ビス・ケイリスクの多忙なる日④
端末のけたたましい通知音で、晴光は目を覚ました。三日目の朝だ。
『前々回』では、知らぬところでエリカとニルが密かに『作戦』進行中の朝で、晴光自身は、『記憶提供』を求められる通知を受け取った日。
「……あぁい」
寝起きのだみ声のまま、液晶パネルのスピーカーをオンにする。
『忙しいあなたの隣にワンダー・ハンダー。作業の片手間にワンダー・ハンダー。いつもニコニコ
ピッ
思わずオフにしてしまった。
一秒とたたずに、また端末が鳴る。
『……マナーって知ってるかい、キミィ』
「なんっで、おれの番号知ってんだよ……! 」
『協力者なんだから当たり前だろベロベロバ~カッ! これで晴れてワンダー・ハンダーはきみたちの連絡係に就任したわけだよ。雪の日の犬のように転びまわって喜びたまえ。イエーイ! ピースピース』
「そうなんだ……どうしよう。不安が抑えきれねぇ」
『おやおや、このワンダー・ハンダーAIがどれだけ高性能なのかお分かりでない? 』
ピピッと端末のパネルの上についたランプが赤く点滅した。勝手にチャンネルが起動されて、放送中のニュース番組が流れ始める。
――――……地下での爆発は現在原因を調査中であり、巻き込まれた犠牲者は部隊長ミゲル・アモさんのみとなっており……。
空撮の映像だ。外観はほとんど保たれていたが、黒焦げになった第三部隊舎の入口が見える。
晴光は、ぱかっと口を開いた。
『昨日の夜、晴れて第三部隊はドッカーンされたってわけ。で、お次はこちら』
ニュース画面が閉じられてファイルが展開される。
今しがたメールで送信されてきたデータらしい。いくつかのグラフと、数値が添えられた表のようなもの、よくわからない解剖図っぽい絵が張られていて、そこに赤ペンでマルがされていた。
『これは全員共有のファイル。昨日、君たちがぶっ倒してくださったカマキリマンの検査結果ね。いやー、言われなかったら知らないまんまだったな~』
「おれ、この数字の横にあるのが何の単位なのかも分かってねぇんだけど」
『はいはい。じゃあ素人クンに分かりやすく簡単に説明するとだねェ。これはカマキリマンから採取された脳の検査結果です。カマキリマンは殉職した職員の体を生前の許可を取って造った人造人間なわけだけど~、どうやらこのカマキリマンは、生前『セイズ』に感染していた第一部隊職員なわけですね』
「それを……えっと、放置してたら、どうなってたんだ? 」
『ん~、考えうる可能性としては、カマキリマンがセイズに操作される体の一つになるわけだから、警備員としてはお話にならないよね。スパイも暗殺もしほうだい。こういうバージョンの警備員は何体もいるから、第三以外にも貸し出してるんだ。最悪のタイミングで最悪の働きをしていた可能性はいくらでも考えられる。こうして見つけられて感謝しているよ』
「そりゃよかった」
実感薄くそう言って、晴光はぽりぽり頬を掻いた。
「で? 話はそんだけ? 」
『そんなわけないだろ。せっかちのおバカちゃんだな~。なんかね、ニルくんから、きみに今日の行動の指示が来てるよ。『ハック・ダックに会いに行け。理由は一緒にいたらわかるはずだから』だってさ』
「教官と? なんで」
『さあね! じゃあワンダー・ハンダーの用事はこれまで! いい一日を! 』
お騒がせAIは、最後に『bye! 』とゴシック体で表示すると、律儀に端末の電源まで落としていった。
●
「うわぁ~、昨日のあれは先手を取られてたってわけかぁ」
クルックスは『bye! 』のあとに黒く沈黙した端末をベンチの上に放り出すと、溜息をついて立ち上がった。
シンプルなロッカーから取り出すのは、赤い外套と手袋、ブーツである。もそもそと着替えて、内ポケットに端末をおさめる。
横開きのドアの横にあるパネルに、登録された番号を入力すると、空間短縮移動の原理で、任務地近くに入口が開く仕組みだった。
扉から一歩外に出ると、朝日を浴びて、卵の殻のような柔らかな茶色をした壁が見える。朝露に濡れたハーブの香りが、風に乗ってここまで届いた。
「今日から新しい仕事だもの。がんばらなきゃねっ! 」
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