第26話 大会始動
ついに試合当日を迎えた。
俺は、マサとの特訓を通じて自分自身の力の使い方をマスターしたという感覚はあった。
正直、教えられたことそれ事態が本質的に何なのかということまで理解できているわけではない。
本能的、感覚的なものに過ぎないが、
「上手くやれる」という自信が、俺には持てるようになっていた。
俺は緊張感という程の精神的なプレッシャーなどは特になかった。
ただ、いつもより早く目が覚め、珍しく予定集合時間よりも早く会場についた。
俺は出場者専用の控え室に向かうとアーシャとアレクが話している光景にでくわした。
2人が兄弟だということは、前々からヒロから聞いてはいたが、実際にこの2人のツーショットを見るのは、初めてであった。
「俺はさ、兄さんと戦わなきゃいけないって、なった時、ふかーく同情したよ。
優秀な弟を持つと兄も大変だよな。
俺と対戦しないように、せいぜい途中で負けることだな。」
と、アレクは自分よりランク順位が低い兄アーシャのことを馬鹿にしていた口ぶりであった。
それに対してアーシャは怒ることなど一切しない。
その代わり、俺がいつも優しいアーシャを馬鹿にしたアレクに対して怒りを覚えた。
「おい、自分の兄に対していくらなんでも失礼だろ?」
「いや、お前らが兄弟とかそういうことは、俺には関係ねぇことだろうけど、アーシャはグレーボーダーのメンバーだ。チームメンバーへの舐めた口は、俺らへの侮辱だろ、慎め。」
と俺は怒りをそのまま、言葉と共にアレクにぶつけた。
「あれ、ヒロが肩入れしてる奴じゃん。部外者が入ってこないでよね。あ、ついでに言いたいことあるんだった。今回優勝したら、指名権ではヒロを指名するから。」
とアレクはいい、その場から立ち去った。
アレクが立ち去ると、アーシャが俺に子供の頃の話をしてくれた。
「俺とアレクには元々小さい頃から両親がいなかったんだ。
俺が6歳、アレクが5歳の時に、政府の本部に拾われて、ここで育ったんだ。
元々能力の扱いや剣術に才能があったアレクは政府に引っこ抜かれた。
才能のサの字もなかった俺は、グレーボーダーの方に飛ばされたんだ。
それ以来、俺たちはあんまり話さなくなったんだけど、別れの日に、必ず俺は強くなって、あいつのところに行くと誓ったんだ。
それまでは1人でも頑張るようにと、小さなアイツと別れた。
たぶん、俺がいつまで経っても政府の本部のところに行くような力を持てなくて、自分を見捨てたんだとアレクは思っている。
いつまでもグレーボーダーでやっているのを見て呆れたんだと思う。
恥ずかしくなったのかもな。こんな兄を持って。
でもな、俺にとっては唯一無二の家族なんだ。だから、もう1度一緒に行動できるチャンスが欲しい。
そして、今度こそ、アレクの家族として、兄として、物理的に側にいることだけでなく、普通に兄としてあいつを励ましたり、力になれるような存在になりたいんだ。
特別なことじゃない。唯一の家族として、何気ない会話したりすることで、アイツに家族がいることを、いつも味方である兄がいることをわかって欲しいんだ。」
と少し悲しそうな顔をしてアーシャは言った。
俺まで少し悲しい気持ちになった。
「なんか、暗い空気になっちまった!?ごめんごめん。決勝戦で待ってるぜ。」
とアーシャは俺に力強い眼差しを向けて言った。
それに対して俺もアーシャに負けないくらいの眼差しで、返事をした。
「おぅ、決勝戦でな!」
大会の出場者の集合の合図が鳴った。俺たちはこれから始まる大会の開会式に出るのだ。
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