな。誰も見てない。」
と平常運転のナオであった。
流石の俺も「いや、みんな見てるやん」とツッコミたくなった。
しかし、既に俺はその時には決心がついていた。
ナオへの返事は早い方がいいと俺は考え、その場で答えた。
「いいぜ。ペア組もう。」
と俺はナオとペアを組むことにした。
理由は単純だった。まず、1ヶ月限定ということに、俺はナオがずっとペアでいるつもりがないことがわかった。
俺たちは一時的なペアとなる。
それは俺にとっては都合がいい。
俺はヒロと組みたいのだ。
1ヶ月というのは、そんな俺に適した期間であった。
そしてなんと言っても、ナオがヒロをなぜそこまで毛嫌いするのか、ただただ、知りたかったのだ。
また、元ヒロのペアがどんな動きなのかも興味があった。
そして、俺の能力のどこに興味を持ったのか、それを知りたいところでもあった。
俺がナオとのペアを承諾した瞬間、
クラス中に驚きの声が響き渡った。
すると、ミナが俺の机を「バーン!」
と叩いて
「正気!?そんなに昨日の戦いで精神病んだの!?」
と言ったとおもったら、今度はナオの胸ぐらを掴んで何度も揺らしながら
「お前〜!裏切ったな!いつだ!?いつの間にだ。あっ!私とスリーが飲み物買ってる時だろう。お前ー!」
と言って、まだ、ナオの胸ぐらをゆらゆら揺らしまくっている。
「そんなに驚くことか?」
と平然そうに見えたスリーだったが、足元を見ると、プルプルプルプルと震えていた。
1番動揺していたのは、ミナではなく、スリーだったみたいだ。
こんな感じで大事件認定されたこの出来事は、瞬く間に、本部全体に広まった。
俺がペアを組んだこともそうだが、ナオはヒロとペアを組んでから、誰ともペアを組んでいなかった。
それを踏まえて、みんなの驚きが倍増し瞬く間に広まったのだ。
それはもちろんヒロの耳には入ったのだった。
俺はその日グレーボーダーのグループ1に帰ると、どこかに出かけようとしていたヒロとでくわした。ヒロとは試合以来会っていなかった。
「サン、お前、ナオとペアを組むらしいな?」
とヒロから俺に話しかけてきた。
「そうだ。1ヶ月限定だけどな。」
と俺があえて『限定』を強調して答えると
「そっか、あいつのことよろしくね。」
っとヒロは言った。
「昔、ナオと何があったの?」
と尋ねる俺に対して
「お前が俺とアレクのペアを解消してくれたら、教えてやる。」
とヒロは冗談混じりに言ってきた。
そして、俺はそこで思い出した。試合前に渡された、「優勝しろ」と書かれた手紙を受け取ったこと。優勝すると断言したのにできなかったことを。
「ごめんなさい。」
俺は深く頭を下げて言った。
するとヒロは驚いていた。
「おいおい、顔を上げろよ。負けたのは誰が悪いとかないだろ。そんなことで謝るな。
俺はお前がこっから這い上がってくるのを待ってるからな。」
と優しく笑って言った。
それだけ言って、ヒロはこの場から立ち去ってしまった。
その言葉を聞いて、昨日から痛む胸が少しだけ和らいだ気がした。
俺は、その日以来、色々なことを考えながら生活していた。
俺はナオとペアで続々と任務をこなしていった。
ナオとペアを組んでわかったことがあった。
ナオはとても、真面目であった。そして動きがすべて風のように滑らかであるとともに、素早かった。
さすが、ヒロのペアだったことはあると思った。
ナオからも色々なことを吸収したが、未だ、『時間』の能力を使いすぎた時にみる夢の内容は変わらないでいた。
俺とナオとずっと一緒にいるうちに少しずつだが、初めにあった頃とは比べ物にならないほどの信頼関係ができていた。
初めは、ナオは俺に対して冷たくかたい雰囲気だったのが、今はその時よりだいぶ対応も雰囲気も柔らかかった。
カナタの夢の話はヒロには話すなと言われていたが、ナオになら話していいと思った。
実際、ヒロに話した時、特に答えを得ることはできなかった。
むしろ何かに気づいているようにも感じられたが‥。
そうして、俺は自分の持っている記憶と毎回見る夢が違うことを話した。
ナオから出てきた一言目は
「サンの記憶はおかしい。」
だった。
俺の勘違いだった思っていた部分があった分少し、俺の記憶に対する捉え方かま変わったのだ。
「まず、そもそも、サンが不意に一回攻撃したくらいで化け物は死ぬはずがない。いくらサンでもだ。そういうのは、マサやヒロ並みでも難しいんだ。」
とナオは言った。
たしかに冷静に考えてみればおかしいかもしれない。
「サンはカナタ君を殺してない。」
とナオは断言した。
その時俺の体に長年まとわりついていた鎖から解放されたが気がした。
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