第5話 憂国の処刑台 前編


 数日前に起きた革命により、王都は荒れていた。


 先王が病でとこに伏せている間、国政を担っていた王女シャーロットは、度重なる飢饉や災害により疲弊していた民のことなど何一つ考えずに、その贅沢な暮らしで悪徳王女と囁かれるほど、民衆を苦しめていた。

 しかし、先王が息を引き取ったと同時に、王女は革命軍に捕まり、現在幽閉されている。


 国民は皆、彼女の処刑を待ち望んでいたが、早く新しい王が即位しなければ、治安は安定しない。


 エマは、新しくこの国の王妃となる女性の即位式の化粧を任されることになった。


「まさか、奥様が新しいこの国の母となられるとは、思ってもいませんでした……」

「ええ、私もよ。これからもよろしく頼むわね、エマ」


 新王妃はエマのお得意様で、とても心やさしく穏やかな性格の人だ。

 エマは自分の技術を存分に発揮して、新王妃の肌に化粧を施す。


(すごい……綺麗。さすがエマ先生)


 フィリアはエマの作業を手伝いながら、美しく変身していく姿を見ることを楽しんでいた。


 そんな中、王宮からふと外を見ると、黒いローブを着た人物が歩いているのが見える。


(シャルル……?)


 昨日店に来たシャルルと、同じようなフード付きのローブだった為フィリアの脳裏にシャルルの姿が過ぎる。


(まさかね…………きっと、似ているだけ。王宮にいるはずがないわ)





 * * *




 即位の儀が執り行われ、新しい王が多くの民衆が見守る中即位した。


 そして、程なくして、民衆が集まる中で悪徳王女シャーロットの処刑が執行されようとしている。


「さっさと殺せ!!」

「悪徳王女め!! お前のせいで何人死んだと思ってるんだ!!」



 処刑台のある広場に集まった民衆は、壇上に上げられたブロンドの髪の少女に罵倒し続ける。


 仕事を終えて村に戻ろうとしていたフィリアは、興味本位でその場に立ち寄ったが、目の前の光景に驚いた。


(シャルル……?)


 壇上の、その悪徳女王と罵られた処刑人の顔は、昨日店に来た少年と同じだった。


 確かに彼は、王女シャーロットの肖像画を見せて、これと同じにして欲しいと言った。

 しかし、肖像画であって、あれは絵だ。

 エマの技術は素晴らしいが、絵を見ただけで全く同じ顔にできるはずがない。


(どうして……シャルルが、あそこにいるの?)


 見せしめの為、高い位置に作られた処刑台の上で膝をつく白いドレスの少女は、間違いなくシャルルだ。


 その名前を叫ぼうとしたところで、フィリアはシャルルと目が合った。

 その綺麗な青い瞳でフィリアを見つめると、シャルルは少し困った表情で微笑んだ。

 まるで、何も言わないで欲しいというような表情をしている。


「これより、王女シャーロットの処刑を行う…………!!」


 高らかに宣言され、シャルルの首が断首台に固定される。



(待って!! そんなの、ダメ————)



 フィリアは魔法の杖を取り出すと、とっさに唱えた。



「スティム!!」



 時間を止める魔法。

 

 フィリアは自分とシャルル以外の時間を止め、処刑台に駆け寄った。



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