第46話
会議は夜更けまで続いた。
使う生徒、使わない生徒、何が得意か、何が出来るかを各隊長達に教えた。
また、戦争に参加しない生徒達をタンザナイト王国に避難させほしいと伝えた。
これは明智玉鬼が教えてくれた、世界で最も安全な場所。
タンザナイトまで逃げてしまえばメノウ王国が何か言うことは出来ないだろうし、何かあったとしても帝国とタンザナイト王国が口裏を合わせてくれるらしい。
意外にも話はスムーズに進んだ。
タンザナイト王国に避難するのは流石に驚かれたが、どの生徒がどの隊に入ることや、魔王城までの攻め方などは一時間で決まった。
後に小山内が「元から生徒の能力を把握していたから、大まかに決めていたそうですよ。それに、魔人族との小競り合いは今でも続いているらしいのでルートも元から決めていたそうです」と耳打ちしてきた。
あんなに心を読んで怯えていた小山内も、今では心を読むことに大分抵抗が無くなってきたようだ。
「みなさんの心はかなり荒んでて、読むのは今の方が辛いですけどね」
と語ってが、表情はかなり穏やかな物だった。
明智玉鬼と話をさせてから表情がグンとよくなった。
と心で呟いたら「えへへ、そうですかね」とあざとく笑った。
生徒の成長は、例え自分が関与していなくても嬉しいものだ。
実際に戦場に行くのは、明日がいいか明後日がいいかで少し長引いていた。
拉致されたのだ。私達は今すぐにでも行きたいと言ったが、それは合理的ではないと言われた。
まず、私達は慣れない魔物狩りをしたばかり。体力的にも精神的にもよろしくない。
それに、殺されたわけではなく拉致されたのだ。
すぐに死ぬわけでは無いし、人質として利用してくるならば交渉の余地もある。
今日アクションを出すにしても、雑兵を前に出し、少しでも戦場を荒したり、情報を集めるくるくらいらしい。
会議が終わり、鳴りやまぬ腹を抑えながら部屋に戻る。
教皇のジジイは今日も来なかった。忙しいとはいえ、国の一大事とも言えるのに一切姿を見せなった。
「きっと、私に心を見られたくないんでしょうね」
「……見られて困ると言うのか」
「そうなんじゃないですか?私は、初日と王様がいっぱいきた時しか見てません」
「絶対裏で何かやってる」
多分……薬とか。
「三間隊長さんも、各隊長さん達とかも知らないらしいので、本当に教皇さんが一人でなにかやってるっぽいですね」
……なんというか。
この気持ちを、偏に「嫌な予感がする」でまとめてはいけない気がする。
「防衛大臣が震災中でも仕事しないのと同じですからね」
ちょっとズレているような気がするが、疲れていたので何も言わなかった。
何も言わなくても分かってしまうのが、小山内だけど。
「明日は、どうするんですか?」
「明日……明日か。実は何も考えていない」
結局会議では、私達の出発は明後日に決まった。
一応、生徒に色々言うつもりだし、最後に合同訓練でもしようとしたが……したんだが……。
「戦争前、命を失う可能性がある。最後の一日くらい、休みにしてあげたい。ですか」
「言葉に出すな……なんなんだろうか」
頭の中で何度も何度も考えて、やっぱり分からない。
自分は、自分達は「軍人」になったのだろうか。
ならば、明日も自分の動きくらいは確認した方がいいだろう。
武器は、支給品でいいから荷物の確認はしなくていい。防具は一度訓練で着たから問題ない。
「分からない」
「……」
「覚悟は決まっていた。休みも、昨日したからいい。でも、それは私だけかもしれない」
「分かっていますよ」
「……え?」
「みなさん、心の中では怖がっていたり、早く振羅さんと戦雷さんを取り返したかったり。色々、いろいろ。各々でちゃんと考えてますだから、明日は自由でいいんじゃないですか?先生も、速水さんと話したいでしょう?」
……それも、そうか。
「……最後の一言は余計だ」
「そうですか?」
「そうだ。余計だ」
「そうですか」
独特な距離感。
パートナーは銀子だけれど、なんだろうか。
「小山内は……あれだ。いい教師になる」
「教師?」
「あぁ。相手の、生徒の心を知れるんだ」
脳裏に浮かぶ今までの失態。
もしも心を知れたら、未然に防げたんだろうか。
頭を下げるだけならまだいい。教え子の未来を曲げてしまった、失態。
「……あまりいい物ではありませんよ。これ」
「……それもそうか」
「今日そればっかりですね。それもそうかって」
「頭が疲れているんだ。戦争の会議でも、何を言っていいか慎重に口を開いてたし。手のひら返しが多いってことは、何も考えてないってことだろ」
「それもそうか」
嫌味か。
「それじゃあ、私はこれで失礼します」
「あぁ、じゃあな」
「……ありがとう」
「……どういたしまして」
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