〜No.2〜
(今日は久しぶりの休日‼︎楽しまないと…‼︎)
朝から浮かれてる小太郎は顔を引き締める。
(また見透かされてないよね…?)
こっそり太朗の顔を覗き込む。
太朗は弾けるような笑顔をしていた。
(バレてない‼︎よし‼︎)
ついガッツポーズしたせいか、
「そんなに嬉しいのか?俺とのデート」
太朗に指摘され、
「ふぇ⁉︎いや、別に⁉︎」
と、変な声が出てしまった。
しかし太朗は気にする様子もなく、
「さっさと行くぞ。一日はすぐ終わるんだから」
と、スタスタと歩いてしまう。
「あ、兄ちゃん待ってよ〜」
急いで小太郎は駆け足で太朗に近寄る。
(そういえばこんな風に話すこともなかったな…)
太朗も春休みが終われば高校三年生で、受験生だ。
そうなってくるとこうやって二人で話すことも少なくなってしまう。
(やだな…そんなの…)
「辛気臭い顔してないで、まずはゲームだろ?」
太朗が指さす方向を小太郎は見る。
前、二人がいつも遊んでいたゲームセンターだ。
ここのUFOキャッチャーで太朗は三万円をするゲームを見事獲得して現在、楢崎家の家へ住んでいる。
(ここのおかげで兄ちゃんといっぱいゲームできたんだよね…)
小太郎が一番強いのは格闘系ゲームだ。
だが、空や太郎には全敗だ。
「兄ちゃんてさ、ゲームあんまり得意じゃないのによくオレに勝てるね」
「どうした、急に」
理由を話すのも恥ずかしく小太郎は「別に」とそっぽを向く。
「今日も人気ソフトを手に入れるぞ〜」
(兄ちゃんそろそろ出禁になるよ?)
太朗はいつもここのゲームセンターにくると、UFOキャッチャーにある人気ゲームソフトを奪っていく。いつ『出入り禁止』になってもおかしくないのだ。
二人が入ると、そばにいる店員が顔を顰めた。
(うん、そりゃそう。適切な反応、ありがとうございましたー‼︎)
ここまで嫌な顔をされると逆に清々しくなる。
同時に不安も募ってきた。
(兄ちゃん、また暴走する気?)
聞くのも恐ろしく小太郎は太朗についていくほかなかった。
「よし、今日もいっぱいとるぞ〜」
(ですよね〜どうしよう‼︎‼︎)
なんとか『出禁』だけは避けなければと思う小太郎は、
「兄ちゃん、程々にね?やりすぎると『出禁』になっちゃうよ?」
と、さっきからずっとコッチを凝視している店員にバレないよう耳打ちをする。
「なんでだよ?良いだろ、そうなっても」
太朗は目を丸くして小太郎をジッと見る。
確かにそうだゲームセンターなんてどこにでもある。
でもー…
(だってここ、兄ちゃんと初めて遊びに行った、思い出の場所だもん…)
そんな大切な場所が『出禁』になると悲しくなる。
太朗にとってはただのゲームセンターだとしても。
「『出禁』になったら別の場所を探せば良いだろ」
こうなったら太朗は止まらない。必死で止めようとすると、
「…何やってんだ。お前ら」
声のする方をみると、空がいた。
「楢崎くんと…お兄さん?」
「森村も…どうしたんだよお前ら」
気になり、小太郎は空に聞く。空はため息を吐き、
「それはこっちの台詞だ。UFOキャッチャーしたいのかしたくないのかどっちなんだよ」
きっと小太郎が太朗を止めるのを見てたのだろう。
「いや…兄ちゃんがまた『暴走』しようとして…」
慌てて弁解をすると太朗はムッと眉を曲げ、
「暴走?UFOキャッチャしようとしてただけだろ?」
反論しようとすると、空は手をポンっと叩き、
「そっか。店員が言ってた『UFO荒らし』ってお前らだったんだな」
と納得したようにウンウン頷く。
「UFO荒らし?」と小太郎が聞くと、
「さっき店員さんが言ってたんだ。『今日もあのUFO荒らし来るんですかね』って」
森村が言うとそれに続くよう空が、
「いつも誰かがUFOキャッチャーの中身をゴッソリと取るんだよ。おかげで店は品をすぐ揃えないといけないから困ってるらしくて…」
そう説明するので、
「本堂くんよく知ってるね…」と森村が驚く。
「オレの父さんの友達がここを経営してるから」
と空は説明している横で太朗は、
「そっか…そうなってくると改めないとな。悪い、小太郎」
と謝ってくるので小太郎は慌てて、頭を下げる太朗を止める。
「空、ちょっと」と小太郎は空を呼んだ。
「今日、森村とデートじゃなかったのか?」
と聞くと、空は恥ずかしそうに、
「急にデパートとかに行っても気まずいだけだろ」
と笑った。
「そっか。二人の邪魔にならないよう、オレたちは退散しないとな」
からかう小太郎を空は「うっせぇ」と睨む。
別れ際に小太郎は、
「ありがとう…空…」
と空に礼を言った。
空がいなかったらきっとこの先あのゲームセンターには行けなかっただろう。
絶対にいい日にする。
そう決意した小太郎は、ゲームセンターを後にした。
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