第2話
彼女と、別れた。
身体が、かなりふわふわしてきている。そろそろ、なのだろうか。
生まれつき、不思議な体質だった。身体が消えることがある。消えている間は、誰にも見えないし、誰からも認識されない。自分も、自分であるという認識がなくなる。
空気になる感覚。そこには誰もいない。
いつかそうやって、消えていくのだと思った。
誰にも迷惑をかけないように、ひとりで生きてきた。誰とも仲良くならず。何もせず。ひとりで。
そんな自分に、話しかけてくれたのが、彼女だった。あれは、幼稚園だっただろうか。
いつものようにひとりで他の園児を眺めていたら、近寄ってきて。近くでお絵描きをはじめた。その姿を見ていたら、彼女も見つめ返してきて、それ以降の関係。
彼女は、やさしかった。ひとりでいる自分が楽にいられるように、いつも位置取りを変える。話しかけたいことがあるときだけ、自分の視界に入って見つめてくる。
彼女と暮らすなかで、彼女のやさしさに触れて。人と関わる楽しさを知った。
でも。
自分は、いつか消える。
そして、もうすぐ。消えるのだろう。
その前に、彼女とは別れた。自分とは違って、彼女には、未来がある。消えない身体がある。自分といることで、彼女に迷惑はかけたくなかった。
夜の街を歩く。ひとり。
ネオンの灯り。雪は降っていない。星空。流れ星が少し。
涙でにじむ。星空。
自分にとって、彼女の存在が、どれだけ大きかったか。失ってはじめて、分かる。
身体が、少しずつ、薄くなっていく。自分が消えたら。彼女は、自分のことも、忘れてしまうのだろうか。そうだといいな。自分のことなんか忘れて、他の誰かと恋をして。幸せになってほしい。
自分は。
彼女と一緒にいられて。
幸せだった。
それだけでいい。それだけで、消えてしまってもいいと思える。これ以上は望まない。自分に未来はこないけど、彼女と暮らした過去を抱いて。
消える。
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