第45話

 戦争とは、国と国のわがままのぶつかり合いだ。


 人間と魔人の戦争なら、お互いの生存権の賭けた戦いだ。

 そこには非道な固定概念しかない。

「人間は死ぬべき」

「魔人は死ぬべき」

 いつからか当たり前になってきた殺意にうんざりする。

 猿と魔物が鋼の塊を投げては振るい、血の色に染まった大地を駆けては逃げては駆けては殺して、動かなくなった。



 神は、知性を持つ者達に殺すことを義務付けた。



 そんな神が、大嫌いだ。

 先生、獅子山先生、七先生、三間隊長、そして何故か小山内さんが、この世界に呼び寄せられたあの大きな魔法陣がある部屋に入り作戦会議をするらしい。

 なんで小山内さんなんだ、みたいな声があちこちから聞こえるけど、殺す訓練の時にいなかったり、先生と何かと話していたり。

 多分、特別な能力を持っているんだろうな。アニメみたいなチート能力……みたいな、そんな能力を持っていてもおかしくはない。だって普段特別扱いしない先生ですら明らかに特別扱いしてるもん。その枠は私だけでいいのに。

 でも、今日の小山内さんはいつもよりイキイキとしているようにも見えた。

 この世界に来て下を向き続けて、ずっと泣きそうな小山内さんが、前の世界よりも笑顔が増えていた。

 その理由は分からないけど、元気そうなら、まぁ……何も言うことは無いけど。



 私達生徒一同は、戦争に行く人も行かない人も、自分で動くのではなく大人達の指示に従い行動する、というのを決めた。

 当たり前だし言われなくてもやっていたと思うけど、経験の無い子供の頭で考えるよりも、何度も戦闘を経験した隊長達の方が判断は的確で、私達の使い方を百パーセント使える。

 戦争に行かない人も、メイドさんや獅子山先生の指示を聞き、万が一に備えるらしい。


 ちなみに、先生は戦争で前線を張り、獅子山先生は戦争に行かない人と一緒に残り、皆を守るそうだ。

 先生と一緒に前線にいけて嬉しいような、危険だから先生だけでもここに残ってほしいと思ってしまうような、複雑な気分。

 まるで、夫が戦争に行く妻みたいな気分だ。私も戦争に行くけど。



 ……さてと。


「火南」

「ッ!?な、なんだ」

「そんな驚く?まぁいいけど。一緒に響の所に行くよ。翼は……多分、もう行ってるでしょ。行こ」


 二日間ずっと寝ていた寝坊助に。

 遅すぎる予知夢を見た友人に。


「…………」

 火南は、やっぱりどこかボーっとしていて、先程の訓練で疲れたのか、それとも魂でも抜かれたのか。

 ……なんだろ、さっきも思ったけど、火南らしくなくて、ムカつく。


 首筋に右手を添える。

「ヒョウッ!!」

 もちろんその手は能力で冷やしまくった冷たい冷たい手。


「フ……ハハハ!」

 意味の分からない火南の奇声に、笑いが堪えきれない。

 やばい、なんか変な壺に入った。なんだこれ凄い久しぶりな感覚だ。

「ハハハハハ!!ひょう、ひょうって言った!」

「……なんだよ」

「なーにクールぶってんの!ひょう!今日テンションおかしいよ!」

「テンションおかしいのは銀子の方だろ!」

「確かに!あははは!」


 壊れたみたいに笑った。

 不思議な気分だ。

 一周感減った笑みを、今全部取り返すようにお腹から笑った。


「あー……疲れた」

「……そうか」

「またクールぶってる。いや、単純に不機嫌なのか」

「不機嫌って……そんなことは」

「そんなことは無くてもあっても、今は響の所に行くよ」



 久しぶりに、火南と歩いた。









 焼けた思いは、未だに焼き続ける。

 焦げ続けても、焦げ続けても。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る