第28話 サンの1回戦
俺の対戦時間までにはだいぶ時間があった。
さて、試合までは、他の対戦をみて作戦計画を練ることとしようか、いや、そんな小賢しさは不要だろう。
将来、俺の対戦相手になるような頼もしい相手はいるのか、俺は根拠もなく、余裕
があった。
実際、選べ抜かれた50人とだけあって、1回戦目から激戦、接戦を見せつけられたが、
俺は日和ることはなかった。
むしろ、俺もついにこの連中の仲間入りしたものだと、鼓動の高鳴りを覚えていた。
そして、俺は次の対戦相手の戦いぶりを見届け、試合の準備に入った。
ほどなく、ついに俺の試合時間が来た。
俺の第1試合の相手は『柔軟』を使う選手であった。
俺は会場に入った。周りの空気感は熱気で包まれていた。
俺と対戦相手は仮想室に入った。
その頃、実況のゲストとして招待されていたヒロは、何とも愛想のない実況コメントながら、
実況席でやり過ごしている様子であった。
実況者がヒロに話しかけた。
「ヒロさん、いよいよ大会が始まりますが、今回注目の選手はやはり、グレーボーダーのグループ1所属の、サン選手ですか?それとも、普段からヒロさんと仲のいいアーシャ選手ですか?
そして、今回の優勝候補のアレク選手ですか?」
ヒロは即答した。
「俺が出てたら優勝は俺です。」
と真顔で飄々と答えた。
すると、実況者は一瞬困惑した様子を見せた、すかさず切り返して、質問を続けた。
「あっ、次の試合はサン選手みたいですね。
どんな戦い方をしますかね?」
と実況者は、今度は無難に答えてくれるだろうという期待を込めてか、ヒロの顔を覗くように聞いた。
「勝ってくれればなんでもいいけど、早く決着がついて欲しいですね。」
そう言ったヒロに対して実況者は興味深々に
「それは何故ですか!?」
と聞いた。
「それは俺が早く帰りたいからです。」
ヒロのその発言に今度は確実に実況者は困惑している。
ヒロの実況コメントは、実況者泣かせであった。
恐らく次回以降、ヒロがコメンテーターとして登場することはそれ程多くないことを容易に想像させた。
いよいよ試合開始のブザーが鳴った。
俺はまず、この試合中は能力を発動させずに勝つことを決めていた。
相手の技は『柔軟』だ。ってことは、普通は人が曲がらないような方向でも身体が曲がるわけだ。
俺は作戦が決まった。
まず、相手が攻撃をする様子がないことを感じ取り、俺は右、左、上、下、それぞれ交互に拳を振りかざした。
すると、相手の体はぐにゃぐにゃと絡まってしまった。
そう、これこそが俺の作戦だ。体が柔らかいなら、体を糸のように考えて絡ませれば、身動きがとれなくなるのだ。
「くっそ‥。動かない‥。」
相手の選手は必死で解こうとするが、全く身動きが取れていない。
そして、俺はそのまま、身動きが取れなかなった相手に剣を突き刺し、トドメを刺した。
その後、ブザーがなり、俺の2回戦進出が決まった。
俺は自分の目標の通り、相手に能力を見せずに戦うことができて、とりあえず、一安心した。
俺はその後も他の出場者の試合を見学していたが、やはり、中でも一際動きがずば抜けているのは、Sランクのアーシャとアレクであった。
今大会この2人の勝敗がどうなるか俺もわからなかった。
俺は2回戦も無事突破し、3回戦、4回戦と無事勝ち進み、ついに残りは決勝のみとなった。
そして、誰にも能力を見せずに決勝を迎えることになった。
そして、アーシャとアレクも無事勝ち進み、準決勝で2人がぶつかることになった。
俺はこの2人の勝った方と戦うことになる。
俺は以前感じていた、アーシャとは戦いたくないという気持ちはもうなくなっていた。
むしろ、アレクと戦うよりアーシャと戦いたいと感じていた。
そして、実況中継中のヒロはというと
「この試合は実物ですよね。兄弟対決となるのは誰もが待ち望んでいた展開です。ヒロさんはどちらが勝つとお考えですか?」
実況者の質問に対して
「‥‥。」
ヒロは何も答えない。
「あの、ヒロさーん?」
「‥‥。」
「聞こえてますかー!?」
実況者は困っている。
「個人的には俺が優勝です。」
と、やっと口を開いたと思ったらヒロは訳のわからないことを口にし、真剣に試合の様子を見ているようだった。
準決勝が始まる。
アーシャとアレク、2人とも仮想室に入った。
「兄さんが、頭が悪くて残念だったよ。潔く諦めてよ。俺はヒロとペアを組むんだから。」
とアレクは上から目線でアーシャのことを挑発しているのか、小馬鹿にしているのか、鼻持ちならない態度で、アーシャの耳元で言った。
しかし、アーシャはアレクが言ってること対しては何も言わない。
むしろ聞こえなかったかのように、
「遠慮すんなよ!いい試合しようぜ。」
とだけ、アーシャは笑顔でアレクに声をかけた。
アレクには、それがまた兄は自分自身がとるに足らない対戦相手だと見透かしているのか、馬鹿にされているのかと、怒りの気持ちがこみ上げ闘志を燃やした。
そして、スタートのブザーが会場全体に鳴り響くと会場全体が興奮の渦で湧き上がった。
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