第10話 陽キャ独特の偽善

「うめえなこれ、なんて料理だ?」


「このチーズクセがなくて、酸っぱいパンに合うね」


「このキャベツは…… ドイツ料理のザワークラウトというやつでしょうか。酸っぱ…… いえ、美味です」


「っていうか~、スイーツないん? あ、あった! チョコのケーキ!」


「ザッハトルテと申します……」


 昨日と同じパーティー会場で、クラスメイトみんなで朝食を取る。ガヤガヤと多くの声が混じるこの空間は、落ち着かない。

苦笑しながら料理を運んでくるメイドさん、執事さん。


 一人だけいた装飾品をつけていない赤髪のメイドさんはリーダーのようで、他のメンバーに指導をしている。


「早く食器を持っていって」


「皆様をお待たせしないように、常に皆様の様子に気を配って」


 クラスメイト達は真っ白なテーブルクロスのひかれた長机に並んで着席し、配膳された料理を賑やかに、僕は黙々と食べる。メニューはドイツ風に黒パン、ステッペンというチーズ、ザワークラウト、デザートにザッハトルテ。


 食事内容といい、政治制度といい、転生先の文明レベルとしてはこの異世界は高い方なのだろうか?


 僕は朝から石を触ったり、日光に掌をかざしてみたりしたが発動しなかった。

 発動条件はなんだ?


 遠藤のように傷を治す力だったり、有田のように言うことを聞かせる力ならば一人で修行しても無理だろうし、右近や青梅に協力を頼む必要があるかもしれない。


 ちなみに青梅は少し目元が赤く、他にも何人か同じようなクラスメイトがいた。


「お母さん…… 心配してないかな」


「スマホもつながらないし、とっくにバッテリーも切れちゃったし……」


「今頃、警察呼んでるのかな」


 見ていると、心が痛い。

 でも僕は見るだけ。実際に元気づけるのは、そういう役割を普段からやっている人。

 陰キャが出しゃばれば、クラスの空気を乱す。


「大丈夫だって~」


 そのうちの一人、ギャル遠藤が俯いていた女子たちの肩を叩いた。男子は飯崎や有田といったカースト上位組が声をかけている。


「大統領とかいうイケメンも言ってたじゃん、召喚された直後の時間に帰してくれるリヒト使えるのがいるって。なら旅行に来たと思って、楽しまないと損っしょ」


 ギャルっぽく、甲高く響く声で青梅たちを慰めている。


 青梅たちは少しひきつった笑いを浮かべながら、遠藤の言葉に頷いていた。


「それに自分たちの都合で空気悪くするのって、なんか違くない?」

「そ、そうだね…… ごめんなさい」


 つけたのかアイブローで伸ばしたのか、異様なほど長い睫毛。さらに濃いアイシャドウを施した二重のまぶたで陰キャたちを軽く睨みつけていた。


 クラスの空気を気遣っても、陰キャの空気を気遣わない。


 陽キャ独特の偽善をまざまざと見た。

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