第21話 アレクとアーシャ

俺はその翌日から、再びヒロとのミーティングをいつもの食堂でした。


俺はこの日も昨日よみがえった記憶について考え込んでいた。


「この前の続きをしよう。」


とヒロは言い、対戦相手のデータベースを仕込んだPCを覗きながら、淡々と対戦相手の特徴、攻略法を解説していく。俺の頭の片隅には対戦相手のデータのことより、前回の任務中の自分自身の「記憶」のことがちらついていた。


俺の気がそれていることを察したのか、ヒロは、


「今日のメインデータだ。さぁ!誰でしょう?2名答えて。ちっちっちっ。」


と急にテンションを上げて問題を出してきた。


「あ、アレクとアーシャ?」


と俺はすかさず答えた。


「ピンポン!さっきまでの情報は聞いてなくてもサンならなんとかなるけど、ここからはそうもういかないからしっかり聞けよ。」


と、またもや別のことを考え込んでいることを見透かされた。ヒロは何でこんなにも人を見透かすことができるのだろう。


いつのまにか俺はヒロとペアになりたい理由は毎日のように増えていた。


「じゃあ、Sランク7位のアーシャとSランク4位のアレクを同時に説明しよ。」


とヒロは言った。


俺はふと不思議に思った。


「同時に?別々じゃなくて?」


「アーシャとアレクは同じ能力だからな。同時の方が早いだろ。」


とヒロが言った。


「へ〜。同じ能力なのか。話遮った。続けて。」


と俺がいった。


「あの2人の能力は他の出場者同様、もう公表してある。『高速移動』だ。基本的にサンと似たような能力で、攻撃型の能力じゃないから、2人とも剣術が優秀だ。


もし2人が戦ったら、能力戦だとアレクの方が強い。アーシャは能力はあるが、未だにあまり、扱うのは得意じゃない。


だから、2人の闘い方の違いは、戦闘における能力の使用の割合だ。

アーシャが能力30%、剣術70%

アレクが能力60%、剣術40%って感じだな。


能力的に考えると2人との能力とサンの能力の相性はまあまあといったところだ。

2人ともなるべく、先手を打てるとこちらも有利だ。」


「『高速移動』って、結構珍しい気がする。2人とも同じとかあるんだな。」


と俺が言うと、ヒロは思いもよらないことを言った。


「いや、兄弟で同じ能力はそう、珍しくはないな。」


この発言に俺はアーシャの言っていた弟いうのがアレクだったことを知った。

言われてみれば、名前が似ている‥?

いや、それはそこまでではないか。


「あれ、言ってなかったっけ?」


といつものようにヒロはとぼけた。


「正直、衝撃的すぎて、突っ込む余裕ない。」


と硬直している俺の姿をみて、ヒロは笑っていた。


「あ、ほんと、面白い。」


とヒロは言って一息ついて呼吸を整えた。


この男は人の心を弄んでいるのか。何でこうも毎回適当なんだ。


「ごめんごめん、話が脱線しちゃった。

んで、ここでサン。お前はこの2人より有利な点がある。何だと思う?」


と聞いてきた。


ヒロの話を聞く限り、2人とも剣術が絶対的に必要な能力と言うことは、剣術で差が出るとは考えにくい。


となると能力にあるのでは。


と考えを巡らしている途中で、俺はピンっときた。


「あ。能力が公表されてないこと?」


と俺が答えると


「正解。」


とヒロは言った。


「この点に関して、サンの能力はほとんど知らない。アーシャにも言ってないだろ?」


「ああ。」


「これは、サンも、もうわかってるだろうけど、圧倒的有利だ。


この特訓期間にあいつらは、お前の対策をしたくてもしようがない。

 

しかし、お前はあいつらの対策をすることができる。この利点を使わない手はないでしょ?」


とヒロは少しいたずらをする少年のような顔をした。


「ってことで、お前はトーナメント戦で無闇に能力を使わない方がいい。これは、能力を使わないで勝てって、言ってるんじゃない。


単純に、あの2人に能力がバレなきゃいいってこと。

だから、間違っても能力使わないで2人に勝とうとするなよ。」


とヒロは警告のように言った。


確かに、能力が分かれば、利点や欠点も明確だが、今のところ、俺は対策しようがないとても厄介な人物なのだ。


「そんなに、何度も言わなくたって、そこまで自分のこと、過信してない。」


と俺が言うと、ヒロは驚いた表情で


「なんか、やけに素直だな。」


と気味悪がった。


「元から素直だ。」


と俺は叫んだ。


「あっ、そういえば、初任務はどうだった? さっきから考え事してるみたいだけど、何か収穫でもあった?」


とヒロが聞いてきた。


俺はカナタのことをヒロに話すべきか、悩んだが、任務の内容だけを伝えた。


「へ〜。それは、初任務の割に厄介なのきたね。その、化け物がお前は誰に見えたんだ?」


とヒロは聞いてきた。


別に話したところで、まずいことは無いと思い、

記憶が蘇ったことのみ話した。


すると、ヒロは急に顔が強ばった。


「その話、無闇に人に話してないよな?」


と勢いよく言った。


「ああ。ヒロに初めて話したけど‥。」


「その話は不用意に他人に話さない方がいい。」


なぜそんな反応をするのか、俺は疑問に思ったが、とりあえず、不用意には伝えないことを約束した。

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