第4話 闘技場からの

俺の今いる国では3年に一度、国を挙げての闘技大会が開かれる。

その人気は盛況で、街はお祭り騒ぎ一色になる。


もっとも俺は、祭りを楽しむ側ではなく。

盛り上げる側だった。


「視線が痛い」


大会に参加する俺はいま、控室で出番待ちをしていた。

傍にはケモナーの少女シィと、ボンッキュッボンの半ロボおねーさんのワナビーがいる。

この場に女性を連れているのは俺だけなせいで、周囲の視線が集まる事集まる事。


「よぉ。いい女を連れてるじゃねぇか」


控室の入り口から、鋭い眼差しの男が入って来る。

そいつは真っすぐ此方へやって来た。


「やらん!」


俺はハッキリと宣言する。

別に2人?とも俺の恋人という訳ではないが、どこの馬の骨ともわからん奴に譲る気は更々無かった。


「はっ!面白れぇ!俺に喧嘩売ろうってのか」


男の顔が5センチ位の距離まで俺の顔に近づく。

息が臭いので死んでください。


「……」


以前の俺ならビビッて即土下座していただろうが、今の俺にはチートがある。

恐れる必要などない。


「1番から50番の選手。出番ですので此方へ」


暫く睨み合っていると、係の人間が出場選手を呼び集めた。

俺は200番だから出番はまだだ。

だが男は――


「ちっ、命拾いしたな。てめぇ、俺に当たるまで勝ち上がって来いよ。俺のこの手で八つ裂きにしてやるからよ!」


男はその場に唾を吐き捨て、控室を後にする。

その後男の姿を見る事は無かった。


何故なら男は、一回戦で敗退してしまったからだ。


「どう勝ち上がっても戦えないじゃねぇか……ま、どうでもいいか」


俺は自分の出番が来たので会場へと向かう。


「山田様……よろしくお願いします」


シィが深刻な顔で、俺を見つめる。

俺がこの大会に出場したのは彼女の――正確には彼女の同族たちの為だった。

大会優勝者には、どんな願いも聞き届けられる権利が与えられる。

俺はこの大会で優勝し、願いとして奴隷制度の廃止を訴えるつもりだった。


そう、これは奴隷達を解放する為の戦いだ。

負ける訳には行かない。


「任せろ!」


俺は親指を立て、笑顔で会場へと向かう。


俺の対戦相手はモヒカンの巨漢だった。

その手にはどでかいハンマーが握られている。


「ぐへへへ。女連れの奴か。俺の妖槌・トールハンマーがテメーをミンチにしろってさっきから五月蠅くってよぉ」


そう言うと、男はハンマーの握りの部分に舌を這わせる。

どうやら薬物中毒者の様だ。


「試合開始!」


渾身の右パンチ!

俺の勝利!


その次の対戦相手はエルフの剣士だった。

エルフは亜人種だが、唯一この国で人間と同等の権利を与えられている。


「私は醜いものが嫌いだ。君には消えて貰うよ」


イケメン高身長。

しかも足が長い奴からすれば、確かに俺は醜いのかもしれない。

だが俺には負けられない理由がある!


試合開始と同時に間合いを詰めて相手の顔を殴る。


殴る殴る。


殴る殴る殴る。


殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。


相手の顔面がドッジボールみたいな球体になった所で勘弁してやった。

これは奴隷解放の為だ。

決してムカついたからではない。


3回戦以下は語るべきことも無いので(略)


そしてついに迎えた決勝戦。

相手はワナビ―だった。


「お前出てたのかよ!」


「楽しそうだったから」


途中姿が見えない事が何度かあったと思ったら、まさか勝手に参加していたとは。

おちゃめな奴だ。


「前回のリベンジを果たす」


「相手がお前だからって手加減はしないぜ!」


激しい激闘。

ワナビーは短期間で以前よりも腕を上げていた。


「無念」


熱狂的歓声の中、勝利を手にしたのは勿論俺だ。

主役補正舐めんな。


「優勝は山田太郎!!」


大歓声。

そして閉会式。

その場で、俺は国王から願いを尋ねられる。


「奴隷達に人権を与え、解放を!」


俺の言葉に周囲が騒めいた。

まさかそんな願いが出て来るとは思わなかったのだろう。


国王は難しい顔をして「ううむ」と唸っていた。

願いを通さなければ面子が潰れ、通せば国に混乱が生じる。

だが俺は願いを撤回するつもりはない。

シィ達の為にも引く訳には行かないのだ。


≪ピンポンパンポン!大ボスが襲来しました!≫


女神様の呑気なアナウンス。

直後、会場に大きな影が落ちる。

上を見上げると、そこには巨大な黒い竜の姿が。


「まさか!隣国で呼び出された召喚者達を返り討ちにしたという、破滅竜エターナルフォースブラックドラゴン!?」


名前なっが。

つうかクラスメートの奴ら、返り討ちに会ってるのか。

俺の顔も名前も覚えてないような奴らだったが、一応敵討ちをしてやるとするか。


「国王陛下。あいつを倒したら俺の願いを聞き届けて貰えませんか」


「なんと!あの恐ろしい化け物を退治すると申すか!?よかろう、その時は我が名にかけて其方の願いを叶えると誓おう」


「ありがとうございます」


会場のど真ん中に、巨大な竜が下りて来た。

俺はそいつと対峙する。


「山田、手伝うわ」


「おう、頼むぜ」


ワナビーが俺の横に並ぶ。

頼もしい相棒だ。

さあボス戦開始といこうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る