第28話 引越し完了
「——ええ。すみません。一日早い引越しになりますけど……ええ、大丈夫ですか。よかったです。夜分遅くに電話をかけて申し訳ありません。お心遣いに感謝します……はい。では、失礼します——。よし、幼女魔王は先にマンションに置いてきたし、後はこれを運ぶだけだな」
俺は通話を切ってからスマホをカバンの中に収め、無数の家具と家電の横で佇んでいるタナカ電気の制服を着た女性——三谷圭に目を向けた。
およそ半日ぶりに会った三谷さんの目は、まるで自我を持っていないように虚なものになっていることから、未だ催眠魔法が解けていないことがわかる。
「三谷さん。たった今不動産屋から許可が降りたので引っ越しを始めます。数時間前には『次の日の夜にこれらの家具や家電が揃う』と言っていたはずですが、よくこんなにも早く揃えてくれましたね。感謝します」
俺は何にも目もくれずにジッと静かに佇んでいる三谷さんに礼を述べた。
東京都の中心部にある店舗だからか、予定していた期日よりもかなり早く必要なものを揃えられた。
催眠魔法を使用したとはいえ、三谷さんの仕事量には脱帽させられた。決して安い出費ではなかったが、感謝の念が絶えないな。
「いえ、お礼は結構です。私は私の仕事を遂行したまでですから。それより、これらの荷物は私どもが運搬いたしましょうか?」
タナカ電気の冷たい地下倉庫には、俺と単調な口調で話す三谷さんの声だけが響いている。
それもそうだ。既に日を跨ごうとしている時間帯だしな。
「いえ、それらの作業は全てこちらが行いますので大丈夫です。三谷さんはもう気を楽にしてお休みください。では、さようなら。マタスタシス……転移先は彼女の家」
俺は三谷さんに右の手のひらを翳して、三谷さんのことを転移させた。
そのついでに、二十四時間は続くようにかけた催眠魔法も、明日の朝には強制的に解除されるように細工しておいたので、明日からは普通に仕事に取り組めるだろう。
また、俺に対しては『普通の客』という認識しか抱いていないので、次に会う時はただの店員とただの客という関係になるというわけだ。
「……よし、これでひと段落だな。後はこれを運んで、幼女魔王を尋問するだけだ。聞きたいことは山ほどあるからな。心が痛まない範囲で問い詰めてやろう。マタスタシス……転移先は俺のマンション」
俺はマンションの一室にいる幼女魔王のことを考えながら、大小様々の無数のダンボールを全てマンションに転移させた。
「テレポート」
ここに残っていても何も始まらないので、俺はすぐに転移魔法を発動させて、新居である格安マンションに帰った。
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