第43話
小山内玉萌は自分の胸に手を当て、クラスメイト達の顔と心を覗く。
皆が皆顔を俯かせて表情を見ることは叶わなかったが、心はどれも「人を殺さなくていいなら」とか「自分が傷付かないなら」「楽が出来るなら」という、弱い心がほとんどだった。
それでも「急子ちゃん大丈夫かな」「
確かに、戦うだけが戦争じゃない。
私みたいに情報を得る人がいれば、回復担当やご飯を作るとか身の回りを任せるという人だっていてもいい。
(クラス一丸……とまではいかないにしても、皆で力を合わせれば、どんなことだって出来る)
先生の、先生らしい心の声が見えた。
「先生らしい」なんていうけれど、美咲賀斗琴という人は、体育祭や文化祭とかではそんなこと一切言わないのに。
あ、でも。この声は心の声だから、実は心では思ってたとかありそう。
意外と熱い先生だなー。
戦争に出ると言った人達は、闘志がみなぎっていたり、不安になりつつもやらなきゃと思っていたり、中には流された人もいる。
速水さんは……特に問題は無い。いつもみたいに、先生の為にと奮闘している。
なんとなく心配しているのは穴隠さんで、元々運動するのが苦手なのに、泣きながら人を殺し、今もこうして前に立っている。武器の扱いが上手だから、何とかなるとは思うけれど……。
ただ、一番心配なのは見玉さんだ。
心が読めない?表情を見れば分かる。そもそも私の能力は人を見れば心が読める能力だから、ここ一週間でどの表情がどの心かも分かるようになってきた。
あの顔は、仕方ないとかそういう表情で、活力も無ければ生きる意味すら無いような顔。
やっぱり、人を殺したから。
殺人は、人の心を大きく歪ませる。
それは、前に出ている人とここに止まる人の心を見れば分かることだった。
その歪んでる心は、見玉さんも同じ。
「……私が、力になってあげないと」
☆
時は同じくして、誘拐された振羅美剣と戦雷急子は魔人族に抱き抱えられながら空の旅を過ごしていた。
しかし、飛行機に乗せられたり浮遊魔法で浮いたりしたとして、そこに「誘拐された」と付いたらそれはもう「旅」ではないのでは。
二人は動けなかった。喋ることも出来なかった。
超高速で動いているせいで風をもろにくらい、呼吸すること所か目も開けられない状態だった。
また、飛行機みたいに椅子ではない、人の腕の中で無理やり抱えられて飛んでいるせいで暴れて自分達が落とされたりでもしたら即死以外ありえないのでおとなしくするしかなかった。
まるでドラ〇ンボールみたいな飛び方しやがってと悪態付きながら何か抵抗するすべはないかと探るが、自分が出来る事なんてせいぜい抱えられてる腕にしがみ付くしか出来ず、己の無力さに苛立つ。
「おい」
突然男が話しかけてきた。
突然のこと過ぎて特に気にしていなかったが、腕が外国のボディービルダーみたいに太いからなんとなく男の人だと思っていた。その予想はあっていたようだ。
だんだんと減速しているように感じ、これくらいなら目が開けられると思いゆっくりゆっくりと開けていく。
「―――なんだ、これ!?」
振羅美剣は、口の中に大量に空気が入るのを感じながらも、驚きの声を上げた。
眼前に広がる曇り空と青い海。
それだけ聞けば幻想的にも見える光景だが、なんと雲の色はおどろおどろしい朱色に染まっていた。
極めつけには……。
自分達の何百倍もの大きさしている、黒い竜。
大地のように広がる両翼、魚とは異なる鱗。
伝説の生物がすぐ目の前にいて、空想上のカッコよさよりも、見た目の邪悪さが勝り、慄く。
隣で抱えられた急子も同じように目を開いたのか「なに、これ」と呟いた。
「おい、お前達」
再び男が声を掛けてきた。
返事をした方がいいのか分からなかったが、男は勝手に進行方向を下へと向けた。
方向は、あの巨大な竜。
「今からあれに乗り、魔王城へ向かう」
魔王城。
それは、RPGや物語でしか出てこない、架空の言葉だった。
二人は、何度目か分からない「やっぱり異世界なんだ」を体験した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます