二度の過ち、彼女との『二つ目の約束』
一度目は間違えてしまった。でも二度目の俺は、彼女に降りかかる『地獄』を知っている。
ならばこそ、あの時の告白をもう一度言って、彼女を救い出そう。大丈夫。二度目の俺は一度目の俺とは違う。必ず救える───
決意を固め、『新たな自分』の相棒を手に己を鍛え上げる。立ち止まる暇など無い。
あの怪物を倒す術は知っているのだから。
残るは俺自身の実力だ。だったら無我夢中に刃を振え。何よりも素早く、誰よりも強く強靭な刃を。あの忌まわしい『勇者』の喉笛に叩き込め。全てが終わった後で、もう一度告白をすればいい。誰よりも高潔だった彼女の魂を受け継いだ最愛の人の『やり直し』を、二度目の一周目を守るのだ。
───しかし、それでは彼女の存在を否定していることに、この時の俺は気が付かなかった。
「なんで、なんでアンタは私を守ろうとするのよッ!!私はそんなにか弱く見える?」
彼女は憤りを感じさせる般若の睨みで俺に怒鳴る。自分の努力を否定しないで。
そうとも見て取れる言葉に、自分の諸行の意味するところを考えた。そして自分の愚業に思わず顔が引き攣ってしまう。
失念していたのだ。最愛の人の魂に刻まれていたその『高潔』さを。弱さへの執念を。
強くなりたいと絶えず努力を惜しまなかったその姿に、一種の憧憬を抱いていたはずなのに。
強さを得るために、そして命を繋ごうとしていた筈の俺がしたことは『否定』だった。
彼女はより高位の強さを自身に求める為にあらゆる痛みに耐えてきたというのに、俺は彼女が傷付かないようにと、死なないようにと闘いから彼女を遠ざけていた。
それは彼女からすれば、存在の否定に他ならない。
最愛からの『拒絶』を含めた怒鳴り声。
その声の大きさの何倍にも、俺の心の中で反響するように響いていた。
───そして、考えを改める。
彼女が望んだことをしよう。コレからは、彼女が悲しんでしまうような事はしない。
一度目と同じ不思議な丘の上で、彼女の目の前で跪き、一度目とは違う、二度目だから言える言葉を使って想いの丈を告げる。
「すまなかった。君が傷付くのがどうしても我慢ならずに暴走して、身勝手にも君を今度は守れているなどと勘違いしていた。本当にすまない。もし、許してくれるのならば、俺を傍に居させてほしい。俺を見てくれずとも構わない。俺が勝手に後ろからついていく。もしそれが嫌なのなら、君の気が済むまで俺を殴り飛ばしてくれ。それで、君の腹わたが治るとは思っていないがな」
そして君は言う。一筋の涙と満天の星空の星々よりも輝く心からの笑顔で。
「何よその言い方、……ずるいじゃない。 そんなこと言われたら……うん、分かった。 でも、これだけは守ってね?もし、私が先に死んじゃったら、───私の事は諦めて」
一見すれば、感情が幾つも読み取れる言葉の数々の意味を俺はよく理解することなく、幼い頃から二人の間での大切な約束をする時に毎回行う『銘の契り』を交わす
彼女と『銘の契り』を交わしてから数年後、再び訪れた『地獄』の始まりを討ち果たし、心からの平穏を感じていた。
───しかし、彼女はまたしても俺の前で身体を冷たくし、血の雨を降らせ、狂気混じりの嗤い声を生み出した。
歪なけたたましい悦楽の波動が周辺の空気を脅かす中、涙を流すことなく一人の男は女の命を拾い集め、感情の無い声で
『結末からの逃避。』
一度目の『やり直し』の際に、行使した絶大な効果を発揮する大掛かりな魔法。
『心の叫びに従うことで、自由の選定が確な事実となる。』
回想文にも似た、長い祈りの
『それを知らぬ敗者へと成る未来を、我が拒絶の意が喰らいつくすと知るがいい』
たった一度の『自己満足』を叶える為だけに、またもう一度、鮮明に彼女の笑顔を思い浮かべて『禁忌』に手を伸ばす。
一度ならず二度までも、一片の感情すら心に宿さぬまま『やり直し』が執り行われる。
三度目の彼女はどんな姿なのか、俺と彼女はどんな出会いをするのか、今はそれら淡い楽しみを考えながら光に身を投げる。
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