第30話 決勝の相手


煙で中が見えない状態でブザーが鳴ったので、会場にいる観客含めどっちが勝ったっかわからず、ざわついている。


するとスクリーンに勝者の名前が映しだされた。


「アレク選手!決勝進出!」


とスクリーンには書かれていた。


仮想室の中の煙も次第に薄れていく、ぼろぼろになっているアーシャと傷一つも負ってないアレクの姿が現れた。

アレクのみが、その場に立ちつくしていた。


その瞬間、会場全体が拍手に包まれた。


アレクだけでなく

アーシャに対する拍手でもあるようだった。


俺の決勝戦での対戦相手がアレクに決まった瞬間であった。


実況中継中のヒロはというと


「なんということでしょう!!最後まで勝敗の行方が、全く分かりませんでしたね!今回は弟のアレクが勝ちましたね!実にいい試合でしたね!!!」


と実況者は感極まり、興奮した口調で話した。


「あいつ‥。」


とヒロはぼそっと囁いただけだった。


「うっうん。これは次の試合も楽しみですね。」


と実況者はヒロの扱いに慣れたのか困った表情はあまりしなくなり、うまく回したのだった。


2人の試合が終わり、


アーシャがアレクに近づいた。


「決勝進出おめでとう。」


とアーシャが握手を求めるために手を差し出した。


「兄さん、さっきの試合で、最後、なんでそのまま真っ直ぐ、俺に突っ込まなかったんだ。途中で軌道を変えただろう。遠慮せずにやろうと言ったのは兄さんの方じゃないか。」


とアレクはアーシャの握手を拒否した。


それに対してアーシャは少しの間黙った後、口を開いた。


「やっぱり、もうダメだ。俺はお前ともう一度、前みたいに家族に、なりたかった。

お前は唯一無二の弟だから。

だから、お前が絶対嫌がってでも、指名権を手に入れてペアを組むつもりだったけど、、最後の最後で血迷っちまった。最低な兄貴でごめん。」


とアーシャは重い口調で話した。


果たして、アレクには、どう響いているのだろうか。アレクは何も言わず、その言葉だけ聞いてその場を立ち去った。


俺は、決勝戦の準備をしているとアレクと出くわした。


「お前が決勝まで残ってるとはな。」


とアレクは俺に向けて煽り気味に言った。


「お前こそ。指名権は俺がもらう。正々堂々戦おう。」


と俺はアレクに言い放った。


「ふん。正々堂々?おまえ、俺が誰かわかっていってるなら相当な馬鹿だな。」


とアレクは皮肉じみたことを言った。


「ああ。知ってるよ。Sランク4位の兄に対して礼儀がなってないアレクだろ。」


と俺には珍しく、挑発に乗って言った。


「なんだと‥。兄さんとのことはお前には関係ない。何にも知らないくせに。。」


アレクは怒り口調で言った。


「まぁ、どっちが強いかなんて、戦えばわかるさ。」


とアレクはサンに対して言った。


俺たちはそれぞれ複雑な思いを抱えたまま、決勝戦の準備を行なった。


その頃実況中継中のヒロは、アーシャがわざとアレクにあたらないようにしたことに気づいていた。


そして、実況者は次の決勝について、ヒロに尋ねた。


「それでは、待ちに待った決勝がもう目の前に迫っております。さあ、間もなくです!

ヒロさんはサン選手とアレク選手、どっちが勝つと予想しますか?」


実況者は、もうヒロがまともに答えないだろうと思いつつも質問をした。


「サンが勝たなきゃダメです。」


とヒロが言うと


「そうですね、ヒロさんがでたら、ヒロさんが優勝しますね。‥え?」


実況者はヒロがまともに答えたことに驚いた。


すかさず、実況者は質問を続けた。


「なぜ、サン選手が勝たなきゃダメなんですか?」


とヒロに聞いた。


「アレクが勝ったら、俺がアレクと組むなきゃいけなくなるからです。」


とヒロははっきりと答えた。


「サン選手が勝つ、サン選手とペアを組むのはいいんですか?」


と言う質問にたいしては


「ノーコメントで。」


といつも適当な感じのヒロに戻ってしまった。


実況者は、少し呆れてから、実況者がノーコメントってありかよと突っ込みたい気持ちを抑えて、切り替えて他の話題を切り出した。



俺は決勝に備えて準備をしていた。


準備といっても、特別な運動をするわけではなく、気持ちを整えることに集中していた。


すると、そこに、先程、アレクとの戦いに敗れたアーシャが俺に近寄ってきた。


「よっ。決勝進出おめでとう。お前と対決できなくて悔しい。」


とアーシャは少し笑みを浮かべながらも淡々と言葉を並べた。


「さっきの試合、もしかして、わざとアレクへの体当たりを逸らしたとかないじゃないよね?」


と俺は何となくそんな気になってしまい、アーシャに聞いた。


「‥。」


俺は何も答えないアーシャに目を疑った。


「まさか、わざとなの?」


「ごめん。俺はあいつに遠慮すんなって言ったくせに、最後の最後であいつに遠慮しちまった。」


とアーシャは俺に正直に話した。


「‥‥。」


俺は思わず言葉を失ってしまった。


しかし、俺は、アーシャに失望したわけじゃなく、責めたいわけでもなかった。


「こんな俺が言うのはあれだけど、お前は、アレクのこと、色々何も考えずに自分のために一生懸命戦ってほしい。」


とアーシャは俺に対して頭を下げて言った。


「少なくとも、俺はあいつを傷つけてしまったことには変わらない。だからこそ、こんな俺が言うのはおかしいのはわかってるけど、お願いだ。」


とアーシャは精一杯の言葉を俺に向けて言った。


俺は、そんなことのためにわざわざ、俺のところに来て、後輩の俺に頭を下げてまで弟の幸せを願っているアーシャに思わず、


「ふっ。」


と笑ってしまった。


その様子に、アーシャは驚いている。


「アーシャって本当にいい奴だよ。特に弟のことになると。俺がちょっと弟に嫉妬しちゃうぐらいだよ。」


と俺は言った。


「もちろん、俺は正々堂々と戦うつもりだよ。」


と俺はしっかりアーシャに届くようにアーシャの目を見つめて言った。

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